表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界単騎行 The Battle of Okinawa 1609 ⇄1945  作者: ロータス
第5章 ニライカナイでの悪巧み 1604年 神無月
67/159

エピローグ

挿絵(By みてみん)


「……若造。私の手を止めた、

 という事はそれだけの価値があるんだよな。言ってみろ」


 将軍はこの上なく不機嫌な様子で山口さんを睨む。

挿絵(By みてみん)




「ミスターバックナー、私はあなたの生きていた時代から

 70年後の世界よりやって来ました。

 名前は、山口賢一と申します。貴方は小さなこの国を守る、

 と言っていた。やはり戦を起こそうとお考えのようですね……」


 山口さんは、将軍の殺気だった様子に冷静な言葉で答える。


「……そうだ。この国は300年後ぐらいに、

 多くの悲劇と引き換えに我々が征服した土地だ。だが私は……、

 そこまでしなくてもいいとも思っている。


 もうあんな酷い事を繰り返すのは、……本当は嫌なんだ。

 死んで欲しくない多くの戦友たちの顔を、

 思い出すこっちの身にもなってみろ。


 それと大義名分ならきちんと得ている。

 この国でできた私の友は、

 とても小さなこの国の、健やかな安寧を願っていた」

挿絵(By みてみん)


 山口さんは深呼吸をして、吐き出す。

 ここで言う事を間違えてはいけない……そう思ったのだ。


「……貴方は沖縄戦において非常に勇敢な指揮をとりました。

 部下が制止しても現場に向かう程の立派な指揮官です。

 ですが、私は貴方から、聞きたい事があります。


 ……近く攻めてくるサツマへの対処に当たって、

 どのような準備をなされていますか?

 私もこの国をどうしても救いたいのです。


 ……私の学んだ戦後の歴史教育では、非常に長い間この国の誇りは、

 外国によって奪われたままでした。


 ……貴方のお返事次第では、私も戦闘に加勢することを検討いたします」


「……お願いです。どうか選択を、誤らないでください。

 私たちは、分かり合えるはずです。どうか」


 絞り出すような哀願を、山口さんは彼へ投げかける。

 将軍は、苦い表情でそれを見ていた。



「……私の戦死した70年後から来た、と言ったな。

 東京には、進駐できたのか?」訝しげな表情で山口さんを見る。


「……マッカーサー元帥を頭にしています。

 降伏調印式は、戦艦ミズーリ号の船上で行われました」

挿絵(By みてみん)


「それだけで充分だ。私は私の仕事をしたまでだ。

 望んだ結果とは違ったがな……」感慨深げなため息を吐く。

 「ではこちらが答える番だな。ミスター・ヤマグチ?」



「……まず沖縄本島の測量図を陣地作りのために、

 アジたちを脅して作成させた。

 ちょうどマイチ殿が、スィートポテト

 ……こちらではカンショ、もしくはサツマイモと呼ぶらしいが、

 それの普及を隠れ蓑にした。


 次に運天港(うんてんこう)での木造軍艦の発注……と思ったが、

 色々あって、

 彼女たちの能力で近代兵器水準の軍艦を作ってもらうことにした。


 マウシ嬢の身体一つでそれが叶うのなら、

 だいぶ安上がりじゃないか?殿下もそう思うでしょう?」


「……ふふ。計算高い人ね。でもそういう所、嫌いじゃないわ」

 将軍の後ろから、人の形をした光の塊がすっと現れる。



挿絵(By みてみん)

「……もう、ウシデークの5倍の量、望むものを作り出したわ。

 すでに薬品の設計図もあることだし、身体をおよこしなさい、マウシ」


 人々の視線が、1人の女性に集まる。

 彼女は、あまりの出来事に、動くことはできなかった。


「ダメだ!マウシは、僕の妻になるんだ!

