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時の流れ

 俺たちは、仲間だった。


 超進化宝珠(イモータル・コア)で超能力に目覚めて、はしゃいでいた。

 悪事を働く輩がいることを知って、それを倒すことが使命だと思っていた。

 ともに鍛え合って、支え合って、守り合って、補い合ってきた。


 だけど、俺たちが頑張っていても意味はなかった。

 俺たちと関係ないところで、世界は滅びた。


 その後も、俺たちは仲間だった。

 別れた時だって、仲間だった。


 じゃあ今の俺とアキラは、仲間だろうか。

 四百年ぐらい生きているはずなのに、俺はそんなことを気にしている。


「はあ!」


 アキラは首のすぐ下にある、超進化宝珠(イモータル・コア)を黄色に輝かせる。


「おお!」


 俺はへその少し下にある、超進化宝珠(イモータル・コア)を黒く輝かせた。


 俺とアキラは、各々の色に染まった煙を全身から吹き上がらせる。

 まるでバトル漫画みたいな状況だが、それに興奮したのは大昔のことだ。


念動波(ねんどうは)!」


 同時に、まったく同じ技を出し合う俺たち。

 黒と黄色の波が、中間地点でぶつかり合う。


 超能力者同士の力比べ、念動力が優れている方が押し勝つ、単純なぶつかり合い。

 それを制したのは、俺の方だった。


「う……うううう!」


 押し負けたアキラは、大きく吹き飛んだ。

 人間一人吹き飛ぶなんて普通じゃないが、それどころじゃない。


 異次元空間で戦い強くなった俺の念動波は、大地震でも起きたように地面を大きく変形させていた。

 これには自分でも驚く。この世界から出る前より、ずっと強くなっていた。


「まあ当然よね……ずっと戦ってきたんでしょうしね」

「ああ……でもな、お前だって強くなっただろ。昔のお前なら、今のでそのままダウンしてたぞ」

「私だって、私たちだって、ずっと机仕事をしていたわけじゃないわ」


 だがアキラは闘志を保ったまま立ち上がる。

 高級そうな服が土だらけになっても、まるで振り払おうとしない。


「私の超進化宝珠(イモータル・コア)は黄色……その特性を忘れたわけじゃないわよね?」

「……黄色の特性は、瞬発」

「ええ、その通り……ここからが本番よ!」


 アキラは十本の指を、全部俺に向けた。

 その指先が光ったかと思うと、俺に黄色い弾丸が殺到してくる。


「シューティングスター!」

「昔より速いし多いな! だけどなあ!」


 マシンガンの乱射かってぐらい、光の弾丸がぶつかってくる。

 だが念動力の差がある以上、それだけなら問題じゃない。

 俺の周囲から吹き上がる黒い煙にぶつかって、その弾丸は弾かれる。こんな小技なら、俺に届くことすらない。


「せめて届いてほしかったわね」


 そんな声が、背後から聞こえた。

 そう思った瞬間、蹴りが側頭部にぶつかってくる。


「スピードスター!」

「蹴ってから言うなよ!」


 弾幕で視界をふさいで、高速移動して蹴ってくる。

 昔からよくくらった技だが、やられるとマジで対応できない。

 だけど、昔と違って耐えられていた。


「これもそんなに効いてないわね……!」

「昔ならこれでそのまま気絶してたさ……だけどなあ! 机仕事の合間に戦ってたやつに、ずっと戦ってた俺が負けたら、それこそ立つ瀬がねえよ!」

「アンタにそんなもんないでしょうが!」

「うるせえ!」


 振り向きざまに反撃をするが、あっさりと避けられた。

 もうすでに、遠くへ離れている。

 こっちが一回動く間に、五回も六回も動きやがる。


 こっちの方が頑丈で威力があっても、ここまで速さに差が有ったら攻撃が当たらない。

 これが漫画なら広範囲攻撃をするか、地形を壊して足場を奪うかだが、そこまでする必要がない。


「で、どうするんだ。黄色の特性は瞬発、スピードを生かした攻撃は赤にも劣らない。いや、単体相手ならそれ以上かもな。けどよ、その分消費も大きい。俺が一回動く間に五回動くってことは、五倍疲れるってことだからな」

