第48話
クロダ家では、3人の子どもたちが育っていた。
嫡子のナガマサと、次男のクマノスケだ。実に仲の良い男兄弟だった。
……あの朝鮮の役までは。
クマノスケは朝鮮の役へ出征出来なかったために、結果的に命を落とした。
長い時間を共に過ごしていた兄のナガマサは、愛しい弟を喪ってしまったのだ。
彼の死はそれまで明るい人物だった、兄ナガマサの性格に影を落とした。
そのことが返って、皮肉にも関ヶ原の戦役で冷静さを保つことができた
要因でもあるのだが。
妾腹のタエはクロダの兄弟を幼い目で見ながらも、大切な宝物を
見ているようだった。弟や妹に優しい長兄と、溌剌とした次兄。
彼らのいるクロダの家は確かに安泰だったのだから。
◇
ある日、次兄は城の郊外まで遠乗りに出かけて、
小さく変わった鉢の様な形をした、土の器を拾って来た。
器の口元は波打っていて、日頃食事に使う器とは違ってざらついており、
屋根瓦をそのまま器にした様な、不思議な趣きを放っていた。
「タエ、変わった器を拾って来たぞ。花でも活けてやるといい」
彼に半ば押し付けられ、彼女は困惑する。
普段使いの花器とはあまりにも掛け離れ、タエの技量では
活けることさえできない。
「……どれ、私がやってみようか」優しい声で長兄が幼いタエに寄り添う。
◇
兄弟たちは庭の花をいくつか頂戴し、縁側で花を活けてはみるものの、
やはり難しい。長兄は花器に見立てたこの器の前で、黙り込んでしまった。
「兄者がこんなに難儀するとは思わなんだ。
活けてみようかな?」と聞いた。
「まぁ、試してみるといい」とやりとりが進む。
……少しばかり時間が経つと、そこには素朴な風景が広がっていた。
クマノスケは、扱いの難しい花器を使いこなして花を活けたのだ。
「兄者、こんなモノかな?」
「凄いなクマノスケ。タエも見てみろ」と彼女の方へ長兄が声をかけるが、
彼女は眠ってしまっていた。それを見た2人は、笑いを堪えている。
しばらくして自室に用意された床で目が覚めたタエは、
床の間に飾られた花を見て声を出さずに微笑む。
愉快な気持ちにさせてくれる兄達は、彼女の自慢でもあったのだ。
タエは思い出の彼方にいる兄弟達のことを思い出しながら、
旅の仲間を振り返る。
歳の近いジュウアンは社交的だが、厳格な僧侶には変わりない。
歳下のユウノシンは、幼い頃に見た長兄の印象に近かった。
年嵩のウシは、若い彼らを見守るようにして、
前に出ることは少ないが、2人は敬意を持って彼に対する。
調和の取れた彼らの旅程は、あっという間に過ぎていった。
【次のお話は……】
ウシ、クマモト城deオンステージ☆
【「旅の場所」岐阜県 垂井町 菩提山城】
第48話 「シュバルツブルーダー」 了
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