第101話 村人との心温まる(?)交流
前回までのあらすじ:
コーヒーの木を死守するために、エルフの森へ。
なお、エルフさん達は人間が怖い模様。
桜並木を進む。
湖から少し離れると、葉桜が目立ち始めた。
時期がずれているのかと思い振り向くと、あんなに綺麗に咲いていたはずの桜がすべて葉桜へと変わっていた。
「これは……?」
「この辺りの樹は一年間を30日から60日程度で終わらせるから、花が咲いている時間はかなり短いの。その内の大半は収穫時期に割り当てられてるし」
精霊の力で一年間を短い時間で終わらせると言っても、収穫時期がほんの数時間では困ってしまうため、実りの時期は長く、それ以外の時期は短くと言うわけか。
桜の花は実りの時期の前段階。まさに矢のように過ぎ去ってしまうのだろう。
見物したくてもこう短くてはね……。見物客がいないのも納得だ。
単純に見飽きているという可能性もあるけど。
なににせよ収穫時期になるまで立ち入るような場所ではないのだろう。
ふと、レイアの言葉がなんとなく引っかかった。「この辺りの樹は」と言っているところを見ると、植物によって変わるのだろうか?
栄養や早送りの弊害は、精霊の力で何とかなるにしても色々回りくどい気がする……。
と疑問に感じていると、ふと木属性の魔術や魔法の特性を思い出した。
魔術や魔法で無理矢理成長させた植物は、魔力の供給を切ると元に戻ってしまう。
食料を得ると言う目的では、それは駄目なのだ。
「木属性の魔術で無理矢理成長させても、元に戻ってしまうよな? その辺りどうしてるんだ?」
俺の魔法は魔術の発展でしかないため、現象としては同じだ。あえて魔法を使えることを話す必要もないため、ここは魔術と言うことにしておこう。
「ああ、それは人間の勘違いかしら。木属性の魔術は植物の状態を変えているだけで、成長させているわけではない……かしら?」
いま、最後の「かしら」をつけ忘れそうになっていた気がするな。
口癖ってわけでもないのか? キャラ作り?
「なるほど。葉を鉄のように固くして飛ばす、木を柔らかくして曲げる。そうした状態変化と同じく、種を成長した状態に変化させているだけで、実際に成長させているわけではないってことか?」
「理解が早い人間は好ましいかしら。ここで私たちがやってるのは、樹の生命力や栄養の操作によって擬似的に季節を早回ししているだけかしら」
植物に回復魔術をかけたり、『エナジードレイン』をかけたりするってことか?
木魔術にそんな物があるかは知らないけど、あれば是非覚えてみたいところだ。
いや、「操作」って言ったな。
樹から花へ花から実へ、生命力や栄養を移動させるのも含めてのことだろう。
植物を知り尽くし、どうすれば良いのかわかっている樹精霊ならではというわけか。
ちょっと俺には厳しそうだな。
余談だが、【闇魔術】である『エナジードレイン』はその名の通り同種族の生命力を奪う魔術だ。
俺が植物に使っても効果はないし、当然魔物にも効果はなく、人間族ではないイリスやレイアにも効果はない。
効果があったとしても、彼女たちに使う気はないけどな。
桜が完全に散り青々とした葉に変わる頃、マップに俺たち以外の光点が現れた。
敵性を示す“紅”ではないので、十中八九村人だろう。
こちらが何も言わずとも一番近い光点は避けるような進路を取っているところを見ると、俺と同じように【気配探知】スキル持ちか、イリスのように五感で感知しているのだろう。
そんなことを考えていると――
「そろそろ、他の村人とすれ違う可能性があるから、注意……いや、覚悟してね」
とレイアが警告してきた。
話し合いの場とやらまで一切の村人を避けて通ることは不可能だろうし、ここまで騒がれずに来ただけマシとも言える。
「ああ、俺たちから揉める気はないから、説得は任せるよ」
俺のセリフに、他の面々も慎重に頷いた。声に出して同意しなかったのは、近くに他のエルフがいると聞いて気を使った結果だろう。
レイアたちにはそう言いつつ、念のためシンシアには念話を飛ばしておく。
「(シンシア。パニックになっていきなり攻撃される可能性もあるけど、そうなった場合は無効化……あるいは無力化を頼む。俺たちが手を出すと収拾がつかなくなる可能性があるからな。信仰の対象になっている精霊なら、問題にはならないだろう。――契約者は人間だけどな)」
「《わかったわ》」
恐慌状態になったら人間何をするかわからないからな。
俺が悪いわけではないけど、人間という種族自体に恐怖を感じるのだろうしそこはある程度割り切っておくしかない。
レイアたちに期待しようじゃないか。
†
「ひっ!! にっ人間っ!?」
「いやぁ! こないで!!」
なんつーか、ゾンビ映画のゾンビになった気分だな。
もしくは、パニック映画のモンスター。
ぷるぷる。ぼくわるいすらいむじゃないよ?
