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第105話 教導内容検討

 お茶を飲みつつみんなで一息ついていると、レイアの家にエルノーラが一人でやってきた。

 噂をすれば……というやつだ。

 

「本当は、村を上げての歓迎会といきたいところだけど、色々難しくて……」

「気にするな」

 

 現状恐怖の対象となっている俺達の歓迎会など、誰も幸せにならないだろう。

 

「とはいえ、客人をもてなさないというのも、長老として見過ごせないところでもあるのよね」

 

 長老という単語に似つかわしくない艶やかさで、ため息をつくエルノーラ。

 年齢が気になるが、さすがに聞くわけにもいかない。

 こっそり見ようにも、【森羅万象】は通用しないし。

 まぁ、たとえ見る事ができたとしても、興味本位でのぞき見るようなことはしないけどな。

 

「なら、ここにいるメンバーだけで食事会って事でどうだ?」

 

 と提案してみれば――

 

「しばらくお世話になるわけですから、キッチンさえ貸していただければ、私も何品かお作りします」

「アンナ! それ、名案! どうしても旅の途中って、気合いの入ったよそ行きの料理を食べて貰う機会って無いからね!」

 

 とアンナロッテと咲良が妙に乗り気で調理を申し出たのを皮切りに、他の女性陣もやる気をみせる。

 料理があまり得意でないはずのイリスも、力仕事をかってでている。

 話によると、最近は少しずつ練習を始めているらしい。

 

「よし、なら俺もレストランの息子として――」

 

 本気を出そうかと思ったのだが、

 

「恭弥は審査員ね!」

「疲れてるだろうし、客間で休んでて」

 

 とキッチンへの立ち入りを禁じられてしまい、いち早く今夜の寝床となる客間へと案内されてしまった。

 追い出される直前に、アイテムボックスに入っていた食材もいくらか置いてきたので、何もしないという事だけは避けられたように思う。

 

 まぁ、丁度良い。

 俺は俺の仕事をしよう。

 

 戦闘能力を持つエルフに関しては、イリスと俺でガンガン鍛えればその分だけ強くなるだろうから、あまり気にしていない。

 問題は、生産特化のエルフだ。

 

 俺は、こいつ等にも戦う力を持たせようと考えている。

 

 生産特化のエルフが戦えない理由は、戦闘系スキルの習得ができないからだ。

 

 スキルに頼らずとも戦闘はできる。

 できるが、スキル持ちと比べると断然弱い。

 それがこの世界のルールだ。

 

 エルフの肉体性能が高ければ、レベルを上げて物理で殴るという手も使えなくもないが、肉弾戦が得意なのはダークエルフであり、どちらかといえばエルフは魔術に特化しているのだ。

 魔術的な性能が高い分、肉体性能はそれなりだ。

 

 じいさんの技を伝えても良いが、基本的には対人向けの技であり、魔術や魔法なんて無い世界の技だ。

 元の世界でも、ミサイルや絨緞爆撃なんかには太刀打ちできないだろう。

 単発の銃くらいには勝てるかも知れないが、マシンガン相手でも厳しいかも知れない。

 

 この世界でミサイルや爆撃にあたるものが、魔術やスキルなわけだから、どうしても足りない。

 

 そこで考えたのが、攻撃系スキルではないスキルで戦闘に参加できないだろうか? ということだ。

 例えば、【錬金術】のスキルレベルが高ければ、金属の鎧や剣を無力化できるかも知れない。

 ……手で触れている必要があるけど。

 

 魔物の大量発生で大量にスキルを手にいれたし、その中になにか役立つスキルが無いか探して、良さそうなものがあったならそれを教えようかと思っている。

 

「メニューオープン」

 

 スキル一覧を見ると、大量のスキルが並んでいた。

 一番上には、よく使うスキルと、耐性スキルをまとめたフォルダがある。

 大量のスキルを手にいれたおかげか、【メニュー】のスキルレベルを上げていないのにもかかわらず、アイテム欄のように検索窓とフォルダ分け機能が増えていた。

 それを使って、今まで使っていたスキルと、割と重要そうな耐性スキルだけを拾いあげておいたのだ。

 

 実のところ、あまりに大量すぎて、手にいれたスキルのすべてを調べきっているわけではない。

 ぱっと見で、300から400はあるからな。

 現状、使うんだか使わないんだか分からないスキルがいっぱいある状態だ。

 

 初めは、スキル数が増えすぎて頭打ちになることを危惧していたが、この調子だと大丈夫かもしれない。

 設定を緩和するつもりは無いけど。

 

