第106話 エルフさん達をどう鍛えるか大会議
女性陣の力作を堪能し終わり、目の前にはデザートとお茶が並んでいる。
フルーツを大量に使用したタルトだ。石窯で焼かれたそれは、日本で食べたそれよりひと味違う……気がする。
少なくとも、プロ顔負けの出来であった。
さて、食後の一息……といったところで、突然咲良が立ち上がった。
「第一回、エルフさん達をどう鍛えるか大会議! はい拍手!」
「わーぱちぱちぱち」
「ぱちぱち」
妙にテンションの高い咲良とレイア、そしてそれに追従するヤスナ……という図だ。
イリスは、我関せずといった感じでティーカップに口をつけており、アンナロッテとマリナは、慌ててティーカップを戻すも完全に出遅れていた。
エルノーラは、ほほえましそうにそれを眺めるのみだ。
シンシア? シンシアなら俺の肩で寝てるよ。
……当然二頭身で。
ここにある食物は、他の精霊の力が強くかかった物であるせいかお気に召さなかったようで、食事も摂らずに早々に寝てしまったのだ。
まぁ、精霊にとって食事は単なる嗜好品であるわけで……食べなかったからといって、どうなるわけでもないからな。
咲良は、料理を経て妙にレイアと仲良くなったようだ。
だれとでも直ぐに仲を深めるのは咲良の美点ではあるのだが……。
それにしても早すぎないか?
波長が合うのだろうか?
「先の話し合いの結果、私たちの今後の行動は、エルノーラたちの頑張り次第となったわけだけど……当面はここエルフの里に留まって、エルフさん達に戦闘訓練を施すことになりました。その方向性について話し合いたいと思います。私たちのリーダーとして、ある程度の方向性を示して貰ったり、最終的に決めて貰ったりはするけど、なにもかも恭弥におんぶにだっこ、ってわけにはいかないからねー」
ちょうど、意見を聞きたいと思っていたところでもある。
渡りに船というやつだった。
気を……利かせたのだろうな。
「ミレハイム王国騎士団の訓練メニューなら横流しできますが……? さしたる機密情報でもありませんし」
「ストーップ。私たちの世界には、こういう時にどうすればいいのか? 既に答えが出ているのですよ」
咲良を見る。
見事な、どや顔である。
答え。出てたっけ?
少なくとも、地球にエルフはいなかったような気がする。
何となく嫌な予感がする。
「異世界の戦闘教導か……それは、私も興味があるな。基本的に狼人族は、『戦いの中で強くなれ』とばかりに、戦闘を繰り返して己を高めるからな」
「すべて平等に価値が無いウジ虫共を、泣くことも笑うことも無い冷徹な戦闘マシーンに……」
「やめろやめろ! ストップ!!」
「じじいの○○みたいに××なエルフさん達も……って、痛っ!」
チョップでツッコミを入れる。
「お前? 意味わかっていってるのか!?」
「じじいの○○? とはなんでしょう……?」
「私も知りませんが……キョーヤさんの反応を見る限り、あまり連呼しない方が良さそうですね」
【自動翻訳】も万能ではない。
この世界に存在しない言葉や、言った本人が意味も知らず発言している場合は、翻訳されない。
伝わらなくてよかった。
「なるほど。精神的に負け犬になっている連中の性根をまずたたき直すと。そういうことか?」
イリスも、どうして今の話で理解できるんですかねぇ。
「そのとおり! まずはトラウマを解消させないと、どうしようもないからね!」
たとえが悪いが、咲良の言うことはもっともだ。
鍛錬を重ねても人間族恐怖症を直さない限り、どうしようもない。
それに、鍛錬は継続してこそ力になる。
精神的に脆ければ、ちょっとキツくしただけで逃げ出したり投げ出したりするだろう。
そうすれば、途端に詰みだ。
寿命が長いせいか、のんびり者が多いらしいしな。
精神修行となれば、俺の守備範囲ではあるのだが……同じく、精神修行を行っているだろうマリナにも話を聞いてみたい。
水を向けてみると……
「いえ、【神聖魔術】を使って人々の役に立つのが修行そのもので、精神修行の類いはあまり……。当然、【神聖魔術】に関する修行はしますが、私の場合はちょっと特殊ですので……」
とのことだった。
キリスト教圏は滝に打たれたり、千日回峰行に代表されるような荒行は無いらしいしな。
宗教イコール精神修行というのは短絡が過ぎたか。
