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異世界単騎行 The Battle of Okinawa 1609 ⇄1945  作者: ロータス
第7章 クロスファイア  1604年 師走
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第58話

挿絵(By みてみん)

 「ワシを呼んだの。強い子よ」

 その笑い声に驚いたマイチは驚愕し、声のした方を見つめる。


 「ウラシイ王子……」


 しっかりとした足取りで近づいてくる老人は、歳を重ねた老人と

 いえども背筋がしゃんとしている。

 彼の頭には黄金のジーファーが輝き、侍従が屋敷の入り口へ

 控えていた。


 「強い子よ。この者らが、お主の言う我らの愛し子か。

 なるほど良い顔をしている。将軍とは異なる形でこの国を、

 ……暴風から救い出してくれるか?」

 彼は叡弘と山口さんを交互に見つめる。何か感慨深げな表情だ。


 「殿下、彼らをどうか傷つけないでいただきたい。

 ……刻まれたサトウキビはいかがでしょうか」

挿絵(By みてみん)


 2人に危害が及ばない様、マイチは若干震えた声でサトウキビを彼に

 勧めた。ゆっくりで絞るような声で、彼らをかばう。


 「強い子。ワシは甘いものは好かぬ。会えぬ其方の家族は無事で、

 お主が入れぬギマ村で蟄居じゃ……民に恵んだ作物に

 依って国を開こうとするお主を、今から馴らしておかねば。


 ワシら王族も、上手く生き残れないからの……かつての我らが始祖、

 あのカナマルガナシ(尚円王)さながらに国を奪われては、元も子もない」

 「……はい……」マイチは泣きそうになりながらも、小さく彼に同意する。


 「……ジャナウェーカタ、ワシの代わりに味見してはくれぬか?

 お主は好きであろ」と振り返って彼を呼ぶ。


 「はい。サトウキビの食べ過ぎは歯を虫に喰われます。

 ギマウェーカタ、……湯も所望したいが」

挿絵(By みてみん)



 「……サトウキビは割と手に入れやすい作物だが、

 それから汁を煮詰め出す方法はどうする?こんなに硬いもの、刻むのも

 難儀であろうに……」


 味見を終え湯で口をすすいだジャナウェーカタもやはり

 叡弘と山口さんを見つめて呟く。


 急な来客にタンメー達は控えてしまい、代わりに彼らが2番座へと座っていた。

 日が暮れてしまって、門外に控えていた多くの侍従達は、

 警備要員を残してバンショへ移動している。

 

 「それは……」と困り果てたマイチは、すがるような眼差しを

 山口さんへ送る。彼は視線を受け止めてこう答える。


 「(わたくし)がお答えしても、よろしいでしょうか?」

 山口さんは彼らへ静かに問いかける。


挿絵(By みてみん)

 3人はうなずき、山口さんは話を進める。

 「この時代の黒糖を作る方法は、実は子どもの頃に体験したことが

 ありますね。かつての「大恩人」を忘れない機会として、

 課外授業で習いました……」


 大恩人に当たるマイチを見つめ、彼は話し始める。

挿絵(By みてみん)

 「マイチ。ギマウェーカタがカンショの普及をマチュー、

 野國総管から託され、成功させ彼の事業が国から

 認められます。さらに彼は貪欲に殖産をこの地に植え付け、

 ……外敵がいなければこの国はさらに富んでいたことでしょう」


 「サトウキビは、硬いもので挟み込むようにして汁を

 絞り出しますね。明国の南方で考えられたやり方を、

 彼は若者を派遣して学ばせて持ち帰らせた、と学びました」

 ……スラスラと黒糖製造のプロセスを、山口さんは長く話し続けた。

挿絵(By みてみん)

