第97話 迷宮核
諸事情により、ちょっと短め。
「あれは……迷宮核……?」
オーブを見たマリナさんが、『私の年収低すぎ!?』のポーズで声を上げる。
迷宮核というのは、その名の通り迷宮の核だ。
冒険者ギルドやイリスからその存在だけは聞いていたが、これがそうなのか。
「マリナさん、それは確かか?」
「ええ、私も一度だけ見たことがあります。その時のものと比べると、こちらのものは10階層のものでまだ小さいものですが、確かに迷宮核です」
「とすると……アレを取るか壊すかすればこの迷宮はなくなるって事か?」
「そうなります」
なるほど。魔物の強さにばらつきがあるからおかしいとは思っていたんだ。
以前イリスに聞いた話では、若い迷宮は奥に引き込んで侵入者を殺すと言うことができないため、入り口付近でも強力な魔物を産出するとのことだった。
以前俺とイリスが二人で潜ったトリスタン迷宮の感覚で言えば、アネオネなんかは30階層以上で出てきてもおかしくない魔物だった。
エビルアネオネにしても、10階ボスにしては強すぎる。取り巻きにしても、ビッグビーはトリスタン迷宮で10階以降に出てきた魔物だし、アネオネは先に触れたとおりだ。
メイジバットがトリスタン迷宮の中階層付近のボスだと言うことを考えると、同等かそれ以上だろう。
「しかし、10階で終わりとは……よっぽど出来たてだったのかねぇ?」
「申し訳ありません、そこまでは……」
「いや、全長10階。そんで……あれが迷宮核だってことだけでもわかれば、それでいいさ」
申し訳なさそうにするマリナさんの肩を、ポンと叩いて慰めておく。
「主様、迷宮核を取りますか? ここはミレハイム王国の外ですので国からの迷宮破壊の懸賞金は出ません。ですが、迷宮核は小さな物でも売ればかなりの金額になるそうですし、魔導具のコアとしてかなり優秀だそうですが……」
「いや、やめておこう。せっかく見つけたコーヒーを失うのは避けたいからな」
イリスは俺の答えがわかっていたのだろう。特には何も言ってこなかった。
お金で買えない価値がそこにはあるからな。
また他の迷宮でコーヒーを見つけたらその時にどうすればいいか考えればいいだろう。
中で人が死んで魔力を吸収できなければ、迷宮の成長速度は遅いらしいからな。
しかし、採れる場所が変われば味も変わるのがコーヒーの恐ろしいところだ。
いつかオリジナルブレンドを作ってみたいものだ。
まぁ、そんなことよりもだ。
「すこし、この部屋を調べたい。かすかな可能性だけど、迷宮には帰るための方法が隠れているかもしれない……と俺は考えている。迷宮は次元の揺らぎらしいからな。
ただ、ボス部屋は戦闘終了後一定時間経つと、外から入ることができるようになる。この迷宮の場所から考えて、他の人間が入ってくることは無いとは思うが、念のため警戒だけは怠らないでくれ」
「「「「「はい!」」」」」
先も言ったとおり、迷宮は謂わば次元の歪みのようなものとされているようだ。
時空属性をもつ俺の感覚からしても、それは間違っていないと思う。
特にボス部屋は、迷宮の中でも更に特殊な部屋だ。
さらに、迷宮の最奥、最終ボスの部屋ともなれば、言わずもがなというやつだろう。
問題は、最初にして最後のボスだと言うことだけど。
「そういえば……シンシアちょっと良いか?」
「なにかしら?」
「俺は時空属性で転移できないって話だけど、迷宮内の靄を使っての転移は可能だよな? 何でだと思う?」
その原因がわかれば、俺も転移で移動できる。
「あら? 面白いことを考えるのね。そんなこと、気にしたこともなかったわ?
じゃあ私は、あの靄を確認してこようかしら」
そう言って、下の部屋へと戻る靄に向かって行ってしまった。
さて、俺はと……。
【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】……。
ありとあらゆる物に【森羅万象】をかけて調べていく。
最初は怪しそうな場所から、徐々にランダムに。
【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】……。
だが出てくるのは無難な鑑定結果のみ。
まぁ、そう簡単には見つからないか。
もしかすると迷宮が小さすぎるのかもなぁ……。
それとも、【森羅万象】では駄目なのか?
