第41話
叡弘は夕暮れに差し掛かったナカグシク屋敷の庭で、
キーちゃんのメンテナンスをしていた。
バイクの機械いじりは得意ではないものの、最近ではキーちゃんの誘導なしで
手入れができるようになっていた。
「アルジ、そこはもう少し強く拭いてください。
あれ?スイの方向から高エネルギー反応が。
高エネルギーとサイモン・バックナーの存在が確認されました。アルジ?」
叡弘は、頭上を駆け抜けて行った謎の物体を見上げて驚く。
光の塊の中に、人影が微かに見える。岸向こうに在るカッチンの御城へ
取り付いたそれは、かつてあった落城の再現にも見えた。
「……サイモン・バックナーって、そういえば山口さんが気にしていた人だよね。
行かなくちゃ。キーちゃん、今日はこれまでだね」
庭の隅にキーちゃんを所定の位置へ納め、山口さんの方へ向かっていった。
彼も見ていて、呆気にとられている。
「山口さん、キーちゃんがあの光の中に、サイモン・バックナーさんが
1人でいるって教えてくれたよ。どうする?」
彼はわけのわからない問いに頭を傾げていたが、
「……行くよ。なんだかわからないけど、古い民話みたいだよな」と
驚きつつも返事してくれた。
かくして山口さんと叡弘の、カッチン間切への2人乗りの旅が始まった。
ナカグシクの集落では大勢の若者が、カッチン間切へ向かう光に慄いていた。
特にカッチンとヨナグシクに家のある若者は、
荷物をまとめて故郷へ戻る用意をしていたのを見た2人が、
大勢の若者たちへここで待機して待つようにと強く指示を出す。
未来を支える彼らに危害があっては、この国の明日がなかった。
キーちゃんのナビで、ナカグシクからミサト・グシカワ間切を経て
カッチン間切にある御城……山口さんは「勝連城跡」と呼んだ
場所へたどり着いた2人は、収拾の付いていた役人たちに話を聞き、
光の塊はナーグシク、
つまりは「宮城島」へと向かったと聞くことができた。
宮城島の方角を見ると、
ヘンザ島まで砂浜の道が出来上がっている。
彼らは叡弘達に、あと2時間ほどで
潮が満ちてしまう事を教えてくれた。
目的地へ向かおうとするが、キーちゃんが動いてくれない。
「どうしたの?」と聞くと、
「……ステータス確認を行なってください」の一点張りだった。
急いでキーちゃんのステータス確認を行う。
久しぶりに見た画面は、時間の経過を感じさせた。
「だあー!叡弘!どうする?」
「とりあえず、魔力の補充をしなきゃ。僕ので足りるかな」
叡弘はしばらくぶりに自分のステータス画面を開くが、
要求された分には足らず、
「基礎が注ぎ込める魔力の値です。山口サマの方も
確認してください」と
キーちゃんから説明が入る。
急いで山口さんの画面も開いた。
「……俺の分だけでも、充分じゃないか。
叡弘、魔力の送り方を教えてくれ」
とにかく急いでいるので、魔力補充を叡弘が先導する形で、
山口さんと一緒に行うことになった。
「ひとまず、頭の中を空っぽにして、手をこっちに当ててくれる?
僕が山口さんの魔力を、キーちゃんに入れ込むから。
……マイチさんのことを考えてもいいかも?」
……無言で山口さんはうなづき、叡弘に誘導された場所に手を当てた。
叡弘も手を重ね、深呼吸して力を込める。30分はかかっただろうか、
やがてキーちゃんから返事があった。
「……アルジ、水陸両用ストレージ解放しました。目的地へご案内します」
「キーちゃん、宮城島までのルートを説明してくれ。
具体的には、どこに行くんだ?」と山口さんが問う。
「……目的地はナーグシクの聖地、……シヌグ堂。島の高台にあり、
安定した特殊な磁場が、現在発生しています。海沿いの海面を巡り、
最短で30分で到着します。しっかりつかまっていてください」
急いで2人を乗せたキーちゃんは、ぬかるみ始めた砂浜を進んで行く。
潮の流れは早く、ヘンザ島にたどり着く前に海面が這い寄ってきたが、
追加された能力のおかげで、問題なく進むことができた。
もし、アナウンスが間に合わなければ、彼らの旅路は
ここで終わりを迎えていた事だろう。
海面を滑らかに進むキーちゃんのルートは、あっと言う間に
ナーグシクに着いた。しかし、高い断崖の上にあるシヌグ堂まで、
彼らにはかなり荒っぽい運転でたどり着いたことは、ここで附記して
置かなければならない。
……たどり着いた先には、金色と朱色の光をまとった、
美しい女性たちがいた。
なぜか彼女たちの前で、3人の外国人が、大声で怒鳴りあっている。
「……彼女は渡さない! たとえ誇りと引き換えにしたって、構わない!」
「……ここは作戦地ではありません閣下。
彼女たちは、国に認められなくても、国の宝ですよ!」
「どうか2人とも、黙って言うことを聞いてくれ。
……私はこの小さな国を、救いたいだけだぞ!」
不思議な光景を窺う山口さんは、大きな咳払いをして、
「ハロー。大変お取り込み中ですけど、
サイモンバックナーさんはどちらですか?」と大声で問いかける。
それを聞いた3人は、「「「邪魔するな!」」」と
一斉に怒鳴るが、やがて年嵩の1人が、ドスの効いた低い声で
「……私だが何の用だ?」と答えた。かなり機嫌が悪い声だ。
降り注ぐ星灯も届かない胸中の闇に、彼らの思惑が蠢く。
【次のお話は……】
……将軍との出会いを果たした主人公たち。
そこで行われた選択は、果たして正しいものだったのか?
【「旅の場所」沖縄県 うるま市 宮城島 シヌグ堂遺跡】
第41話 久しぶりの「ステータス確認」 了
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