おまけ
ナガマサとの交渉を終えたウシ達は2日かけ、
ハカタ港にやって来ていた。タエも彼らを見送るために来ていた。
フクオカ城に立ち寄った彼女の服装は素朴であるものの美々しく、
深窓の姫君であったことを思い出させる。
彼らは何とクロダ家の乗船で、サツマの国へ帰る事になった。
天候さえ良ければ陸路よりもかなり早く、順調であれば1日でサツマへ着く。
ナガマサは港にある館で、2時間程ウシと琵琶を合奏し、ご機嫌だ。
悪かった顔色も格段に良くなっていた。
「セイショウコウのようには引き止められないゆえ、ここまでだ。
……また会える時を楽しみにしている」
ニコニコと2人は笑いあう。
◇
一行は準備のできた船へと乗船する所だ。大きな帆にはクロダ家の家紋と、
吹き流しのような細い旗にはシマヅ家の家紋が描かれ、それぞれ風を
はらんでいた。穏やかな風が吹いている。
ユウノシンが乗船する前に、タエは彼の袖を掴む。
彼女は耳まで赤くしながら、黙って彼を見つめる。
泣いているようで、せっかくの姫様装束が台無しだ。
「……こんな事をするのは、貴方にだからです。サツマへ戻ったら、
どうか忘れてください」
素早い動作でタエはユウノシンの頬へ口付ける。
彼も拒絶する事なく、甘んじて受けていた。頬に僅かな紅が咲く。
それを見たドン引きなウシの反応と、「お前かあぁぁ」と怒れる兄が
ユウノシンへ飛びかかったのは言うまでもない。
……ジュウアンは、無の表情だ。
ユウノシンの前に、素早くタエが立ちはだかる。
「タエ。嫁に行きたいなら兄が回復してからにしろ!」
「おいこら残念な美丈夫。鏡見てもの言えよ!」と
相変わらずの兄妹喧嘩が始まる。
これはもう収まりがつかない。
◇
「……僕も、お嫁さんは、元気な女性がいいなぁ……」と
ユウノシンがそーっと小声で呟くと、ナガマサを軽くのしていたタエが、
顔を赤くしながらもじもじしている。……自らがのした兄の傍で。
彼も顔や耳まで赤くしながら、彼女を真っ直ぐに見て言葉を続ける。
緊張しているにも関わらず、低く穏やかな、落ち着いた声だ。
「タエ姫。此度の大事な旅、忘れるわけがないでしょう。
貴女がいなかったら今頃、きっと戦が起きていたはずです。
どれだけの民が救われたか、分かりませんが貴女は菩薩のような方です」
「……僕は見ての通り元服したと言っても、まだ世の中を知りません。
……まだ貴女を守りきる力が、足りません……」
「……結局の所、ユウノシン殿はタエ姫の事は好き、でよろしいのでは?」と
ジュウアンがユウノシンの言葉を遮る。
「……ユウノシン。惚れたなら、惚れたでもう、いいんじゃないかな?
タエ姫の嫁入り先が決まっていなければ、だが」と
ジト目でギリギリ現状復帰した?ナガマサを見ながらウシが言葉を続ける。
「先生。タエ姫の事をいくら好いていようとも、僕はサツマの国の事で
気持ちがいっぱいなんです。きっとまだ、彼女をを幸せにできない
……まだ僕にはいい返事ができません」
「兄も、幸せになりたい」
ナガマサはユウノシンの言葉に安心したのか、とうとう意味深な言葉だけ
言って気絶してしまった。様子を見計らった近習たちが、
やっと彼の手当てにかかる。タエはその様子を見ながら、冷静な表情で
彼へ向き直った。
「……いつか、この日々が黄金になりましょう。この世は諸行無常。
また出逢えたなら、……今日の答えを」
彼女は別れ際、とびきりの儚い笑顔を、想い人へと向ける。
【次のお話は……】
6章、あらすじと主要人物紹介になります。
【「旅の場所」福岡県 博多港区 (荒戸)】
【後書き】
ロータス「次回から琉球編だよ☆」
バックナージュニア「薩摩組は一旦休憩。お疲れミッチー☆」
ウシ「キヨマサ回は、夜半まで大変だった……」
マイチ「カンショの方は上手く広がって行きそうで良かった」
アキヒロ「出番きちゃった。頑張ろ☆」
おまけ 餞 (はなむけ) 了
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