第5話
ダンジョンの入り口付近で薬草を採集していた叡弘は、
緑色に光るユーレイのおっさんから一時間ほど、
したたか怒られていた。
「……ヒトが一生懸命育てたキャベツを、
泥棒するとは不届き千万。遅い時間に来るのも許せない!」
「ダンジョンにヒト?が住んでいるなんて知らないですよ。
それによく見てください。採ったのは野菜ではない草で、
雑草のように生えていた薬草ですよ」
うーん……と唸りながら彼は野菜畑の方をよく見ている。
確かに野菜は手付かずだ。
「僕は鈴木叡弘と言います。お名前を教えていただけますか?」
謝罪の握手だろうか。彼は無言で右手を差し出すが、
彼の右手を握り返すことが出来なかった。
「俺は山口賢一だ、ここで8年程ユーレイをやってる。
ほら、体にさわれないだろ?
簡単に触れられないものを横取りしようとしてると思ったんだ。
どうか許してほしい」
「若いダンジョンで採集してお役所に卸そうと、
このバイクに教えられたんですよ」
「冒険者ではないのか?」
「まだ決めかねています」
「俺が倒されることは無いようだな」
「危害を加えなければ何もしません」
……などなど、彼はいろいろ質問責めに遭う。
何故か嘘はすぐバレそうなので、質問された部分だけを早口で正直に答えた。
「分かった。これから南に行くんだな?
俺はここの言葉が全然わからない。ずっと1人で退屈してたんだ。
一緒について行ってもいいか?何なら小さくなってもいいぞ?
コレは乗りやすそうなバイクだな」
小さくなって浮かんでいる山口さんは、
はしゃいでバイクの周りをくるくると回る。
洞窟の入り口に停めたバイクの補助席に
収まる小ささになったりしていて、
楽しんでいるようにも見えた。
「街に向かうなら、もしかしたら俺の身体も治るかもしれないからな……」
何やら目的もあるご様子。
よくよく聞いてみると、山口さんは恩納村へ仕事仲間と家族で
ビーチに遊びに来た時に酔っ払って海に入り、
気がついたらここに居ると言う。
言葉のわからない人達から
鎌や鍬を振り回され、追いかけ回され……
8年間、ここでひっそりと暮らしているそうなのだ。
退屈しのぎで近所に散歩へ出かけていたらしい。
喋ると叫び声に聞こえるらしいんだ、と聞いた時点で、
クワエ村のジルさんが言っていた「緑色の化け物」とは、
目の前にいる山口さんの事だと納得がいく。
その日はそんなこんなで夜が更けていった。
【次のお話は……】
小さなダンジョンでお泊りしました。
おっさんの声に起こされて、1日が始まるって言うね……
【「旅の場所」沖縄県 北谷町 桑江】
第5話 ちょっとそこへお座りなさい 了
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