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異世界単騎行 The Battle of Okinawa 1609 ⇄1945  作者: ロータス
第6章 薩摩組は全員集合★ 1604年 霜月
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第50話

挿絵(By みてみん)

 キヨマサの前から部屋に下がったあと、タエの目の前に、酔い潰れた

 ユウノシンが転がっていた。


 旅の空、彼はなんとか成年に達してはいるものの、酒への弱さはまだ

 克服できていない。彼はキヨマサの小姓に酒を勧められていた。

 気力で何とかここまで歩いてきたのだろう。


 タエは仕方なくユウノシンの着物を少しだけ緩め、彼の肩を担いで

 用意された寝床へ誘導する。眠っているユウノシンは

 

 「先生、僕も……何か弾ける様になりたい…なぁ……」と何やらゴニョついている。


 どうやらユウノシンは、タエではなくて、ウシに担がれていると

 勘違いしている様だ。夢うつつに

 「先生、すみません〜☆」と

 嬉しそうに絡んで来た時は、彼女は体を硬くして動けなくなった。


 その場の弾みでタエは寝床に組み伏せられる形になったが、

 意外と重たさのある彼から逃げられない。観念した形で、ため息をついて

 彼の頭をそっと撫でる。やがて穏やかな2人の寝息が、聞こえて来た。

挿絵(By みてみん)



 早い朝方、タエが目を覚ますと、困惑気味な表情をしているユウノシンが

 目の前にいた。彼は血相を変えて、


 「やんごとなきクロダの姫に、ご無礼つかまつりました。この……」


 「私だと思って、無礼を働いた訳ではありますまい。

 ……良く眠れましたか?」と言葉を遮る様に言葉をかけた。


 「良いのです。久々に誰かと良く眠れたのですから。

 ……兄様たちを思い出しました。ありがとう」と続ける。


 ユウノシンは申し訳なさそうに、言いたい言葉を飲み下していた。

 何事もなかったとはいえ、姫君を押し倒した狼藉は、どのように

 許されるべきか、彼には考えがつかなかったのだ。


 「私の事が気になるのですか?……傷物には全くなっていません。

 ユウノシン様は、考えが硬くなってらっしゃる。

 兄弟のままごとと、同じ事ですのに」と彼に笑顔を向ける。儚い笑顔だ。


 ユウノシンは、思わず彼女の笑顔に撃ち抜かれてしまう。


 彼は、ゴクリと息を呑む。しかし次の瞬間には、その意識を切り捨てた。


 (貧しいサツマの国がこれから富めるようになるか、

 先生の後ろについて見極めようと覚悟を決めたのだ。

 女性の色香になど……構っている暇はない)


 ユウノシンは事務的な対応でタエに応対し、やがてキヨマサの小姓が、

 彼らの元を訪れた。ウシはいつ部屋へ帰ったのかわからないが、

 隣室の床でまだ起きてこない。

 ……昨日の琵琶演奏)は、それだけ凄まじいものだったようだ。



挿絵(By みてみん)

 昼近くになって、ジュウアンが部屋を訪れた。城詰の僧侶と旅程と

 装備の準備をしており、宿になる寺へ通達を早馬で送っているといった。


 「どんなに遅くても明日の昼過ぎには、支度ができるようです。

 セイショウコウ様のご威光があればこそですね。


 ……本日は皆様、のんびりしていてくだされ」


 彼は微笑んで「では、これから仏事がありますので、失礼致します」と

 言い、また颯爽と居なくなった。



 昼過ぎ、やっと起きたウシが支度を済ませてユウノシンが用意した

 玉子粥を啜っている。ユウノシンとタエは、動きがだいぶ緩慢になっている

 彼を気づかい、様子を見ていた。


 「……昨日は調子に乗りすぎたな。2人とも申し訳ない」と

 彼はとても済まなさそうに言う。


 「琵琶の手習いは、武家にも歓迎される嗜みです。兄様も平家物語を良く

 お弾きになりました」とタエが彼の言葉を繋ぐ。


 「ではクロダ家でも演奏の機会があるのだな。調子を整えておかねば」と

 彼はタエを見て自嘲気味に笑う。


 ウシの様子を見にきたキヨマサが部屋を訪れ、彼はウシのように

 目立つ疲労はせず、けろりとしている。


 「……昨日は夜半まで愉しんでしまったからの。詫びと言っては何だが、

 自慢の馬や城を皆に披露したい。ウシ殿、よろしいか?」


 ウシがユウノシンとタエを見ると、楽しそうにうなづいたので、

 彼はキヨマサの誘いに乗ることにした。



 ……クマモト城は規模の大きな城郭ではあったが、

 ウシの様子を慮ったキヨマサの案内は、実にスマートなものであった。


挿絵(By みてみん)

