セントラルベース防衛軍、レギオン
たとえば、である。
賞金稼ぎが、お尋ね者に負けたとする。
市民は絶望するだろうか。
警察官が、犯罪者を取り逃がしたとする。
市民は絶望するだろうか。
スポーツ選手が、暴漢に負けたとする。
市民は絶望するだろうか。
僧兵が、異端者に負けたとする。
市民は絶望するだろうか。
落ち込む者もいるだろうが、全員が絶望する、なんてことはあるまい。
軍隊。
真の意味での武力であり、国家の暴力。
国家の持ちうる、最大最強の力。
軍隊が無傷でいる限り、市民は絶望などしない。
他の四人が全員負けても、五大老がまったくあわてなかった理由。
それすなわち、自分達の命令が無ければ動けない、セントラルベースの軍隊……レギオンが健在だからである。
現在五大老は、自分達の会議室へ彼女を……最後にして、当代最強の超越者。レギオンの超越者、ロインを呼び出していた。
「急な呼び出しにもかかわらず、よく来てくれた、ロイン」
「いえ、軍務ですので」
「形式は省いて、君への任務を伝えよう」
軍服に身を包んだ女性、ロイン。
歴代でも最年少で超越者にいたり、そこからすでに十年以上もレギオン最強の座を守り続けてきた、現役で最年長の超越者。
訓練校において常に主席を守り、軍務についてからは他都市との戦争において多くの武勲を上げてきた、歴戦の猛者である。
「あえて、はっきり言う。君の任務は、黒き神スサブにとらわれた、黄の神アキラ様の奪還だ」
「……詳しく、お願いします」
通常の場合、汚染された者は死亡扱いとなる。
これは汚染をした黒い神が自らの意志で戻さない限り、決して回復しないからこそ、である。
悪しき黒い神はこれを利用して、人質として交渉することもあるが……それが大きな二次被害をもたらすため、死亡扱いにするのが慣例であった。
今回は、それに反している。
「通例に則れば、アキラ様は死んだものとして扱うべきだ。いかに最高指導者とはいえ、それに反するべきではない」
「だが……そのつもりで準備をしていたところ、とんでもないことが分かった」
「この都市のエネルギー、および制限異能宝珠は、アキラ様の生み出す超進化宝珠によって賄われていることは知っているな?」
「我々も当初は、アキラ様以外でも超進化宝珠が生み出せると思っており、楽観していたが……アキラ様以外では、この都市を維持するだけの量を生産できないと判明した」
「なんとかスサブと交渉し、アキラ様を取り戻してくれ」
五大老は、それこそ血相を変えていた。
それはロインにも伝わっており、彼女も緊迫した表情に変わる。
「承知しました!」
「うむ、頼んだぞ。一応言っておくが……」
五大老は、事の重大さを説いた。
「今回の件は、都市の明日がかかっている。一年後とか十年後とかではない、半月も立たずにこの都市の灯は消えるだろう」
「失敗は許されん、最善を尽くしてくれ」
「はっ!」
※
セントラルベースに存在する、五つの武装組織。
それらはそれぞれ、組織の特色に合った独自の技術を保有している。
ハスカールは素人でも機能を発揮できる、念動蓄電池。
トネリは優れた科学技術との融合である、科学異能混成技術。
ソルダリーは人間の肉体を一時的に超能力者へ近づける、半神化。
パラディンは亡き神の遺産である、神聖武装。
では軍隊たるレギオンの独自技術とは……。
そしてそれが、戦闘でいかに発揮されるのか。
「すでに、私以外の超越者四人が、黒き神スサブに敗北しています」
ロインは出撃を前にして、己の直属の部下へ演説を行っていた。
彼女自身は当然のことながら、彼女の部下たちもまた、緊張した顔をしている。
「所詮賞金稼ぎ、所詮警察、所詮ショー、所詮宗教家……プロの軍人とは比べ物にならない。そんな声もありますが……彼女たちは強い。それは私がよく知っています。私のことを当代最強と呼ぶものも多いですが……彼女たちと私の差は、さほどでもない」
ロインは語る。
自分が一位だとしても、二位から五位との差はそこまで大きくないと。
「仮に私が彼女たちと連戦をすれば……殺してもいい、という条件であっても、途中で負けるでしょう。それを成しているスサブは……私よりも強い」
任務としては、殺す必要はない。
しかし、戦わずに済むとは思えない。
「仮に私が彼と交渉をしようとしても……聞く耳を持ってもらえず、私を倒してそのまま去られるでしょう。それができない、と思わせるだけの力が必要です」
最強の超越者でも不足なら、一体どうすればいいのか。
そんなこと、悩むまでもない。
「それでは……全員で出撃します!」
レギオンの独自技術、対浸食、対汚染兵装、黄金属性。
それは赤タイプおよび黒タイプの特性を、完全に遮断する軍事技術であった。