 いくら王女殿下でも、許さない!」


 ヨシュアは血を吐くように叫び、彼女を守ろうとする。

 山口さんは、ヨシュアの手に収められた刀を見て、驚いた。


「その刀、千代金丸(ちよがなまる)だよね!なんで?」


「この刀なら、あの化け物を倒せると、

 ある女性から渡された。半信半疑だがな!」と

 怯えた様子のマイクが精一杯答える。


「あの刀は嫌いじゃ。……嫌いだったキコエオオキミの気配がする。

 私では触れられない」彼女は慄いて気配を消した。



 叡弘はというと、

 キーちゃんとともに置いてけぼりを食らっていたが、

 やがてヨシュアとマイクに

「……僕があの王女を仕留めるから、その刀を貸して欲しい」と淀みない声で提案する。


「彼女をその刀に封じ込めれば、誰も傷つかない。

 サイモンさんは、取り憑かれた刀から力を取り出したらいい」


 かつて彼の学生時代に、テレビゲームをやり込んだ経験が、

 まさかこんな形で活かされるとは思いもよらなかったが……


 彼らは一瞬躊躇して、渋々叡弘に刀を投げ渡す。

 不思議なこの刀は、傷一つ付かず、彼の手に収められた。

 封印帯を解かれ、スラリと刀身を露わにする。


 ヌメヌメと輝くそれは、飢えた狼の口元を想像させた。


 刀を持ったことで気配を消している王女の、力の残滓を感じた彼は、

 「そこだ!」と力一杯一突きする。空を切る刀の付近から、声が聞こえてきた。


「……酷いわ。

 私は素敵で若い殿方たちと、燃えるような恋がしたかっただけよ。

 坊や、貴方にはわからないでしょうね……」

 やがて彼女の気配は、刀身に飲み込まれていった。


 刀を収めた彼はすかさず、

 「王女様はこの刀の中で生きてる。サイモンさん、

 どうかこの刀でこの国を救ってください。そしてマウシさんは、

 ヨシュアさんへ譲ってください」と将軍へ刀を投げ渡す。


 「なんてことだ。フミアガリ殿下……」

 と受け取った将軍は驚いている。


 しかし、輝きを増した千代金丸を彼が手に取ると、

 ……理解したようだった。


 周りの目も気にせず彼は、魔力が切れようとするこの土地で、

 まるで全てを知っているかのように、

 鞘から刀を抜いて切れのあるしなやかな剣舞を舞い始めた。


 やがて金色と朱色の輝きは失せていき、最後の残滓が刀身を弾くと、

 島の沖合にゴォーーンと重い音が鳴った。

 彼は大音声で「ミズーリ!」と叫ぶ。


 ……声の先で戦艦ミズーリがそこに出来上がっていた。

挿絵(By みてみん)


 キーちゃんが叡弘に

「あの船は、私と同じ。

 魔力で動く船です。力はあの刀から、送られているみたいですね」と伝える。


「ハハッ、やっと手に入れた!沖縄作戦完了までもう少しだったんだ。

 もうあんな事はこりごりだからな!今のうちに潰しておくのが、

 上策ってもんだろ?なぁ王女殿下……」と


 将軍が収めた刀を、愛おしそうに撫でて言葉をつなぐ。

 山口さんはそれを見て固唾を呑んだ。


 戦艦の確保ができたことで、

 彼の描く薩摩侵攻計画が具体的な形を帯びてきたのだ。


「ミスターヤマグチ?交渉テーブルにつこうか。これで話し合いができるな」と

 彼は上機嫌に山口さんを見つめてそう言った。

挿絵(By みてみん)



【次のお話は……】

 5章のあらすじと主要人物紹介になります。


【「旅の場所」沖縄県 うるま市 宮城島 シヌグ堂遺跡】

挿絵(By みてみん)


【後書き】

 実際には存在しない、

 男性版ウシデーク(神事)を将軍でやりました★

 ファンタジーだからコレ。


 エピローグ 絶望の階 (きざはし) 了


 ▼二巻カラーイメージPOP▼挿絵(By みてみん)

 作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「異世界単騎行」小ネタ帳
(活動報告ページへ移動)
【序章】
i592868
北谷町 桑江宜野湾市 普天間/宜野湾
マイチ浦添沖縄戦
【2章】
バックナー中将と糸満市 名城
首里城跡那覇市 泉崎/国際通り/
久米村 謝名利山
勝連城跡

読谷村 野國 野國総管

【3章】
オリンピック作戦/伝染病について

【4章】
i592871
鹿児島県 旧喜入町と牛島滿中将
鹿児島城跡と島津忠恒
作中救貧作物ビッグレッド冠と簪
【5章】
中城村 当間地域と現地仕様なメイドさん
国王と聞得大君
ウシデーク百十踏揚
うるま市 海中道路
【6章】
加藤清正と黒田長政薩摩焼酎
熊本城跡博多港
徳川家康と近世日本の幕開け

【7章】
i592872
アメリカ合衆国 ケンタッキー 州戦艦ミズーリ
地産地消とンムクジアンダーギー海邦養秀
【8章】
【9章】
ジュゴン
ジュリ売り/糸満売り沖縄戦の戦没者数
【10章】
千姫

【11章】
i592874
島田叡 沖縄県知事



「小説家になろう」投稿分では
こんな感じでイラストを描いたり、

たまぁ〜にAIイラストを作成しています。
 ※AIイラストについては作品掲載は無し、
 活動報告ページで使用感を述べる感じです。
i975973 i975974 i975975 i975976
i975977 i975978 i975979 i975980
i975981 i975982 i975983 i976324
i975984
i976326 i976327 i1063390 i1039047
画像をクリックで関連ページ   (「小説家になろう」活動報告、みてみんブログページへ) に移動します。

※ナシロ村の画像だけ本編エピソードへご案内☆




 お読みいただきありがとうございます。  作品および画像の無断引用・転載禁止。©️ロータス2018
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