なんつーか、“蜘蛛の子を散らすよう”というのは、こういうことをいうんだろうなぁ。
あっという間に逃げ去ってしまった。
さすがは森の民。ぱっと見戦闘力がなさそうでも、木々の間を縫って逃げる速度は一流のそれだ。
あまり理解りたくはないが、ゲルベルン王国が森を焼いた理由が窺い知れようというものだ。
敵対されるというのも面倒だが、ここまで怖がられるのもなぁ……。
「えーと、話をする間もなかった……かな?」
咲良は目を白黒させつつ、レイアに視線を向ける。
「私としては、変に攻撃的にならなかったってだけで上出来と言ったところだけど」
ボス部屋での騒動を思い出したのだろう。レイアは咲良の視線を受け流し、白い目を他のエルフたちに向けると、村人の恐慌を見て自分たちを改めて省みたのか、気まずそうな表情を浮かべる。
このまま放っておくともう一度謝罪が行われそうだ。
それも面倒なので止めようとしたが、それを察したのか彼等から出てきたのは謝罪以外の言葉だった。
『わ……我々が先んじて長老と村長に話をしてきましょう』
『ええ、お願いね。関係者には議事館に来てもらえるようにお願いね』
『わかりました』
レイア以外のエルフは方々に散って行ってしまった。
エルフの中でも精鋭であるらしい彼等は、先程逃げた村民よりも尚早く森を駆けて行き、あっという間にその姿を消してしまった。
ステータスを見る限り、あそこまでの速度は出なさそうだけど……。エルフの種族特性か何かだろうか?
会話の内容は常に通訳し続けているので、彼等が凄い勢いで木々の間に消えたとしても咲良たちが首をかしげることはない。
「じゃあ、私たちは先に行って待っていましょうか?」
しばらく行くと、エルフたちの住居らしき建物が見えてきた。
しんと静まりかえっているのは、家の中で気配を殺しているのか、それとも森の中に逃げたのか。
まぁ、気配察知でわかるんですけどね。気配がある家は半分ほどと言ったところだろうか。
外には村人の気配は一切ない。
怖がらせるつもりはないけど、なんか可哀相になってきたな。
かといって引き返してあの迷宮を好きにさせるわけにもいかないしな。
できれば、コーヒーの生産を任せたい。
っていうか、この森の中にコーヒーの木があるなら是非買って帰りたい。共通硬貨を使えるかどうかわからないけど。
そういうモチベーションでこの場にいるのだし、あらかじめ想定されていた事態でもあるわけで。
進むしかないのだ。
「なんとなく木製住居なイメージだったけど、石とか土で作られてるんだな」
「森と共に生きる私たちが、木を切り倒して家を建てるわけにもいかないからね」
なるほど。そう言うものか。
先の通りぽつんぽつんと木々の間に不規則に立つ家は、石を削り出したものか、日干しレンガだ。
石を削り出して作られた家は、蔦のような植物が這っており、石より緑のほうが成分的に多めだ。
日干しレンガの方には蔦は這っておらず、蔦があるのは石造りの家のみのようだ。
なんとなく、同一種族の文化圏で建築様式が混じってるのが珍しいな……。
そう思って聞いてみると、石造りの家はエルフ様式、日干しレンガの家はダークエルフ様式らしい。
今でこそダークエルフはこの森から姿を消しているが、昔は普通に交流が行われており、部族間(種族間?)の結婚もされていたため、このようになっているとのことだった。
「それなら、ダークエルフとエルフの混血からダークエルフが生まれたりと化しないのか?」
「混血しても、エルフとダークエルフが混じったりはしないわよ? 当然、エルフ同士が結婚したらエルフにしかならないし、その逆もまたしかりね」
なにそれ、メンデルさんに全力で喧嘩売ってるな。
咲良も同じことを思ったのだろう。微妙な表情をしていた。
可能性としては、遺伝子以外の理由でエルフとダークエルフが分かれているということだろうけど。
「獣人族はどうなんだ?」
ふと気になったので、イリスに水を向けてみる。
「種族という意味では、エルフたちと変わりません。必ず両親どちらかの種族になります。毛の色などは、私のように両親と関係のない色で生まれてくることも多いですが」
なるほどな。たとえば狼人族同士であれば、狼人族しか生まれてこないと言うことか。
ウサギの耳かつ、狐のしっぽと言った特徴の獣人はいない……と。
「ところで、人間だといろんな場所に街や村があるけど、エルフさんたちの村ってここだけなのかな?」
「他にもあるけど、この森の事件以降他の村も森を閉ざして交流を絶ってるわね。エルフ同士であっても村同士の交流もないし……。とは言いつつ、ここ程厳重ではないらしいけど」
なるほど、ダークエルフという種族はこの森からは姿を消したけど、他の森にはいるかもしれないのか。
なんとなくだけど、ほっとしたな。
すみません、リアルが詰んでおり更新が滞り気味です。
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ありがとうございます。




