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異世界単騎行 The Battle of Okinawa 1609 ⇄1945  作者: ロータス
第7章 クロスファイア  1604年 師走
89/159

第56話

挿絵(By みてみん)

 戦艦ミズーリ号を、後にした叡弘と山口さんはキーちゃんに乗って、

 ナカグシク湾、マイクとヨシュアが「バックナー・ベイ」と呼んでいた

 海域を進んでいった。

 海面を滑るように進むキーちゃんの動きには無駄がなくなっている。

 ウシデーク、琉球の古民俗事例に関わったためだろうか。


 彼らは1時間も経たず、ナカグシクの砂浜から上陸しマイチの手配

 していた屋敷にたどり着いた。


 屋敷の周りには何故か人だかりが出来ていて人々は2人を見ると、

 畏まってうずくまってしまった。彼らはキーちゃんを押して屋敷へ向かう。



挿絵(By みてみん)

 「……叡弘、山口、お帰り」にっと笑うマイチが、屋敷の庭で待っていた。

 彼は紫色のハチマチを被っている。


 「「マイチさん」」2人は驚いて声を上げる。


 「マイチさん、遠路はるばるナカグシクまでどうしたんですか」と山口さん。


 「ギマ村はどうしたの?ナカグシクで何かあるの?」と叡弘。


 ヒゲを撫でながら、

 「……積もる話は座ってからにせんか。わしもこの重たいハチマチ

 を外したい」

 2人はマイチの申し出に、うなずいた。


 一息ついた3人は屋敷の2番座で、紙に書き取ながら話を進めていく。

 タンメー達は人払いで屋敷の外にいる。


 かつてニーノシマの宿で3人で過ごしたように。

 あの頃を思い出して、叡弘は微笑む。


 「こんな感じで宿で、時代の事を教えてもらったんでしたね。

 なんだかとても懐かしい」



 「ハハハ。そうだの。あの時はカンショの事で頭が一杯で、

 無邪気に過ごせたの」

 マイチが寂しそうに薄く笑いながら、懐から折りたたまれた地図を取り出す。

 ……1つはサイモンの地図、もう1つは山口さんが書いた地図だ。


 「ワシは君らと仲たがいしたくはない。この国でこれだけの情報が

 魔法無しでも扱える人物は、本当に限られてくる。


 君らはこの情報は、どのようにして学んだのか、教えてはくれんか。

 ……返答次第では、ワシの首が飛ぶ」


 山口さんは彼の震えて絞り出すような声に、驚いてしまった。

挿絵(By みてみん)


 「マイチさん、この地図は、この島の400年後に当たる未来の姿です。

 後の世に生まれた僕らは、あらゆる情報に晒されています。

 本人が望みさえすれば、子どもが通うような手習所でも至極簡単に、

 学ぶ事もできます。サイモン……バックナー中将の地図は、

 僕らのいた時代よりも前に日本と同盟国軍(アメリカ)が戦争をするために

 作られた地図で……」


 「バックナージュニア、シマヅにいたウシ殿といい

 ……あの方達は何なのだ。知ってる限りのことを教えてくれんか?

