第40話
スイ城・ダンジョンの神龍は、夜のスイ城から韋駄天の如く
カッチン間切へ向かう。モモトフミアガリのかつての嫁入り先は、
本当にあっと言う間に着いた。
向かってくる光の塊にハエバル村の人々は恐れ慄き、マイクとヨシュアは
その様子を見ているだけで精一杯だった。その間に龍は御城の石積へ
絡まるようにして取り付き、2人を降ろした。
龍の背中から降りてきた2人を、カッチンのペーチンが出迎える。
将軍から紹介されたモモトフミアガリを一目見るなり、彼は頭を
地面に擦り付け、平伏する。
目当てのマウシを探していると伝えると、彼は真っ青になってこう言った。
「ノロのマウシは、ナーグシクでただ今、ウシデークを行なっています。
今手を出せば、彼女の命は保障いたしかねます」
「私が術式の音頭を取れば、一年かかる日程を1日で、
必要以上の物を充たす事ができます。マウシも無駄な時間をかけたくないはず」
「ですが、どうやって……」
「ふふ。私に考えがある。さあ、行きましょう?」
「お待ちを、男性のウシデーク参加は認められておりません」
「彼は私を守る騎士よ? 魔法術式を作った私に属する者なら、関係ないわ」
「ですが……」とペーチンが食い下がる。
「私は100年以上も暗い地下で眠っていた。地上で再び暮らすために、
能力が最も近いマウシの身体がどうしても要るの。邪魔立ては許さないわよ?」
言葉の終わるのが早いか、ペーチンの着物がくすぶり始め、
彼は悲鳴をあげる。
幸い軽い火傷で済んだが、彼女は彼を恐怖によって服従させた。
「ナーグシクに行くわ。神龍なら一跳ねの距離よ」
彼女は拒否を許さない口調で将軍を誘う。
彼は事の成り行きが上手くいきすぎて、何が何やら訳が分からない状態
だったが、誘いに乗った。
再び彼らは龍に乗り、北東へと向かう。
◇
マイクとヨシュアがフル装備でカッチンの御城へ駆けつけてきた。
ヨシュアは行き違った光のかたまりの中に、中将閣下の姿を見て
悪い予感しかなかった。城の広場にいた火傷を負ったペーチンが
泣きながら彼らへ謝り、
彼は急いでナーグシクへ行くようにと2人に伝えた。
「……マウシがマウシで無くなる前に。早く、行ってください。
彼女はあなたの事を気にかけていました。
モモトフミアガリ様は以前、哀しみのあまりに、この国全体の魔力を1度
捻じ曲げた事のある方です。どうか気をつけて……」
それだけ言うと、ペーチンは気絶してしまった。
周囲の者が手当てをするために彼を屋内へと運んでいく。
「わかっていたさ。お前たちは両想いにならなくちゃいけないと。
さあ早く、マウシの元へ行こう」
マイクはヨシュアに話かける。相当やきもきしていたようで、
2人はヨナグシク方面へ向かう門へと向かった。
ヨシュアは泣きそうな顔でマイクの背中を見ている。
マラリアの過酷な治療や、異世界に転移した時でさえ見せなかった表情だった。
彼らの後ろから馬の嘶きが聞こえ、2人は振り返って驚く。
ビッグ・レッドが女性を乗せてそこにいた。マイクとヨシュアは息を飲む。
「私はキコエオオキミと申す者。お主らは勇者と見て間違いないな?
この馬とこの刀を渡すゆえ、あの「化け物」を退治して欲しい。
あれが実体を持ったら最後、この国は焦土と変わる。頼む」
「俺たちには銃が……」面倒くさい表情をして、マイクが言うと、
「この刀はチヨガナマル。古き王の宝刀じゃ。私のありったけの力を込めた。
実体のない者も切ることができる。馬に荷物は無用じゃ。
二人乗りで、早よ行け」
それだけ言うと、彼女は霧のように消えた。
急いで装備を解き、ヘルメットと軍服のみの軽装で馬へ騎乗を試みる。
彼らは馬に跨るのは初めてだった。
乗った途端に馬はお構いなしに駆け足をとる。
2人は必死にまたがり、彼はナーグシクにつながる「海の道」を駆け抜けていく。
海はちょうど干潮で、満天の星灯が砂浜を照らし駆け抜けることができたのだ。
ナーグシクの前に、ヘンザ島が2人を出迎えた。
島を迂回する街道を抜け、目の前にナーグシクの港が見える。
馬は迷わず海へ入っていき、やすやすと2人は目的地へ着く。
愛しいマウシはすぐそこに、いるはず。
もう一度だけでもいい。ヨシュアはマウシに逢える事を、己の神へ願った。
【次のお話は……】
作品舞台の紹介コラムになります。
【「旅の場所」首里城跡→勝連城跡→宮城島】
第40話 王女殿下の龍騎士 (ドラグーン) 了
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