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第98話 精霊信仰

 転送されてきたのは、線の細い儚げな印象の男女だった。

 一番最初に転送されてきた魔術師風の男は、飛ばされて来るなりなぜか勢いよく地面にキスをした。

 

 何事か? と見ていると、遅れてやってきた他のパーティメンバーに慌てて助け起こされたようだ。

 

 装備は、細剣、弓、それに杖。装備だけで判断するなら盾職や斥候職らしき者はいないようだ。

 服装や装備こそ違うが、皆同じ特徴を持っている。

 長い耳を持ち、髪色は金や緑色、それに薄いピンクでいずれも色鮮やかだ。肌は雪のように白く、皆一様に線が細い。前線基地にいた筋骨隆々で日焼けした冒険者たちと比べると、ここまでやってこれたのが不思議なくらいだ。

 

 強いて例えるなら、ファンタジーに付きものの――

 

「まさか……エルフ?」

 

 マリナさんが、驚きの声を上げる。

 おお! やっぱりエルフなのか。はじめて見た……こともないな。長い耳には見覚えがないが、この儚げな特徴……一度どっかで見たような……? どこだったか……。

 

「――――――。――――――?」

「――――――!? ――――――!!」

 

「あの人たち何を言っているのかな? 言葉はわかんないけど、あまり友好的じゃあなさそうかなーなんて」

「エルフたちは共通語ではなく、主に別な言葉を使うそうです」

 

 咲良の疑問にマリナさんが答える。

 

 

 ふむ。それなら……。【自動翻訳】のスキルレベルを上げてみるか。

 やはり、SPは残して置いて正解だった。

 

 ──────────

 レベル2

 獣人語

 ──────────

 

 だめか。もう一回。

 出るまでガチャを回す。まるで、廃課金ユーザーみたいだな。

 それよりは、確率が高いとは思うけど。

 

 ──────────

 レベル3

 エルフ語

 ──────────

 

 よし。二回で引き当てるとは、運が良いな。

 

『ちっ、何でこんなところに人間族が……?』

『まさかこんなに早くここを嗅ぎつけてくるとは……』

『まさか、村の場所が……?』

『いや、そこまでは大丈夫だろう……。だが……』

 

 エルフ語でぼそぼそ相談しているようだが、【自動翻訳】レベルを上げ、更には魔力で聴覚を上げている俺には丸聞こえだ。

 男の目に剣呑な光が宿るよりも早く、【森羅万象】で連中のステータスを確認する。

 ――魔力と素早さは高いが、総じてレベルが低すぎるな。

 

 ある程度は俺たちが始末してきたとはいえ、良くここまで辿りつけたものだと思う。

 

『だいたいアンタたちが何を考えているかわかるけど、それを抜いた瞬間に引き返せなくなるぞ?』

 

 【自動翻訳】は、普通に話すとデフォルトに設定されている大陸共通語になるが、意識することで切り替えることができる。

 

 俺は覚えたばかりのエルフ語で、剣の柄に手をかけた男に警告する。

 こちらには敵対する意思はないけど、剣を抜いてかかってくるなら話は別だ。無抵抗主義じゃあないからな。

 

『なにを――』

 

 男が激昂するより前に、(もや)から更に人が転送されてくる。

 新たな人影は、転送されて来るなり声を張り上げた。

 

『ちょっと! 皆さん! どうして勝手に先に行っちゃうんですか!?』

 

 ああ、エルフってどっかで見たことあると思ったら……。

 

「って、ああっ! あのときのお客さん! 何でこんなところに!?」

 

 以前都市セーレで世話になった、針子のお姉さんでした。

 初めて会ったときは、その特徴的な長い耳は長い髪の毛に隠れており見ることができていなかった。

 しかし、今は頭につけたサークレットのお陰で、彼女もまたエルフなのだと言うことがはっきりわかる。

 

 こちらは共通語で話しかけられたので、共通語で返すことにする。

 

「あの時は世話になりました。ところで、そちらの皆さんは仲間ですかね? こっちには敵対する意思はないんで――」

 

 皆まで説明するまでもなく、状況を察した針子さんは他のエルフたちをなだめ始めた。

 っていうか、割と素直に言うことを聞いているな。実のところ彼女が一番偉いのだろうか?

 それにしては置いてけぼりを喰らっていたようだけど。

 

 相変わらず彼女のステータスを見ることはできないので、こうして推察するしかないけど。

 

 ちなみに、針子さんの隣には、鮮やかな緑髪の女の子が浮いている。

 シンシアで毎度おなじみの、二頭身(省エネモード)で。

 

「(あれは……? 精霊か?)」

「《木精霊(ドリアード)ね。こういう森なんかの木の多い場所では無敵なんじゃあないかしら?》」

「あれ? お(にー)さん、精霊使いだったの? 前にあったときには、そんな感じしなかったのに……?」

「あれ? 見えてるんですか?」

「そりゃあ、私も精霊使いだし【精霊の目】位はもってますって」

 

 確かに針子さんの目はしっかりとシンシアをとらえている。

 

 【精霊の目】の発動を確認したが、残念ながら新たにスキルが増える感覚はない。

 代わりに僅かばかり、【森羅万象】に経験が入ったようだ。

 おそらく、【森羅万象】は【真理の魔眼】だけではなく【精霊の目】の上位スキルでもあるということなのだと思う。

 もしくは、【真理の魔眼】が【精霊の目】の上位スキルなのかもしれないけど。

 

 ふむ。見えるならシンシアに隠れて貰っている意味はないか。わざわざ顕現して貰う必要もないけど。

 

『おお、精霊使い様なのか! それなら話は違う!』

『是非とも精霊様のお姿を!』

 

 なんだ!? 急に態度が180度変わったぞ?

