第27話
その日の朝、ウシは漁村の長老に連れられ、近所のお寺に向かう。
事情を知っている村の人々は口々に
「ご無事に、お達者で」と明るく声をかけてくれる。
村から2時間ほどの距離に、山が見え、麓に古い寺があった。
寺に着くと、村で見たような子どもや、
やはり髷を結い、木刀を腰に差した子ども……
サムライにしては服の布の量が心持ち少ないなと
内心感じたのは彼の偏見だろうか。
寺にいる小坊主と長老が話し込んで、話も終わったのか長老が
ウシへ手招きをする。
「こちらの小坊主が申すには、住職さまが、朝の寺子屋が終わり
次第会わせてくれるそうじゃ。
……何かで時間を潰しておこうかの」
彼も了承し境内の板床に風呂敷で包んだ荷物を置いて、
広い庭の片隅に落ちていた太い木の枝を拾うと暇つぶしに
剣道の素振りを始める。
長老は彼の素振りを見かねて、小坊主に木刀を急いで取り寄せさせて
彼へ渡す。それから集中して素振りを繰り返し続けていると、
サムライの子ども達が集まって遠巻きに彼を見ていた。
この辺りの野武士ではまずお目にかかれない気迫と
美しい運動を目の当たりにし、目を輝かせて夢中になって見つめる。
寺子屋の授業が、彼の木刀の素振り観察へ内容がすっかり変わって
しまい、住職がゆっくりとした足取りで彼の方へやって来た。
「ほほう。珍しいお客さんが来たの。
サムライの子たちは今日素振りの練習をした方が、良いかも知れぬな」
ホクホク顔だが、不思議そうな表情を向けてきた。
小坊主が住職に小声で説明をすると、ニコニコと笑う。
「ウシとやら、今日は美しい素振りを見せてくれてありがとう。
ところで頼みがあっての、よければサムライの子ども達に
2時間ほど素振りの練習を教えてもらっても良いかの。
ワシは村の子ども達に書き取りの練習をさせたいんじゃよ。
報酬は昼飯じゃ」
2時間?と聞いて彼は釈然としなかった。ここを昔風に言うなら、
「一刻」に当たるからだ。
モヤモヤとした考えを頭の隅に押し込み、住職の願いを聞いた
彼が子ども達にの方に目をやると、
小さく簡単な髷を結った5、6歳ぐらいの男の子達が4、5人おり、
元服前なのか腰に木刀を差している。
身なりから察するに、身分の低いサムライ、いわゆるゴウシの
子ども達のようだった。目を輝かせてこちらを見ており、
刺さるような視線を感じる。
「私のことはウシと呼んでくれ。君たちの名前はなんと言う?
どうか教えてくれないか?」と
彼は警戒されないように、軽く笑って少年たちの目線に
しゃがんで問いかける。
「タケシ。タケって呼ばれてる」
と言った少年はこのグループのボスなのだろう。力強い声で紹介してくれた。
「ゲンタ。ゲンと呼んでください」
タケと同じくらいの子か嬉しそうに名乗りを挙げる。
「イワ」「トシ」「カヅ」こちらは2人より小さいが、
無邪気な表情でウシを見る。
「では素振りの練習をしてみよう。5人ともまずは10回、
振って見てくれ」
彼はそれぞれ素振りの姿勢を観察し、
体の重心の掛け方や木刀の握り方を注意深く見ていく。
あとは短い時間で個別指導を行うと、あっという間に2時間が
過ぎる頃、子ども達は思った以上に上達していた。
「練習を続けて、ここにいる皆で上手くなって欲しい。
……私がこの寺にいる間なら、また授業をしようか」
授業の終わりを知らせ、彼とのんびり待っていた長老は
住職の元へ向かった。
寺の昼ごはんの匂いが、ほんのり辺りに漂う。
それぞれ素朴な漆器の茶碗や皿に小さく盛られ、盆に載せられて
彼の前へ配膳される。
普通の現代人なら、「精進料理をもっと素朴にした料理?」と
認識されただろうが、
食事のおぼつかない糸満や漁村の慎ましい食事に慣れきった
彼にとっては、そのものズバリご馳走だった。
雑穀入りの玄米の味は噛みしめるほど甘く、少しの量で腹が
満たされていく。
野菜の入った味噌汁は地産のカツオ節で丁寧に出汁が取られ、
特に彼を夢中にさせたのは、おかずの1つである豆腐の含め煮だった。
元々この寺で豆腐が作られているのか、味わった事の無い美味を
噛みしめる。
遠くに子どもたちの笑い声が聞こえる。
【次のお話は……】
琉球にバックナージュニア中将、薩摩に牛島滿中将が現れた。
一方は攻戦を唱え、もう一方は若干壊れ気味の状態。
……物語の行く末は……?
【「旅の場所」鹿児島県 鹿児島市 喜入地域】
第27話 「寺子屋」イズビューティフル 了
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【摩文仁司令部壕で最後の食事風景】
部下のお口あーんさせるの、結婚披露宴のファーストバイトを思い出す。
色んなバージョンがあったなぁ。( ´ ▽ ` )ウフフ……
当時パイナップル缶詰は高級品。多分台湾製 (会社があったはず?)。
蒸した芋とセットで学校給食の機会もありそう?
刻みかつお節も添えときたい (おそらく上級者向き)。
黒砂糖は給食でならデザート枠なんだろうか……
金平糖がいいのか (自衛隊の糧食に入っているらしいね)。
戦時を思い起こさせるメニューだから
平時同様に「美味しく食べるだけ」は難しい。
たくさんの作品の中から、本作を読んでいただけて嬉しいです。
ありがとうございます。