「まぁ、咲良の例はちょっとアレだが、言いたいことはわかった。時間も無いことだし手っ取り早くいこう。少なくとも、戦闘能力を持つ連中は何とかなるだろう」
失敗したら目も当てられないが。
これまで目にしてきた連中を見る限り大丈夫だろう。
「精神的なフォローはキョーヤさんにお任せするとして、どう鍛えるか? が問題ですね。やはり、ミレハイム王国騎士団の訓練メニューを……」
「ヤスナの申し出はありがたいが……話を聞く限り、単純な白兵戦が得意なのはダークエルフで、エルフは魔術が得意なんだよな?」
「細剣とか弓矢も得意だけどね。両手剣や槍を持って戦うのは、ダークエルフかなぁ」
レイアの視線を追ってみると、部屋の隅に長弓と細剣が置かれている。
それも一本や二本ではなく、それぞれ十本以上ありどれも使い込まれていた。
エルフだけで迷宮に潜らせるにしても、前衛をどうするか……。それが問題だ。
「そういえば、レイア達が迷宮に潜ったとき前衛はどうしてたんだ?」
「あの迷宮と木属性の魔術は相性がいいし、それに私とリリアノだけなら、どうとでもなるしねー。……森林系の迷宮限定だけど」
まぁ、火と氷には弱いからな。
壁に専念すればそれなりに防げるとは思うけど、それでもやはり土属性などと比べれば一歩譲るところではあるだろう。
森の中で防衛に専念すれば強いだろうが、かつてゲルベルン王国がやったみたいに、森自体に火を放たれては途端に詰んでしまうからな。
それに対する備えさえあれば、問題なさそうだな。
対抗策としては、咲良に頼むのが一番だろう。
設置型の魔術を開発して、定期的に魔力を注ぎ込む形にすればいい。
完全に火を防がなくとも、炎系統の魔術を阻害するだけで十分だろう。
生の木って意外と燃えにくいからな。
迷いの森は、森が深いおかげであまり草の類いは生えていないことでもあるし。
どちらかといえば、コケやキノコが多いイメージだ。
火矢の類いであるならば、風や水の魔術で十分何とかなるだろう。
ここの結界ほどの安全性は無いだろうが、精霊の力を借りずに維持できる点は評価したい。
「炎を防ぐ結界が必要だな。咲良、頼めるか?」
「任されたー。けど大丈夫かな?」
「まぁ、精霊の代わりに、俺や咲良に依存する形にはなるけどな。でも、直ぐに要らなくなるし問題ないだろ」
あるに越したことはないが、すくなくとも必須ではなくなる。
「えっと、水の魔晶石さえあれば、魔導具で何とかなると思いますよ? 街壁や城壁に使用されていますから。ミレハイム王国の軍事機密ではありますが、ハインツエルン王国には技術提供していますし、同じく技術提供という形で……。あ、炎対策がなされているということ自体は、機密ではないですよ? 念のため」
「つまり、私次第というわけですね……」
そうつぶやくエルノーラの役割は重大だ。
俺がエルノーラ達に出した課題の一つは、開国だ。
ただ、コレに関して言えば、『俺が協力するための条件』というよりは、エルフ達が解決するべき課題だ。
結界が無くなった状態で、いつまでも鎖国を続けることはできないだろうし、どのみち開国することになるのなら、前向きに、自分たちからという事だ。
ゲルベルン王国の残党に暴き出されるよりは、ハインツエルン王国やミレハイム王国、可能ならドワーフ王国と国交を結んだ方がいいだろう。
俺の視点だけで言えば、ミレハイム王国もまともとは言えないが……。人々の暮らしぶりは良かったと思うし、いい人も多かったからな。
出会った一般市民を含めてまともな奴がいなかったゲルベルン王国との差がそこにはあった。
ドワーフ国への道のりは高く険しいし、ミレハイム王国との距離は遠い。
だが、ゲルベルン王国が落ちた今となっては、十分に交易が可能になるだろう。
距離的にいえば、ハインツエルンとそれほど変わらない事でもあるし。
相手があることなので、エルフ側より相手国への交渉の方が問題だが……
政治的な分野は、エルノーラ達に頑張ってもらうしかないわけだが、恐らく問題ないだろうと思う。
交易品の品質は恐らく非常に高い物になるだろうから。
戦闘寄りの才能を持つレイアでさえ、あの腕前なのだしね。
■改稿履歴
あまりに、ネタが分かりにくい上にアレだったので、少々修正しました。
PTはねぇ……
開国のくだりですが 条件では無くて、エルフ達が解決するべき課題であることを強調して、少し説明を追加しました。
わかりにくくてごめんなさい。




