第6話
次の日、悲しいかな叡弘は朝の早い時間におっさんの声で
起こされた。憂鬱な気持ちで視線を進めてみると、
山口さんが笑顔で待っている。
彼は気軽に身一つで出発できるので、支度を今か今かと待っていたのだ。
叡弘は急いで身支度を終わらせて薬草のステータスを見てみる。
昨日採集した薬草は二束。ステータス画面では20万の価値を示す。
今日向かう「フテンマ」という街にもお役所があり、
そこで売却して資金調達するまでが予定だ。
街道伝いにクワエ村からフテンマの街に入ると、
バイクから念話で簡単な説明を受けた。
街の中心部に10階層程度の大型ダンジョンが鎮座しており
棲みついた化け物から採れる素材と、
周囲に薬草の群生地が広がり住民や冒険者が収益を挙げる
商業の盛んな街らしい。
街の治安管理のために大きめの役所、バンショが配置され、
北の農村部とは様変わりした光景が見られる、とのことだ。
早速街の中までバイクを進めて行く。
馬とは違う生き物に乗っていると気付くやいなや、
周囲の人々は驚いて道を開けてくれる。
魔法使いかその見習いか……
とりあえず開いてくれた道を徐行運転で進んでいくと、
バイクがマッピング出来た目的地へ案内される。
バンショは大きな門構えの建物で中に小さな建物が幾つもあり、
部署ごとに分かれていた。
馬留めの隣にバイクを止め、鍵をかけてから採集物換金の窓口へ並ぶ。
量も少ない取り引きが続き、行列はすぐに消化されて
彼らの順番に変わっていく。
「いらっしゃいませ、薬草の換金ですね。こちらへどうぞ」
薬草を二束差し出すと、係員は予想外の行動に出る。
上司を呼んで薬草を見せたのだ。
「これはユメミグサという大変珍しい薬草ですね。
本来はナーファ近くに住んでいる魔法使い達が病気の治療に使う素材です。
一年に数房しか取引ができないアイテムですね。
優先的に是非、こちらで買い取らせて頂きたい」
と年嵩の彼は嬉しそうに取引を持ちかけた。
2人は説明をしてくれた係員と上司の様子を窺いながら、買い取ってもらう。
意外な事に外見で差別する素振りは、微塵も見られない。
「一束で10万銀、銅だと1000万銅です。お支払いはどの様になさいますか?」
まだこちらの貨幣価値がよく解っていないが
叡弘はとりあえず9万を銀、100万銅での支払いを依頼する。
渡された銀貨9枚は500円硬貨ほどの大きさで、
銅貨は10円硬貨程の大きさで実際の物質の価値よりも
普段の生活での使い勝手を優先された造りになっていた。
それから外国通貨との両替や大きな桁など複雑な取引は
ナーファのみで限定されているので、向かってみることも勧められる。
ついでに宿の案内を教えてもらう。バンショの隣が宿をやっていて、
一泊朝食付きで10万銅、これは初心者向きの宿のようだ。
宿のグレードでは高い方らしい。
宿は見た目和風で、一階は広くて受付と屏風の間仕切りが目立つ。
気軽に安く泊まるならコレで差し支え無いが、
二階に行けば六畳間の座敷も借りられるようだ。
……風呂は店から数軒先に大きな浴場の案内もあってか、
今回は思い切って二階座敷に泊まる事にする。
「お乗物は馬ではないので、宿の入り口の土間に留めておきますか?」
とバイクについて店員からの申し出を受ける。
目が行き届かなくて故障するよりも、
何も起きないであろう土間の方が良いので店員の言葉に甘える事にした。
他にも宿から少し距離が有るものの飲み屋街もあるので、
晩飯を宿では出さない方針を取っているらしい。
(バンショはお役所やゲームに出てくるギルドみたいなところなのかも?
この国では装備を整えたらモンスター、いや化け物退治でウハウハできるのか)
座敷に入ってやっと一息つけた叡弘に、山口さんは恐る恐る尋ねる。
「俺を退治しないでくれよ。できれば人間の身体に、戻りたいんだからな?」
クワエ村での山口さんへの対応は化け物扱いだったので、
安全確保が彼にとって一番の課題らしい。
「それと叡弘、やっと落ち着いてきたから聞くが、
バイク用のヘルメットは持ってないのか?
ノーヘルで捕まるのはゴメンだぞ。代わりのものを作るか買えよ?」
山口さんは続けて、
「ダンジョン前に市場が開いているらしいから、明日見に行こう。
丁度いいのがあるといいよなぁ……」
言うだけ言うと、満足してしまったのか彼は大きくあくびをして、
板床にそのまま寝転ぶ。今日は随分早起きしたらしい。
(ユーレイだと思っていたけど、昼間でも発光して出てくるし、寝ちゃうし。
小さくなったり自分の想像した以上の事をするんだよなぁ)
山口さんの目の前の有り様に、彼はしばらく考え込んでしまう。
◇
疲れたのか屋根の下で落ち着いて休めると思い
部屋に備え付けてある押入れを開くと、
叡弘の目から見てもあまり綺麗にされていない状態の布団が出てきた。
すかさず無言でパタンと襖を閉める。
(寝袋にしよう、そうしよう)
眠る時間にはまだ早いが、彼は寝袋に潜り込んだ。
遠くに街の喧騒が聞こえ、うとうとと眠りに入っていく。
【次のお話は……】
初めての宿屋、やっと落ち着いた主人公たち。
【「旅の場所」沖縄県 宜野湾市 普天間】
第6話 初めての街、「フテンマ」 了
作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018




