第4話
無舗装の砂利道をのんびりとバイクツーリング?
観光地とはいえ渋滞の激しい道が多かった
沖縄の国道沿いから一転し、のどかな風景が一面に広がっている。
クワエ村から南の道は予想通りに少しずつ人の往来が多くなり、
ゆっくり徐行のペースで進むようになっていった。
(轢いたら大ごとだ、安全運転……)
……という訳で、旅を始めたクワエ村から5㎞ぐらいしか進めなかった。
他にも道中、同じ方向へ進む行商人風の旅人たちから話を聞くために
バイクを押しながら、ゆっくり歩いていた事も大きい。
クワエ村から次の村まで歩いてほぼ1日かかるため夜間、
街道の危険さから多人数で固まる事がよくある。
と彼らは叡弘のいとけない外見を心配して教えてくれるのだろう。
日が落ち始め、予期せず旅人たちと過ごす事になった彼が
道端でおもむろにバイクにもたれて休んでいると、
今まで無反応だった彼から只ならぬ声が聞こえる。
「アルジ、固まって野宿しても、強盗に襲われたら保たないですね。
ここから南東に「若いダンジョン」があるので、そこで野宿しませんか?」
「若いダンジョンは人目につかないように防御されているし、
弱い化け物から素材を採集して換金しましょう。
うん、それがいい。ご案内しましょう。私に跨ってください」
目を丸くして周囲を見回すと、
誰もバイクが喋っているのを気にした風はなく、
それぞれ野宿の準備に取り掛かっていた。
どうやら念話の類いらしい。
彼とバイクの会話は大人達に聞かれていない様子だった。
気前よく仲間に入れてくれた旅人達に軽く挨拶をし、
こっそりダンジョンへ向かった。
ダンジョンへ向かう途中、簡単な説明を受ける。
きっかけになった事故の後、この世界の神様らしき人物に会ったこと。
自我を与えられて生き返る代わりに、幼い彼を支えて目的地を目指すこと。
大分おぼろげではあるものの地図データは既に持たされていて、
この場所は小さな島国であるらしい事。
地図は街や村に入った時に自動更新されるタイプで、
今から向かうダンジョンは偶々クワエ村エリアの
端っこにあったため、
向かうことにしたという流れなのだ。
また今の低いままなステータスレベルでは、
バイク自身とお互いに触れていないと会話が成立しない、
とも注意された。
(本気かよ。まだ隣村にも入ってないのか。
クワエ村広い……というよりも僕も神様に会いたかったなぁ……)
ため息混じりに考えを巡らせている短い時間で、
2人はダンジョンに辿り着いてしまう。
目的地に着いた頃には、辺りはすっかり暗くなって、
森の木々の隙間から星が見える程度の明るさしかない。
1人で行くと迷子になりそうだが、
幸いバイクのライトとナビで森の中を無事に進む事ができた。
バイクの丁寧な説明からかいつまむと、「若いダンジョン」というのは、
TVゲームや物語でよく出る階層の多いものではなく、
元々は大きな岩陰や洞穴で化け物などが住み着き、
財宝や素材が溜まり始めた状態ということらしい。
……このプロセスを繰り返してダンジョンは古く大きく成長するそうだ。
バイクを停車し、早速ダンジョンの入り口に向かう。
仄かに明るい周辺にはかなり良い状態の薬草が生い茂り、
ウサギに良く似た可愛い動物が群れる。
それぞれステータスを見ると薬草が1kgで10万、
ウサギは毛皮と肉と骨で1kgで5千する、と書いてある。
採集道具は今朝、ビーフジャーキーを刻む時に使った
キャンプ用十得ナイフの3cm刃だけなので、
ウサギは諦め、薬草を採集して行く。
彼が夢中になって採集していると、後ろから声がかかる。
「……お前何してるの。ここは俺の家なんだけど?」
驚いて振り返ると、緑色に発光したおっさんが1人、
不機嫌そうに首を傾げている。
もちろん彼に脚は無く、宙に浮いていたのだが……
【次のお話は……】
若いダンジョン(他人の家)で夜を明かす事になった主人公。
怒られるのはいつもいい気がしません。
【「旅の場所」沖縄県 北谷町 桑江】
第4話 「ダンジョン」のおっさん 了
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