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異世界単騎行 The Battle of Okinawa 1609 ⇄1945  作者: ロータス
第4章 サツマインフェルノ 1604年 水無月
53/159

第34話

 挿絵(By みてみん)


 早速城に戻ったウシ達は、サムライ向けの授業案を準備し、

 翌日の昼頃には大殿様に「学習指導要領」の草案をまとめた資料と

 時間割など、いくつかの書類を提出した。内容は以下の通りだった。


 ______________________________

 国語

 孔子、孟子の漢文指定著作の修了。


 算数

 暗算、算盤で多桁計算の修了。

 関数概論。


 理科

 薩摩国の土地に適した作物の研究。

 軍馬の取り扱い方概論。

 糧食加工演習。


 社会地理

 海外の国際事情通説。

 日本国の地理通説。

 基本的な測量検地演習。


 社会歴史

 日本国で起こった大戦の模擬戦。


 体育

 体力増強の為の鍛錬、

 隊列や騎馬による集団行動の演習。

 軍馬実技演習。

 銃と弓矢の狙撃演習。


 保健体育

 負傷兵に対する衛生概論


 道徳

 軍人勅諭の暗唱。

 ニ才教育の質疑応答……

 ______________________________


 ……などなど、サムライの身分?に合わせた内容が揃えられた。

 大殿様と小姓たちはは特に地理と理科の授業内容に注目して聞いている。


 「ウシはこの世の全ての地図を書き上げられるんじゃの。フム。

 日の本の国が真ん中に書かれたこの地図は、

 オダ家やタイコウ殿下が所有していたモノより随分細かい出来だから

 わしも欲しいぞ?


 挿絵(By みてみん)


 ……何々、地図は丸めてみるとより本物に近くなるとな?不思議じゃの。

 それから、稲作に向いていないこの国に適した作物があるのか?

 まっことウシの知識は底が知れんの。

 この「軍人勅諭」とはなんじゃ?「勅諭」とは大層な名前がついておるの。

 フーム……」と興味深く聞いていた。


 挿絵(By みてみん)


 「私の暮らした祖国では、簡単に言うと農業によって国の基礎を支え、

 国が工業を打ち立て、それによって商業が栄えました……


 外国に少ない種類の製品を大量に輸出し、それを資金にして必要な製品を

 輸入によって賄い、生まれた利益で国を動かしています。


 社会組織の中で強い国家であるために

 陸軍や海軍がどうしても必要な部品でした。

 手入れを怠らなければ、いざ戦時という時に困ることはないでしょう。

 陛下に仕えている一般の臣民たちは『教育勅語』を賜ってはいますが、

 御名の下、特に仕える軍隊へ『軍人勅諭』が公布されたのも、そのためです」


 実際のところ、明治の御一新が元で、全国のサムライたちは職を解かれ、

 特に身分の低い者は食い扶持を確保する目的で軍隊へ入る事例が多かった。


 軍人を1つの「製品規格」として考えるならば、

 指揮命令を実行する判断や伝達能力を均一化して供給することが、

 兵器の拡充と共に富国強兵政策の命題の1つとして掲げられる。

 時代が降るにつれて整備された各種制度によって戦争に必要な人員は、

 皮肉にも義務教育の整備とともに平時から確保されて行く。


 「大殿様、作物についての授業でお願いがあるのですが……

 琉球から作物の輸入をお願いできませんでしょうか?


 挿絵(By みてみん)


 彼の地の作物で最も、我ら薩摩の土地に適したサツマイモ……

 いえ。あちらではカンショと言うのですが。

 もし取り入れられれば、腹を空かせた領民がだいぶ減ると思います。

 代わりに、最近我らが取り入れ始めた木綿の栽培を彼らに広め、

 新しい産業を興して貰うのです。

 ……そうすれば、琉球がわが国と争う理由がなくなるはず」

 すがるような表情で彼は大殿様を見つめる。


 挿絵(By みてみん)


