第32話
ユウノシン…神脇三郎祐之進はカゴシマ城の一角に部屋を与えられた
新しい主人を迎え、仕えることになった。
元々彼も島津義久付き小姓の1人で、ヨシヒサとは親子のような
関係性に近く所謂「枕席に侍る」という事もおよそなかった。
それでなくても小姓という者達は主人のあらゆる期待に応えなければならず、
尚武の国であっても美貌の若武者達が選ばれる、晴れの役目でもある。
小姓頭のミズキが肩を叩いて、不安気な彼を優しく諭す。
「……ユウはこの1年、大殿様に問題なく仕えられたのだ。
確かに我々5人でやっていたものを1人でとは不安になるだろうが、
お客人は大殿様のお気に入り。何か異変があれば直ぐに伝えよ」
ぱっと見、小姓頭は線の細い優男のようでは有るが、
5年以上大殿様の小姓を勤め上げている。
先輩の心強い後押しに、祐之進、
いやユウノシンは心細さに泣きそうになりながらも
新しい主人の元へと、とぼとぼと歩いて行った。
「……ユウノシンにござります」
彼は部屋の入り口で頭を下げている。
(大殿様とさし向かいで座っている客人が、僕の新しい主人……)
先だって会食で美味しそうにご飯を食べていた、年嵩の男だ。
背もとても高く大きな身体をしていた。身につけている不思議な服装
仕立ては機能的で、無駄がなく素早く動きやすそうな印象を彼に与える。
「この子がそなたの身の回りを世話してくれる事になった小姓の
ユウノシンだの。ユウノシン、彼をワシだと思ってよろしく頼むな」
「はい」
「ウシ殿もユウノシンの事をよろしく頼む」
……大殿様は簡潔にそれだけ言って、2人を部屋の外へ下がらせた。
「まずは自室からご案内いたします」
多少ぎこちない声でユウノシンは彼に伝える。
彼はニコニコとした表情で黙ってユウノシンに付いていく体で
あったので、部屋に着くまで時間はかからなかった。
与えられた部屋は、意外にも台所から近い場所で城の住居スペースの
外れではあるが部屋は広く襖を外せば隣の物置部屋とつないで大部屋
にすることもできた。部屋から続く廊下も広く設えられ、配膳時は
沢山の人びとが往来することも予想できる賑やかな場所だ。
ユウノシンが部屋の中へ案内すると、彼はとても疲れてしまったのか
畳に座り込んでしまった。
「お加減が悪いのですか」心配そうにユウノシンが問うと、
「……過度の緊張が今頃になって解けてしまった。すまないが今日は
疲れてもう動けない」
すまなさそうに彼はユウノシンへ理由を言った後、まるで意識を失っ
たかのようにそのまま眠ってしまい、ユウノシンはそっと彼の額へ手
を当てて驚く。ウシは疲れから熱発を引き起こしていたのだ。
◇
次の日、日がかなり高くなってようやく彼は目を覚ます。
額にはひんやりとした氷嚢が置かれ、服装は寝巻きに替えられ布団へ
問題なく移動できていた。
布団の隅にユウノシンがうずくまって静かに眠っている。
寝顔を静かに見つめ、そういえば家に残してきた末息子は元気だろう
かとウシはぼんやり思い出しながら、力なく指をユウノシンの方へ
伸ばして優しく頭を撫でる。
ユウノシンの寝顔が記憶の中で、まだ幼い面影を残していた
彼の末息子によく似ていたようだ。
……彼らの出会いはこの国を大きく変えていく。
そのお話はまたいつか。
【次のお話は……】
ウシ、「即席ガッコウ」を構築し始める。
【「旅の場所」鹿児島県 鹿児島市 鹿児島城跡】
【後書き】
ユウノシン
「虚弱も素敵ねとか言って、保護欲をそそられた
腰元さん達が先生を狙ってるんですけど…」
サイモン
「あきらメロンwww モッテモテだなぁwww」
ウシ
「…バックナー将軍。ココだけなら、代わっても良いんだぞ……(ジト目)」
第32話 番外編 新しい「主従」 了
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???「城の蔵から謎の書物が出てきたでゴワス」