 能動的に発動するスキルを、一個一個試すには時間が足りない。

 自動発動系の条件を満たして検証するのはもっと大変だ。

 それに、魔術や魔法系スキルは既に手にいれているし、生産系で必要なものも同じく手にいれてしまっている。

 見知らぬスキルがレベルアップしたら、その時に確認する感じで良いだろうと思っていたのだ。

 常時発動系のスキルは勝手に上がるし、自動発動系のスキルも発動すれば同じく上がるからな。

 

 そう、気楽に考えていたのだが、とりあえず一覧の確認くらいはするべきだと。

 これは、良い機会なのだと自分に言い聞かせながら、リストを眺める。

〈【毒撃】:一定確率で《状態異常:毒》にする攻撃を放つことができる。毒の強度は、スキルレベルに依存する〉

〈【蜂の一撃】:スキルを発動させた状態で、素手による一撃を三回当てると即死させることができる。スキル発動時間1ミリ秒〉

〈【ビースティング】:魔力による針を作成することができる〉

 

 などは、魔物から得たスキルって感じが前面に出ているな。

 スライムの【分裂】などに代表される種族固有スキルは、【完全見取り】で覚えることができないが、それ以外であればある程度覚えられるようだ。

 ただし、【溶解液】→【毒撃】といったように、人間用にアレンジされるスキルも存在する。

 【毒撃】毒の魔力を伴った一撃を放つスキルであって、体内で毒や溶解液を作るわけではない。

 【蜂の一撃】も種族固有スキルに見えて、【死霊魔法】と【闇魔法】の一種で魂に直接ダメージを与える技に変わっている。

 

 また、魔物たちも集団というだけあって、集団戦闘で利用できそうなスキルがちらほらと。

 

〈【アンパッサン】:幻影や残像に対しても攻撃を加えることで相手にダメージを与えることができる。ただし、発動後の一定時間は、自分自身の幻影に対してもダメージが通るようになる。クールタイムは、スキルレベルに依存する。クールタイム一時間〉

〈【キャスリング】:『戦車』の称号を持つ者と位置を入れ替えることができる。ただし、入れ替わる対象の同意が必要。入れ替わることが出来る距離は、スキルレベルに依存する〉

〈【プロモーション】:有事の際、一時的にステータスのどれかを爆発的に上げることができる。持続時間は、危険度とスキルレベルに依存する〉

〈【指揮】:自らの配下にいる者のステータスを増加させる。増加量は、スキルレベル×5。発動者は対象外〉

〈【応援】:発動中、対象者全員のステータスを増加させ、傷と魔力を癒やす。発動には【応援】を続ける必要がある。増加量は、スキルレベルと本人の技量に依存する。発動者は対象外〉

 

 【応援】くらいなら、戦闘能力が無いとされるエルフでも覚えられる者がいるかもしれないな。

 【キャスリング】などは戦闘スキルではないが、特殊すぎてどう教えていいのか分からない。

 

 まぁ無難にいくなら――

 

〈【薬品調合】:素材から薬品を作り出すことができる。上位スキル【錬成】に経験を統合しますか? Y/N〉

〈【魔法薬作成】:自らの魔力を利用して、魔法薬を作り出すことができる。上位スキル【錬金】に経験を統合しますか? Y/N〉

〈【手当て】:調合薬及び魔法薬の効果を増加させる。増加量はスキルレベルと、本人の技量に依存する〉

 

 このあたりのスキルを覚えさせて、完全に後方支援にまわらせるといった感じだろうか。

 【鍛冶】【彫金】【大工】はエルフ族よりドワーフ族の方が得意らしく、逆に【木工】【革加工】【縫製】などは、エルフの方が得意となる。

 【細工】スキルや【器用】スキルは双方に発動することが多いようだが。

 

「武器や回復薬での後方支援は試すとして、なにか決め手になるようなものがあればなぁ……」

 

 と探していて見つかった。

 俺なら絶対にとらない選択肢だが、これなら攻撃スキルではないから習得もできるだろう。

 生産系スキルでもないが、どちらかと言えば生産寄りのスキルだ。

 エルフといったら森の狩人に並んでコレというイメージも手伝って、あっさりと解決策が見つかった。

 

 戦闘職の鍛え方次第だが、迷宮から魔物が溢れてきたとかその程度であれば、コレで何とかなりそうだな。

 

 何とか解決策が見つかり肩の荷が下りた俺は、イリスが俺を呼びに来るまで他にも有望なスキルが無いかを探し続けた。

 

 

 

 

 

 

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