 「リュウキュウとの取引は当主のタダツネに任せておる、

 まぁ、話してみるかの」と複雑な表情を彼に向ける。

 どうやら単純な問題ではないらしいが、

 願いは聞き届けられたようだった。



 授業の説明を一通り聞いた大殿様は一息ついて、


 「フム……ウシも今日は疲れたの。今日は授業の褒美に

 タダツネが取り寄せてくれた、珍しい南蛮の菓子であるカステイラと

 茶をとらそう……疲れた時に甘いものは、何よりじゃからの」

 ホクホクしながら勧めてくれる。提案した授業案の価値を認めてくれる。

 すでに切り分けられた菓子は持ち運びの容易な高杯にちょこんと

 小皿へ載せられた状態で2人に供され、

 小姓たちによって準備された簡易の釜と茶道具で、

 大殿様が手早く美味しそうなお茶を立てる。

 辺りに緑茶の爽やかな香りが広がっていく。


 挿絵(By みてみん)


 ウシが茶席の作法も問題なくこなすと、大殿様は目を細めて喜ぶ。

 小姓たちも自分で茶を点て、皆で茶と菓子の味を楽しんでいた。

 珍しい菓子に色めきだっている。

 

 カステイラの甘さは彼にとって泣くほどではなかったが、

 存外に懐かしい味だった。


 挿絵(By みてみん)


 「兄弟たちや、近所の大名家にも、ウシのことを本当は自慢したいが、

 でも他所に引き抜かれたら困るの」

 

 大殿様はウシをからかう。


 「西国の果てにあるサツマの国が富めば、やがては他の領地の者も真似て、

 日の本全体が富めるでしょう。


 大殿様、戦乱の世が遠のいた今、国の繁栄は強固な基礎ありきです。

 先ずは領民の腹具合を考えてみましょう。学問だけでは腹は膨れませんから。

 それに私が大殿様の弟君である義弘公や他の領地へ仕える理由は

 今のところありません。私にはここでやるべきことがありますので」

 と彼は笑顔で答える。


 大殿様はその返事にまるで安心したかように、

 「面白いウシがワシのそばに仕えてくれるなら、

 こんなに楽しい事はないの」と、深呼吸をしてイキイキとした

 笑顔で返事を返す。


 賑やかな部屋の外から初夏の日差しが差し込んだ。

 もうすぐ暑い薩摩の夏がやって来る。



 【次のお話は……】

   鹿児島にサツマイモを普及させるウシ達。

   カンショの政治的な利用が始まります。


 【「旅の場所」鹿児島県 鹿児島市 鹿児島城跡】

 挿絵(By みてみん)


   第34話 サムライ仕様の「学習指導要領」 了


   ▼二巻カラーイメージPOP▼挿絵(By みてみん)

   作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018

【学習指導要領】

小学から高校程度の教育カリキュラム。

年次に沿って必要な修得が求められる。

一般教養のような部分もある。


【軍人勅諭】

彼の護るべきは未来の明治大帝。しかし……?



【綿花とサツマイモの苗を交換】

史実よりも早く動いてミマシタ。衣食を共にする仲に。

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「異世界単騎行」小ネタ帳
(活動報告ページへ移動)
【序章】
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北谷町 桑江宜野湾市 普天間/宜野湾
マイチ浦添沖縄戦
【2章】
バックナー中将と糸満市 名城
首里城跡那覇市 泉崎/国際通り/
久米村 謝名利山
勝連城跡

読谷村 野國 野國総管

【3章】
オリンピック作戦/伝染病について

【4章】
i592871
鹿児島県 旧喜入町と牛島滿中将
鹿児島城跡と島津忠恒
作中救貧作物ビッグレッド冠と簪
【5章】
中城村 当間地域と現地仕様なメイドさん
国王と聞得大君
ウシデーク百十踏揚
うるま市 海中道路
【6章】
加藤清正と黒田長政薩摩焼酎
熊本城跡博多港
徳川家康と近世日本の幕開け

【7章】
i592872
アメリカ合衆国 ケンタッキー 州戦艦ミズーリ
地産地消とンムクジアンダーギー海邦養秀
【8章】
【9章】
ジュゴン
ジュリ売り/糸満売り沖縄戦の戦没者数
【10章】
千姫

【11章】
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島田叡 沖縄県知事



「小説家になろう」投稿分では
こんな感じでイラストを描いたり、

たまぁ〜にAIイラストを作成しています。
 ※AIイラストについては作品掲載は無し、
 活動報告ページで使用感を述べる感じです。
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画像をクリックで関連ページ   (「小説家になろう」活動報告、みてみんブログページへ) に移動します。

※ナシロ村の画像だけ本編エピソードへご案内☆




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