【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】【森羅万象】……。
《スキル【森羅万象】のレベルが上がりました》
やっとか。
──────────
■ヘルプ
・スキル名
【森羅万象】
・レアリティ
6
・詳細
森羅万象を見通し、感じることができる。
レベル1
・アイテムや他者情報をより詳細に知ることができる。
・魔物の情報及び弱点をより詳細に知ることができる。
・上位存在を知覚することができる。
ただし、知覚することができる上位存在は、スキル使用者の資質による。(常時発動)
レベル2
・一瞬だけすべての攻撃を透過することができる。
発動時間、0.5秒。
連続発動までの待ち時間は2秒÷スキルレベル。
レベル3
・誰からも認識されなくなる。知覚系、探索系のスキルも無効。
ただし、相手に触れられたり、攻撃を受けると、無効化され認識されてしまう。
一度無効化されて認識されると、その後24時間この効果で姿を隠すことができなくなる。
また、身動きしている間も無効となるが、その間に認識されなければ、制限は受けない。
──────────
スキルレベルが上がったが、取得できる情報が増えるわけではなかった。
スキルレベル2。迷いの森突入直前に上がって得た効果だ。
これは、ほんの一瞬だけ完全に無敵になることができるスキルのようだな。
でも、単に攻撃を躱すだけなら、間合いを外すことによって似たようなことができるんだよな。
それに、緊急回避としては効果時間が短すぎるし、連続使用もできない。
あと、問題は発動中の攻撃はどうなるのか? という点だな。
武器はOK、素手はNGという感じだろうか?
その場合、炎に突っ込んで【森羅万象】で無理矢理無効化した場合、服は燃えるのではなかろうか?
何にせよ、使いどころが難しいスキルだな。
しかし、こういった癖のある技こそ俺の好みだったりする。何とか乗りこなしたいものだ。
そして、たった今習得したスキルレベル3の効果を見て思い出すのは、気配も無くいきなり現れたギリクの姿だ。
だけど、アレは【森羅万象】と同じ感じはしないんだよなぁ。何となくだけど。
【森羅万象】を覚えたが故の感覚とでも言おうか。
恐らく似たような効果を持つスキルを持っているのだろう。
【気配遮断】も【魔力操作】での魔力遮断も完璧ではない。
それに、妖精や精霊も見る事ができる者には見えてしまう。
しかしながら、これなら見つかる心配はないと言うことだろう。
諜報や暗殺にはもってこいのスキルだな。恐ろしすぎる。
おっと、考え事はあとだ。今は調査を続けないと。
――と思ったけど。どうやらお客さんのようだ。
「恭弥。誰かが転送されてくるわ」
靄を調査していたシンシアからいち早く連絡が来る。
迷いの森の中の迷宮に、一体誰が……?
「お前等、入り口から離れろ! シンシアは一応、実体化を解いて姿を隠しておいてくれ」
さて、友好的な連中が転送されてくることを祈ろうか。
祝通算100話達成!
ここまで続けられたのは、読んで下さっている皆さん、ポイント評価を頂いた皆さん、応援して下さっている皆さんのおかげです。
今後ともよろしくお願いします。
話の区切り的に何もできずにごめんなさい。
本編100話達成時には、きっと何かやります。
■改稿履歴
効果は変わりませんが、少しわかりにくかったようなので説明文を変更しました。
旧:
レベル3
・誰からも認識されなくなる。知覚系、探索系のスキルも無効。
ただし、身動きしたり、相手に触れられたり、攻撃を受けると、無効化され認識されてしまう。
一度無効化されて認識されると、その後24時間この効果で姿を隠すことができなくなる。
新:
レベル3
・誰からも認識されなくなる。知覚系、探索系のスキルも無効。
ただし、相手に触れられたり、攻撃を受けると、無効化され認識されてしまう。
一度無効化されて認識されると、その後24時間この効果で姿を隠すことができなくなる。
また、身動きしている間も無効となるが、その間に認識されなければ、制限は受けない。




