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異世界単騎行 The Battle of Okinawa 1609 ⇄1945  作者: ロータス
第3章 闘いの大地へ 1604年 皐月
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第25話

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 こうして各領地内で着々と検地測量が行われた。


 国王に対するアジ達の恐怖心によって、1月後には検地の地図を、

 「ジャナウェーカタ」と呼ばれるようになったリザンの元に集められる。


 スイ城の一室で主に国王とウラシイ王子、

 ジャナウェーカタ、それからバックナージュニアの四人で話合われる。

 サンシカンは残り2人いたが、恐縮しているばかりでしかない。

 異国へ訪れた将軍は着慣れ始めた草色のヤマト風な和装で覆面を被っている。

挿絵(By みてみん)


 新しくサンシカンとなったジャナウェーカタとは初対面であるため、

 武闘派な彼を驚かせない為の処置だった。

 「なるほど、コレがこの島の地図だな。クニガミもそうだが、

 ミサト間切とナゴ間切の間が空白がちだ。……どうしたんだ?」


 彼に許されやっと覆面を外した将軍は静かな声で、王子に尋ねる。


 王子は

 「この辺りは大きくて深い森があっての、誰も入らないんじゃ。

 それに地元では陸路より海路が発達しておる。

 ……何より森ではマラリアにかかってしまうからの」

 

 と聞いて彼は時間が無駄にかかりそうだなと思いやられながらも、

 地図の隅の方に目をやった。部屋の隅に何か紙の束が見えたのだ。


 その様子を見たジャナウェーカタが言う。

 「コレはカッチン間切から渡された地図の内の一つなのですがね、

 地図の読み方がちょっとよくわからないから、分けておいた物です」と

 説明した。


挿絵(By みてみん)


 彼は小さく折りたたまれていた地図を広げ、驚いている。


 縮尺は小さくないがB2サイズ程度の紙へ、

 多色カラー印刷で沖縄本島全域の地図が載っており、

 裏面には白黒で印刷された航空写真が添付されていた。


挿絵(By みてみん)


 アイスバーグ作戦で戦術用の、米軍部隊全体に配布された地図である。

 沖縄本島全域の正確な地図、それも彼自身が指揮を執っていた

 作戦用の地図が都合よく見つかったのであった。

 上陸計画までの地図なのだろう、読谷村の上陸地点から、

 赤鉛筆でホワイトビーチまでの行軍予定が書き込まれていた。




 地図は同じような物がもう一枚挟み込まれており、

 何と九州島周辺の多色カラー地図が転がり出る。


 それを見た彼は、国王達に嬉々として地図の説明をし始めた。


 「……この地図は現在、我々のいる島の形全体を書き込んだ物で、

 何も書いていない青い部分が海。この四角で囲った部分は、

 戦艦など、大型船を配置する場所を現している。


 矢印は進出経路予定の方向。


 我々のいる島は、検地の地図と同じく北には高い山が広がり、

 急な崖と海に挟まれた狭い平地に小さな集落を形成されている。

 1番くびれた所の美里間切から南は、平原や丘が続き、

 人口密度が南下する度に集中過密する……


 王都スイを囲むナーファ周辺が最も繁栄し、

 この地域の経済を動かしていますね」と

 ざっくり説明していく。


 地図をひっくり返し、航空写真を見せて話し続ける。


 「で、もしも私がヤマト方面からこの国を攻めるなら、

 かろうじて有視界渡海が可能な北の島伝いから攻め込む。

 空軍が使えないので、この国の北にある港、

 ウンテン港を抑えて南方への海路を塞ぎますね」


 「逆に、コレはサツマを含むヤマト方面の地図ですが……」と

 さらに続け、もう一つの地図を広げる。


挿絵(By みてみん)


 「リュウキュウとサツマを結ぶアマミやタネガシマなどの離島は

 我々の設えた戦艦の予備港として短期間で占領して行きます。


 サツマ半島南端から、一日両中に相手の本拠地を潰し、

 半島沿岸部からそう遠くない場所に、ウラシイ王子から聞いた

 サツマの本拠地、カゴシマ城があるはず。


 かなりの速さ勝負の闘いになりますが、兵站を整えた我らと

 国民全てで総力戦をすれば、無理ではありません。

 綿密な初動の情報集めが効いてくる」


 見慣れない地図の説明に場の空気は凍りついたが、

 ただ1人返事をした男がいた。

 ジャナウェーカタだ。声は震えている。


 「この作戦はあまりにも現実感がない。

 バックナージュニア殿、

 お主は、一体「何を」見てきたんだ?」


 「……この島で起きた、この世のありあまる地獄を見てきたんだ。

 地獄には敵味方も身分や年齢なんて関係なかった。

 時代が降るに連れて「我々の仕事」というものは

 度しがたいモノになって行くようだな」

 と言外に悲壮感を漂わせながら、将軍は返事をする。

挿絵(By みてみん)


 「この地図の出所を教えてもらっていいか?