「そうね……もう疲れたなんてことはないけど、このまま力尽きるまで蹴りまくっても、アンタを倒すなんて無理そうだわ」

「だったら諦めろよ。昔のよしみだ、ここで終わるなら俺の特性(・・・・)を使わずに済ませてやるぞ」


 俺たち超能力者も、無制限に超能力を使えるわけじゃない。

 わかりやすく言うとMPを消費していて、それを使い切れば何もできなくなる。

 黄色や赤は攻撃が得意な分、特性を発揮しながら戦うと消耗が大きい。

 このままダメージレースをしていれば、アキラはMPを使い切ってスピードを維持できなくなる。

 そうなれば、俺が攻撃を当てて終わりだ。


「これが昔みたいな試合なら、ギブアップして終わりよね。でも私はもう大人で、立場がある。奥の手を切らせてもらうわ」

「……本気で、本気で俺を殺す気か」

「それが、大人になるってことよ」


 黄色の特性、瞬発。

 それは単に速くなるだけじゃない、力を圧縮して爆発力を得られる。

 MPの消費量を上げることと引き換えに、基本性能を上げられる。

 格上さえ殺しうる、黄色の切り札だ。


「スーパーノヴァ!」

「アキラ……!」

「わかってるでしょう、こうなると手加減なんてできない。全部ベタ踏みよ!」


 スーパーノヴァを使ったアキラは、さっきよりもずっと黄色の煙を噴き上げている。

 それは今の俺と比べても、遜色がないほどだ。


 この技は、俺も知っていた。敵に使うところも見てきた。

 だけど、仲間に使うことはほとんどなかった。

 イカルやイズミが防御をガチガチに固めた時に、ぶつかっていったときぐらいだ。

 他の時は、使わない。攻撃力が高すぎて、仲間を殺しちまうからだ。


「スピードスター!」


 さっきよりもさらに速い速度で、アキラは俺を蹴ってくる。

 もちろん威力もさっきとは段違いで、俺もかなり痛かった。

 耐えられないほどじゃないが、何発も何発も蹴ってくる。


「くそ……!」

「このまま死んだほうがいいわよ、スサブ!」

「何を……!」

「今のご時世……昔よりずっと、黒タイプに厳しいわ」


 四方八方から蹴りながら、アキラは俺に死ねと言ってくる。

 俺は蹴られながら、それを聞くしかなかった。


「昔だって嫌われていたし、悪口も言われていたわ。でも今は、それ以上。はっきり言って、死にたくなるほどにね」

「それだけ黒タイプが迷惑をかけたってことか? まあわかるけどな」

「そうよ……それであなたは我慢できる? 反撃しない? いいえ、反撃するわ! そうなったらいよいよあなたは社会の敵になる……社会のトップとして、それは防がないといけないのよ!」


 一方的にぶちのめしてくるアキラだが、疲れてきたのか汗だらけになっている。

 高速移動しているので残像が目に映る程度だが、それでもわかるほどの疲れようだ。

 それだけ全力で来るんなら、俺も全力で相手をしないとな。


「アキラ…・・・お前が大人になったのはわかった、だがやられるつもりはねえ!! こっちも全力で行くぜ!」

「また昔みたいに負けず嫌いなことを……成長が感じられないわね!」

「昔とは違うって言ってるだろうが!!」


 俺の全身から吹き上がる黒い煙、その濃度と量が一気に増大する。

 それに包まれるアキラは、一気にうろたえた。


「黄色と違って、黒に自分を強化する力はない……それならこれは!」

「そうだ……ただ本気を出しただけだ!」

「今までは手抜きってこと?! 舐めた真似を……スサブのくせに!」

「ああそうだ! さすがに悪い気がしたんでな! だがもうためらわねえ! 逃げるんなら今の内だぜ!」

「誰が逃げるもんですか!」


 汗を吹き飛ばしながら、アキラは残ったすべての力を振り絞って、最後の攻撃を放とうとする。

 それは助走を取ってからの、体当たりだ。


「ライジングスターぁああああああああ!」


 これを耐えれば、それでも俺の勝ちだ。

 だがそれは、アキラの衝突を跳ね返すってことで、そのまま殺しちまうってことになる。


 それは、できない。

 だから俺は、自分の特性を使う。


「うおおおおおおおお! だあああああ!」


 突撃してくるアキラを、膨大な闇で受け止めて、抑え込む。

 まるで無数の手に包み込まれるように、アキラの姿が消えていく。


「こ、この……こんな、格下にしか通じない技なんかで!」


 アキラだって、俺のこの技を知っている。

 格下にしか通じないと知っているからこそ、抵抗して跳ねのけようとする。

 