 どうにかなってしまいそうじゃ」


 マイチは言葉を遮って山口の答えを待つ。泣きそうな表情で、とても辛そうだ。


 「マイチさん、何かあったの?その服装でくるのも、大変だったよね。

 良かったら話してくれない?」


 優しい言葉をきっかけに、マイチはポタポタと涙を流しながら、

 「……家族を国の人質にされた。望む働きをしなかったら、ワシ共々、

 殺されてしまう。ワシはともかく家族を殺されたら

 ……ご先祖様に申し訳が立たない」


 2人は彼の言葉に息を呑む。



 「……俺の習った歴史じゃ、マイチさんのサンシカン任官はしてなかったな。

 その代償なのかも……」


 「ウシ殿。心当たりはあるの?山口さん」


 叡弘は泣いているマイチの背中をさすってなだめている。

 彼の涙が止まるまで、しばらく時間がかかった。


 「ウシというのは、将軍が話してくれた牛島滿氏のことだろう……

 あまり良い印象で習った覚えがないんだよな。

 まぁあの彼も、おそらくそうだけど」


 遠くを見るように、山口さんは低く呟いた。

 どうやら思い出しているようだ。


 「……特に沖縄戦の評価は真っ二つ。あまり沖縄では触れたがらない

 人物だな。首里城跡の地下に司令部壕を築いたんだっけ……」


 マイチは「ではスイ城のダンジョンで眠っていたのは……」

 青ざめて震えている。

 山口さんはうなずき


 「彼の指揮した関係者なのかも知れない。……本人は何か言って

 いなかったか?」


挿絵(By みてみん)

 「特には。じゃがウシ殿から渡された手紙の裏側に、誰かに宛てた

 惜別文が記されておったよ。陛下が読み上げると、地響きと共に

 眠っていた彼らが、居なくなっておった」


 マイチは何故かフミアガリ殿下の事は伏せて話を続けた。

 山口さんは、悪い冗談を聞くような顔で、話を聞いている。


 「バックナーさんも、部下に慕われる将軍だったみたいな話を

 うっすら聞いた事があるから、それで亡霊に取り憑かれたとしても、

 不思議じゃないかもな。

 ……亡霊もお姫様の名前みたいな名前だったかな。

 ちゃんと授業、聞いとけば良かったな……」


 「あの刀に閉じ込めたお化け、どうなったのかな?

 サイモンさん無事だと良いけどね」と叡弘は笑った。


 つられて力なくマイチも笑っている。

 話を聞いていて恐慌状態が落ち着いてきたようだ。

 隠している事も見知っている2人に、呆れてしまった。


 「……何だか、君らを見ていると元気をもらえるの。

 いや、笑わなくては。死神に取り憑かれてしまうの」

 

 彼は空元気で、弱々しく微笑んだ。


 屋敷の外ではどんよりとした曇り空が広がっている。

挿絵(By みてみん)


 【次のお話は……】

  この国は、果たして雄飛できるだろうか?


 【「旅の場所」沖縄県 中城村 上間】

挿絵(By みてみん)


  第55話 2人の将軍 了


  ▼三巻カラーイメージPOP▼挿絵(By みてみん)

  作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018

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「異世界単騎行」小ネタ帳
(活動報告ページへ移動)
【序章】
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北谷町 桑江宜野湾市 普天間/宜野湾
マイチ浦添沖縄戦
【2章】
バックナー中将と糸満市 名城
首里城跡那覇市 泉崎/国際通り/
久米村 謝名利山
勝連城跡

読谷村 野國 野國総管

【3章】
オリンピック作戦/伝染病について

【4章】
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鹿児島県 旧喜入町と牛島滿中将
鹿児島城跡と島津忠恒
作中救貧作物ビッグレッド冠と簪
【5章】
中城村 当間地域と現地仕様なメイドさん
国王と聞得大君
ウシデーク百十踏揚
うるま市 海中道路
【6章】
加藤清正と黒田長政薩摩焼酎
熊本城跡博多港
徳川家康と近世日本の幕開け

【7章】
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アメリカ合衆国 ケンタッキー 州戦艦ミズーリ
地産地消とンムクジアンダーギー海邦養秀
【8章】
【9章】
ジュゴン
ジュリ売り/糸満売り沖縄戦の戦没者数
【10章】
千姫

【11章】
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島田叡 沖縄県知事



「小説家になろう」投稿分では
こんな感じでイラストを描いたり、

たまぁ〜にAIイラストを作成しています。
 ※AIイラストについては作品掲載は無し、
 活動報告ページで使用感を述べる感じです。
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画像をクリックで関連ページ   (「小説家になろう」活動報告、みてみんブログページへ) に移動します。

※ナシロ村の画像だけ本編エピソードへご案内☆




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