 厩での名馬・帝釈栗毛の美々しい姿と、偉丈夫なキヨマサの

 彼への入れ込みぶりは、ウシ達の目を楽しませた。

 また、クマモト城の表部分の大広間や、通りがけにあった、

 たくさんの家臣団の詰める役所、そして休憩がてらに即席に作られた

 茶席へ案内される。


 「簡単なまんじゅうだが、口に合うといいな」と

 茶席の主人となったキヨマサは3人を見てニコニコしている。

 茶菓子は小豆豆を使った小さな饅頭で、動き回って疲れた彼らに優しい

 甘みを与えていた。

挿絵(By みてみん)


 キヨマサは城の案内の最後に、彼らを天守閣の最上階を案内することにした。


 「普段はここには人を入れる事はしないな。ここはとっておきの場所なんでな」と

 キヨマサも明るい表情で言う。ここからの眺望は、広くヒゴの国を見ることができた。

 高い場所に来て普通の反応をする2人とは異なり、ウシが窓辺から

 眺めを見ながら声を殺して泣いている。


 キヨマサは不思議がって涙を拭いている彼に声をかけたが、

 彼の考えを読み取ることまではできなかった。



挿絵(By みてみん)

 翌日、通常通り、夜明け前に起きたウシは、木刀を握り庭で素振りをしている。

 調子も戻って来たようだ。日が昇ってジュウアンから予定通り、

 今日の昼過ぎにクマモト城から出立できると報せもあった。


 この日からタエの服装は、尼姿から騎馬に向いた和装の袴姿になり、

 ユウノシンはタエの髪の長さを見て驚く。

 彼女は普通の尼僧のように、剃髪をしていなかったからだ。

 彼は、困惑気味な表情でタエを見るが、彼女は平然と答える。


 「尼僧の格好は、サツマへ向かう際に男衆から、襲われる割合を

 限りなく減らすための変装です」


 やがてジュウアンも旅支度でやってきた。やっと全員揃い、

 大広間でキヨマサと城に暇乞いを告げる。


 旅の支度が整った馬にそれぞれ騎乗し、彼らはクマモト城を後にした。

 天守閣の上階から静かに見送るキヨマサは、寂しそうに笑っている。

挿絵(By みてみん)



  【次のお話は……】

   残念なクロダのお兄さん登場。


  【「旅の場所」熊本市 熊本城跡】

挿絵(By みてみん)


   第50話 遺る者、去りゆく者 了


   ▼二巻カラーイメージPOP▼挿絵(By みてみん)

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「異世界単騎行」小ネタ帳
(活動報告ページへ移動)
【序章】
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北谷町 桑江宜野湾市 普天間/宜野湾
マイチ浦添沖縄戦
【2章】
バックナー中将と糸満市 名城
首里城跡那覇市 泉崎/国際通り/
久米村 謝名利山
勝連城跡

読谷村 野國 野國総管

【3章】
オリンピック作戦/伝染病について

【4章】
i592871
鹿児島県 旧喜入町と牛島滿中将
鹿児島城跡と島津忠恒
作中救貧作物ビッグレッド冠と簪
【5章】
中城村 当間地域と現地仕様なメイドさん
国王と聞得大君
ウシデーク百十踏揚
うるま市 海中道路
【6章】
加藤清正と黒田長政薩摩焼酎
熊本城跡博多港
徳川家康と近世日本の幕開け

【7章】
i592872
アメリカ合衆国 ケンタッキー 州戦艦ミズーリ
地産地消とンムクジアンダーギー海邦養秀
【8章】
【9章】
ジュゴン
ジュリ売り/糸満売り沖縄戦の戦没者数
【10章】
千姫

【11章】
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島田叡 沖縄県知事



「小説家になろう」投稿分では
こんな感じでイラストを描いたり、

たまぁ〜にAIイラストを作成しています。
 ※AIイラストについては作品掲載は無し、
 活動報告ページで使用感を述べる感じです。
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画像をクリックで関連ページ   (「小説家になろう」活動報告、みてみんブログページへ) に移動します。

※ナシロ村の画像だけ本編エピソードへご案内☆




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