 

「あー。エルフって精霊を信仰していて……。もし良かったら、彼等にも姿を見せてあげてくれませんか?」

「(シンシア、ちょっと顕現して貰っていいか?)」

「《わかったわ》」

 

 通常モードで顕現するシンシア。

 圧倒するような威圧は放っていないようだが、人知を越えたシンシアの美はそれだけで見る者を圧倒する。

 

『おお……』

『なんと神々しい……』

『リリアノ様も美しいが、しかしこちらの精霊様は尚神々しい……』

 

 なるほど。精霊信仰ってのは事実のようだ。

 すでに、彼等からは最初感じていた敵愾心は一切感じなくなっている。

 

『それで、皆さんはどうして私を置いて先に行ってしまったんですか?』

 

 状況が落ち着いたのを見計らって針子さんが、エルフたちに訊ねる。

 顔はにっこりと笑っているが、目は笑っていない。

 ああ、これ怒ってるやつだ。

 

『すみません、レイア様。ケイの奴がうっかり靄に触れてしまって慌てて後を追った次第でして……』

 

 そう言って剣士の男が、魔術師の男を睨む。

 

『また……何もないところで(ころ)んだんですか?』

『はは、面目ないです……』

 

 まぁ、察するにボス戦前のお花摘み(何らかの事情)で一時的にパーティから離脱している間に、置いて行かれた感じかな。

 

「ええと、一応ここにいた魔物は俺たちで倒してある。ついでに言えば、ここがこの迷宮の最奥だ」

 

 彼等がなんの目的でここに来たのかはわからないが、コーヒーを守るために交渉をしないとな。

 

「まぁ、出来たての迷宮だしそんなものよね。ところで、お兄さんたちは……この迷宮をどうするつもりなのかな? 先に攻略したお兄さんたちに決定権があるわけだけど……」

「そっちの目的が迷宮を潰すことなら、迷宮核は持っていこうかと思う。またすぐに攻略されちゃうだろうしね。だけど、迷宮を残すつもりならそっちの方がありがたい」

「なるほど。お兄さん的にはここの迷宮は残したいってことでいいのかな?」

「ああ」

 

 俺が頷くと、レイア様と呼ばれた針子のお姉さんは、何やらうんうん唸りだし、やがて手をポンと叩いた。

 

『とりあえず、彼等を村に招待しようと思うんだけど。こうして先に攻略されてしまった以上、私たちだけの問題じゃあないし』

『そりゃあ、人型の精霊様と契約できるような高位の精霊使い様と、そのお仲間なら問題はないと思いますが……。何せ外から人を……それも、エルフ以外の種族を招き入れるのは、何百年かぶりですからね。他の住人がなんと言うか……』

『そこについては、私がすべて責任を取ります』

『いえ。レイア様お一人にそのような……。ですが、承知しました。いざという時は我々も説得にまわりましょう』

「ごめんなさい。一度私たちの村に足を運んでくれると嬉しいんだけど……。当然、身の安全は保証するし、帰りはきちんと送るから」

 

 俺としてはエルフの村というものに興味はあるし、この迷宮を残したいならきっちり話をつけておく必要があるだろう。

 うまくすれば、わざわざ取りに行かなくてもエルフの村でコーヒーを買えるようになるかもしれないしな。

 

「俺は構わないが、皆はどうだ? 言葉が通じないのは不安だと思うが……」

「主様の向かう場所が私の向かう場所です」

 

 イリスはいつも通り即答と。

 

「私も平気よ。精霊(私たち)には言葉の壁なんてないし。彼等に私を傷つけることなんてできないしね」

「実はアタシ、エルフ語話せるんですよ。『デモ、カタコトシカ無理ヨ』」

 

 自動翻訳のせいで、エルフ語で話したであろう後半部分が怪しい中国人みたいになっているが、ヤスナも一応問題ないのか。

 

「恭弥はエルフさんたちの言葉をしゃべってたけど……言葉、わかるんだよね?」

「ああ、俺は問題ないみたいだ」

 

 咲良の質問に首肯する。

 

「なら私も平気かな。ちょっとだけエルフさんたちの村には興味があるし、いざとなったら通訳を頼めばいいし」

「大丈夫。村には共通語を話せる人もいるから」

 

 レイアさんのセリフが決め手になったのか、マリナさんとアンナロッテも揃って頷いた。

 こうして俺たちは、一路エルフの村へと向かうことになったのだった。

 

 

 

 

 

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