 静かに聞いているウラシイ王子とジャナウェーカタの傍らで、

 マイチは必死な表情で帳面へ書き留める。囚われた彼の家族の事を思えば、

 無理からぬ事でもあった。


 山口さんは紙に簡単な窄糖機の図を描き始める。

 叡弘も彼の絵を見てこう呟く。


 「山口さん。実はそこ、僕も行ったんだ。水牛が周回してて、

 のんびりした感じだったね。真ん中にいる人も、まったりしてたっけ……」


 山口さんは「叡弘も見てくれたのか」と嬉しそうに目を細める。

 搾る風景はとても珍しくて、スマホで動画撮影したけど、

 ここに来た時に無くしちゃって……」彼はすまなさそうに言った。



 「良いさ。叡弘から見て気になる所とか無いか?」と問いかける。



 「そうだね。山口さんの絵だと、サトウキビを挟み込む部分が

 露わになっているから、キビと一緒に指を無くしそうだよ。

 ……そこくらいかな?」彼も一生懸命、考えているようだ。


 「黒糖の他にも、お土産屋さんとかで焼き物の器が売られていたっけ

 ……シーサーの焼き物とか。

 山口さん、ここでシーサー、見かけてないけれどこれは?」

 「陶器の製造はモメンと同じく史実通りなら島津侵入後あたり、

 シマヅ氏から朝鮮出兵時に捕虜にされた技師がココにきて発展させていたな。

 まさにこれからの産業だ。……今ならあの牛島中将に通じてシマヅへ

 要請すればできるか……?


 サツマ焼も同じプロセスを踏んで形成発展させたんだっけな?」

 山口さんは叡弘へ呟くように返事を返す。


 「……マイチさんは、彼に会ってどう思った?

 僕は山口さんよりも彼のことをよく知らない。直に会ってもいないんだ。

 ……サイモンさんの様な、怖そうな人だった?」

 叡弘は穏やかな口調で問いかける。


 マイチは書き込む手を休めて、深呼吸しながらかぶりを振る。

 「……いいや、ウシ殿はワシから見て、とても優しそうな方だった。

 周りも彼を気にしていたが気がつくと、フッと消えてしまいそうな

 印象をお持ちだったかな?あの手の優しさは、マチューと同じく、

 まるで地獄を見た者の類いの様だったの」

挿絵(By みてみん)


 「……ほーう、よーく聞かせておくれの。強い子よ。相手を知る事良い機会じゃて」


 黙っていたウラシイ王子は、さながら獲物を見つけた眼差しをマイチに向ける。

 ウシの印象は一門の武将でもある、彼の好奇心をくすぐった様だ。

 

 ギラギラした瞳は、老将のみなぎる闘気を物語る。


 「将軍はアレでしっかりしておるよ。姫御前に会われても

 正気を喪っていないのが証拠。

 罰を受ける王族は生贄として彼女に囚われ、肉も心も全て吸い取ら

 れるからの……」

挿絵(By みてみん)


 そう言って彼は言葉を続ける


 「国だけが無くなるならまだ良い。ワシらがいない方が上手くいくかも

 知れん。しかし姫御前や神々も跋扈する恐ろしい土地では、

 弱い民草の安寧は図れない」


 ……彼の物話は、これから始まろうとしていた。夜の帳がナカグシクを包む。

挿絵(By みてみん)



  【次のお話は……】

   ウラシイおじいちゃんの思い出。


  【「旅の場所」沖縄県 中城村 上間】挿絵(By みてみん)


   第57話 産を殖し、業を興す 了


   ▼三巻カラーイメージPOP▼挿絵(By みてみん)

   作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018

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「異世界単騎行」小ネタ帳
(活動報告ページへ移動)
【序章】
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北谷町 桑江宜野湾市 普天間/宜野湾
マイチ浦添沖縄戦
【2章】
バックナー中将と糸満市 名城
首里城跡那覇市 泉崎/国際通り/
久米村 謝名利山
勝連城跡

読谷村 野國 野國総管

【3章】
オリンピック作戦/伝染病について

【4章】
i592871
鹿児島県 旧喜入町と牛島滿中将
鹿児島城跡と島津忠恒
作中救貧作物ビッグレッド冠と簪
【5章】
中城村 当間地域と現地仕様なメイドさん
国王と聞得大君
ウシデーク百十踏揚
うるま市 海中道路
【6章】
加藤清正と黒田長政薩摩焼酎
熊本城跡博多港
徳川家康と近世日本の幕開け

【7章】
i592872
アメリカ合衆国 ケンタッキー 州戦艦ミズーリ
地産地消とンムクジアンダーギー海邦養秀
【8章】
【9章】
ジュゴン
ジュリ売り/糸満売り沖縄戦の戦没者数
【10章】
千姫

【11章】
i592874
島田叡 沖縄県知事



「小説家になろう」投稿分では
こんな感じでイラストを描いたり、

たまぁ〜にAIイラストを作成しています。
 ※AIイラストについては作品掲載は無し、
 活動報告ページで使用感を述べる感じです。
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画像をクリックで関連ページ   (「小説家になろう」活動報告、みてみんブログページへ) に移動します。

※ナシロ村の画像だけ本編エピソードへご案内☆




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