「悪いな! 今の俺とお前の格の差なら、これが十分通じるんだよ!」

「そんなの……認められないわ!」


 俺の闇から逃れようと、黄色い光をさらに増大させる。

 スーパーノヴァの効果を上げて、出力を限界以上に跳ね上げる。

 だがそれでも、俺の方が圧倒的に格上だ。



「くらえ……チャイルド・ロック!」



 俺の繰り出した漆黒の闇が、アキラの体を完全に包み込み、圧縮する。

 それは人間の大きさの限界を超えた収縮であり、封印どころか潰したようにしか見えないだろう。


「黒の特性は……汚染だ。人や物に干渉して、絵本みたいに別の物へと変えることができる。これは他の色と違って、術者によって大きく異なる。俺がこの世界にいた時も、石にしたりカエルにしたり、小人にしたりいろいろあったな」


 技が終わると、闇が消えて、アキラが落ちてきた。

 俺の黒に汚染されたアキラは、人間に見えないものになっている。

 それでもアキラは、わかっていたからか動揺していない。


「ええ、そうね……。まあはっきり言って、いい思い出がなかったわ。貴方の技も、正直嫌いだった。趣味が悪かったもの。でも、トドロキやホノオ、私と違って手加減ができた。今だって、全力で攻撃されたのに、私は生きているものね」


 生きている、と自己申告するアキラだが、使った俺をして生きているようには見えない。

 なぜなら今のアキラは、完全に人形だった。デフェルメされた、三等身ぐらいのぬいぐるみになっている。


「最強の黒タイプ超能力者、スサブ。ありとあらゆるものを、オモチャに変える能力者」

「俺がオモチャにできるのは、格下だけだ。ありとあらゆるもの、なんてのは過大評価だよ」

「よく言うわよ……トドロキやホノオが死んだ今、貴方に同格も格上もいないでしょ。私でさえこんなものだもの……誰も抵抗できやしないわ」


 俺の技でオモチャになっても、俺の気分次第でいくらでも戻せる。

 それにオモチャにするっていっても、相手の意志で動ける、しゃべれるようにもできるし、できないようにすることもできる。

 ぬいぐるみのままペラペラしゃべっているアキラは、動くことだってできるはずだ。

 なのに、全然動かない。それこそ、ぬいぐるみみたいだ。


「……私の作った社会と貴方は、衝突するでしょうね。そんなところは見たくなかったけど、こうも負ければあきらめもつくわ」

「それなんだけどな、アキラ。お前なんで一人で来たんだ?」


 今のアキラは、しゃべれるだけのぬいぐるみだ。

 壊せばそのまま死ぬから、それこそ子供にも勝てないだろう。

 なのに、逃げようともしない。

 そんなアキラに、俺は聞かなければならないことがあった。


「俺を本気で殺したいなら、強い部下をたくさん呼んで、袋叩きにすればいい。それをしないのは、なんでだ? 強い部下がいないからか?」

「本気で殺したいわけがないでしょう」


 アキラの返答は、俺が聞きたかったものだった。


「また会えた友達に、そんなことできないわ」


 こいつも俺のことを、今でも友達だと思っている。

 そんなアキラが、この世界に俺の居場所はないっていう。

 それを理解した俺は、改めて残酷さに打ちひしがれていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 所詮は残ったものだな。アキラはそもそも旅立った5人の中で最弱だった。結果はともかく、前評判でも途中でもアザトス戦でも恐らくメンバーの中で最弱だっただろう。 そいつ相手に何も出来ない程度の格下…
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