エピローグ
オオサカ城は太閤ヒデヨシが築いた、難攻不落の城郭。
彼亡きいま。この城の主人は、
ヒデヨシの妻の1人、ヨドギミになっている。
彼女はヒデヨシの、ようやく11歳になった息子を産み育てて
次の太閤へと導かんとしていた。
「セキガハラの役で、勝ったイエヤスが調子に乗って将軍になりおった。
ヒデヨリ君の立場はどうなるのじゃ……」
城の一室、美しいはずの顔を歪めた彼女はヒステリックな表情で
頭を抱えている。
しかもイエヤスは江戸幕府を開府した後、すぐさま息子へ政権を
譲ろうとした。彼はこちらの知る限りの歴史よりもかなり早く、
スンプに城を構え隠居の用意をしている。関ヶ原以後の彼は、
今では可愛い息子たちに囲まれた3児の父親だ。……表向きは。
イエヤスの背後には那由多の銃と刀がたなびき、
長らく続いた戦国の世に終止符を打とうと時代の趨勢が、
トヨトミ家ではなくトクガワ家へ今、流れようとしている。
ヨドギミは自らを呪った。大戦でトヨトミの勢力が大きく削がれた事を。
家臣同士の争いに、あの時口を挟めなかった事を。
……奥歯を噛み締めて、後悔していた。
◇
「……父上さま、おくすりをつくるじかんですよ?」
「ちちうえー」「うえー」
まるで仔犬のように、子どもたちは読書中のイエヤスに抱きつく。
母親は違うものの、彼が老いてからできた3人の子どもたちは
目に入れても痛くない可愛がり様だった。
少し離れて母親たちのオマンとオカメが心配そうにこちらを見ている。
セキガハラの役直後に生まれたオカメの息子と、残り2人の子どもは
オマンの兄弟だった。歳は2人がまだ3つになったばかり。末の子は1つだ。
「おお、そうじゃった。教えてくれたのか、ありがとうなぁ」
イエヤスは息子たちの頭を優しく撫でる。まごう事なき、
優しい父親の姿がそこにあった。
……懐の中から、四角い板のような物を取り出す。
彼はおもむろに息子たちにその板を向け、だいぶ慣れた手つきで
映し出されボタンを押す。現代人なら何かハンドサインをするところだが、
小さな彼らも慣れているのか、大人しく並んで座っているだけだ。
「カシャリ☆」
すぐさま色付きの細密な姿絵が写り、彼はとても満足そうにし、
息子たちにもその絵を見せる。
……彼は何故か、アキヒロが失くしたはずのスマートフォンを持っていたのだ。
(ふむ。ウィルが琉球から持って来てくれたこの道具は、便利だな。
他にも仕組みはあるが、これが1番いい)
「オカジさまがきたよー」とオカメの息子が言う。
時間通りの様だ。彼女は子ども達をみて微笑む。
「おチビちゃんたちは母様のところへお戻りなさい。
父上さまはお薬の時間ですよ」と優しく言った。
子ども達は、オカジへ気持ちいい返事をしてそれぞれの母親の元へ戻っていった。
実は彼女も、現在お腹に子を宿している。悪阻が激しい時期にもかかわらず、
月が満ちればやがて母親になると、終始機嫌が良い。
薬を作る道具は控えている腰元たちが全て持っている為、
彼女はいつも通り手ぶらだ。
滑らかな動作でスマホを懐にしまったイエヤスは、身重の彼女を慮って、
そっと彼女を席まで誘導する。彼の自然な女性の扱いに、違和感がない。
「この子も、わんぱくな子に育って欲しいものです」座ったオカジは、
お腹をさすりながら、さっきまで子ども達のいた場所に目を向けて、
眩しそうな、嬉しい笑顔を向けている。
「あの子達を見ていると、……ノブヤスを思い出す。
わしもまだ至らなくて、セナもいて……」
彼は聞いたのがオカジだと思い直し、言葉を急いで言い換えた。
「オカジも元気でいてくれよ?一緒に赤子を育てよう。の?」
声がひっくり返ったのは、ご愛嬌だ。
「はい」とても良い笑顔でオカジは彼に答える。
それから周りにいた腰元達も加わって、彼らはのんびりと薬を作り始めた。
◇
エドではイエヤスの息子、ヒデタダがエド城とその周辺の
増改修工事に勤しんでいた。ミヤコのゴショでイエヤスが将軍になった
直後、彼は将軍にこう言われている。
「まずはエドを任せる。面倒かも知れんが、お目付役に再びヤハチロウを
付けよう。此度は使いこなせ」
ヤハチロウは長い間イエヤスと過ごした朋友であり有能な策士であったが、
セキガハラではヒデタダに付き、開戦までに戦場にたどり着く事が出来なかった。
他にも最古参になる側室のオチャアがエドに残り、
特にオチャアが奥向きへ睨みを利かせていた。
「……スンプにいると、他の側室に悋気が起こりそうでの」
年嵩のオチャアは申し訳なさそうにエヨに言った。聞いている女性は
ヒデタダの妻、 まだ生まれていないタケチヨの母である。
彼女はこの城の女主人であった。
「オチャア様、そんな事を仰らないでくださいまし。
孫ができたら一緒に喜んではくれませんか」とエヨは心配気だ。
万事が順調に進む中、彼らにとっての「琉球」とは遠い遠い世界の事だった。
しかし、面子を潰されるのを何よりも嫌う彼らにとって、
彼の地へ良い印象を持たなかった。
【次のお話は……】
おまけ。
ナガマサとの交渉が終わり、帰途に着くウシ達。
「遠足は帰るまでが遠足だよ」とか、
校長先生経験者のウシが言いそうな?
【「旅の場所」大阪府 大阪市 大阪城跡・東京都 千代田区 江戸城跡】
【後書き】
アキヒロ「……スマホ。イエヤスとスマホ……Σ(゜д゜lll)」
イエヤス「子育て日記に使ってるよ☆まぁ細かいことは
母親たちにまかせているけど( ´ ▽ ` )ニコニコ」
オカジ「メガネと鉛筆より、くどくない」
ウシとサイモン「「無線通話機?」」
エピローグ 3児のパパ (63歳) 了
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