 もしかしたら同胞が流れ着いているのかもしれない」

 彼は暗い雰囲気を切り替えるかのように、明るい声でジャナウェーカタ

 へ問いかける。


 「その件だが、どうやら2人程の異国人がノロに世話になっていて、

 アジから穏便にと地図を引き渡された。

 本人たちは戦意喪失していて、カッチンから動かないそうだ。

 彼の地には古くから続くアジとノロの家が入っていて、

 私の意見も通らない事が多い……すまない」と

 本当にすまなさそうな顔で謝る。


 国王は2人の会話を聞く他何もできなかった。

 ウラシイ王子は国王へ、


 「バックナージュニアは元々陸軍の将軍で、海軍に属しておらず、

 そこまで海戦の機微には詳しくない、と申しておりました。


 ワシらは、彼の補佐を固くすればよろしいのではないでしょうか。

 防戦一方のワシらに、攻戦の策はまず思いつきませんぞ」


 とそっと伝える。

 王の側で静かにしていたサンシカン2人は、総力戦と聞いて

 「防戦より攻戦をしましょう。その方が、領地に傷が付かなくて

 すみます」とせめてもの意見を述べた。


 話を聞いた国王は、臣下達に「明国への対処は如何する?」と尋ねる。


 やはりこの問題は外せないようで、ジャナウェーカタは

挿絵(By みてみん)


 「全て後回しにします。問題がある内は2年に1度の朝貢船も本当なら

 出したくないが、サツマ攻略が短期決戦である以上、

 秘密にしなければなりません。

 「あとで援助したのに」とか言って難癖を付け始めたら、

 私の時のように、都合の良い誰かに犠牲になってもらいましょうか?

 ……何、一時の辛抱です」



 と彼はサンシカン達へ冷めた視線を向ける。



 怯えるサンシカン達を庇うように国王は、


 「今仲間割れしても意味がない。全員が協力して事に当たろう。

 ウラシイ王子、ジャナ、バックナージュニア。

 今は情報集めを固めるのであろう?……その他にできる事はないか?」


 将軍は

 「1週間後、この国の民の全てをざっくり教えて欲しい。

 ムラ税の徴収額から国政まで。国のシステムの理解が出来ていれば、

 この国でのある程度の限界可動域を、知る事ができるだろう。


 その間、私は早馬でカッチンへ行ってくる。すまないが同胞の説得に

 時間を割きたい」と言い残し、即座に席を外し出て行く。

 残された国王達は長い間議論を続け、議論が終わる頃には朝方が過ぎる。

 スイ城東にある霊場・ベンガダケの森から、静かに朝日が昇っていた。

挿絵(By みてみん)



【次のお話は……】

  マイチ、ノグ二村よりカンショを持ち帰る。

  彼の評判を聞きつけたスイのジャナウェーカタより、

  スイ城への呼び出しです。



 【「旅の場所」沖縄県 那覇市 首里城跡】

挿絵(By みてみん)


  第25話 「作戦地図」 了

  作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018

▼一巻カラーイメージPOP▼挿絵(By みてみん)

たくさんの作品の中から、本作を読んでいただけて嬉しいです。

ありがとうございます。

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「異世界単騎行」小ネタ帳
(活動報告ページへ移動)
【序章】
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北谷町 桑江宜野湾市 普天間/宜野湾
マイチ浦添沖縄戦
【2章】
バックナー中将と糸満市 名城
首里城跡那覇市 泉崎/国際通り/
久米村 謝名利山
勝連城跡

読谷村 野國 野國総管

【3章】
オリンピック作戦/伝染病について

【4章】
i592871
鹿児島県 旧喜入町と牛島滿中将
鹿児島城跡と島津忠恒
作中救貧作物ビッグレッド冠と簪
【5章】
中城村 当間地域と現地仕様なメイドさん
国王と聞得大君
ウシデーク百十踏揚
うるま市 海中道路
【6章】
加藤清正と黒田長政薩摩焼酎
熊本城跡博多港
徳川家康と近世日本の幕開け

【7章】
i592872
アメリカ合衆国 ケンタッキー 州戦艦ミズーリ
地産地消とンムクジアンダーギー海邦養秀
【8章】
【9章】
ジュゴン
ジュリ売り/糸満売り沖縄戦の戦没者数
【10章】
千姫

【11章】
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島田叡 沖縄県知事



「小説家になろう」投稿分では
こんな感じでイラストを描いたり、

たまぁ〜にAIイラストを作成しています。
 ※AIイラストについては作品掲載は無し、
 活動報告ページで使用感を述べる感じです。
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画像をクリックで関連ページ   (「小説家になろう」活動報告、みてみんブログページへ) に移動します。

※ナシロ村の画像だけ本編エピソードへご案内☆




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