第3話
チュンチュン……
朝方、叡弘が起きると既に
老人は人のいない村の整備に精を出していた。
寝袋を片付ける時には昨日の残りのスープを
朝食にと手早く用意している。
彼はそれを眺めながら老人へ一宿一飯のお礼を考えていると、
荷物の中に丁度良い物を持っていた事を思い出す。
非常食用のビーフジャーキーを積んでいたのだ。
念を入れて肉食は出来るかと老人へ確認した所、
「生きた牛や馬は村の財産なので食べられないが、
その他の小さな動物なら薬膳としてなら食べることもある」
と目を輝かせて喜んだ答えが返ってきた。
早速昨日のスープへ辛味のあるビーフジャーキーを、
十得ナイフを使って細かく刻み入れ、肉が柔らかくなるまで
サッと煮込む。
出来上がった食事を二人でハフハフしながら食べ、
老人は正月ぶりになるという珍しい肉の味を
いたく気に入ってくれる。
村を発つ時に南へ向かうと老人へ伝えたら、
親切にクワエ村の南はダンジョンで有名なフテンマ、
ニーノシマと呼ばれる大きな街に行き着くこと……
さらに南にいくと古い都で港町のウラシイ、
それから王様や偉いお役人のいる都会のナーファやスイに辿り着くと言う。
と彼は広場の地面に大雑把な地図を書きながら教えてくれる。
叡弘はちゃっかりメモ帳にそれを書き込んでおく。
彼の話ではナーファに直接行ったのは二度程で、
若い頃に薬草の卸売で行ったことぐらいしかない、と教えてくれた。
周りにある村の方に行くことは多い一方で、海と森、
古くから広い農地が揃っているクワエ村では納める年貢の
関係上、村人が村を出て行く事例は少ないという。
ナーファやスイの先にも村や街があるらしいが、
彼も詳しくは分からないそうだ。
大きな街にはバンショと呼ばれるお役所があり、
化け物退治や盗賊の討伐、商売の登録管理も行なっているらしく
何か困った時の相談窓口になっていると教えてくれる。老人が、
「坊や、鉄の馬が壊れたときに世話になるだろう?」
彼は彼なりに心配してくれていたのだ。
他にも
「登録のまだ済んでいない身寄りのない魔法使いなら、
ウチの村で暮らさないか?」と
いやらしい笑みでニヤつきながら半ば強引に引き止められそうになったのを、
「まだ旅をしている途中ですから」と叡弘は丁重にお断りしている。
つれない反応をしたのにも関わらず老人は
「本籍地は魔法使い登録までとりあえずこの村じゃよ。
……手間のかかる手続きには充分気をつけるんじゃな」
心配気に教えてくれた。
◇
叡弘が老人に別れを告げて、村を出る時には昼前に差し掛かる。
村を出て道沿いをしばらく走り、
燃料ゲージを確かめると表示が今までに無かった
炎のマークへ変わり残量も残り半分くらいになっていた。
給油口があった所にも同じマークがあったので、
昨日の老人の様子を思い出しながら手をかざして炎をイメージしてみる。
みるみる内に残量が満たされて行く。
(便利すぎる……)
彼は思わず笑いを噛み殺す。
バイクの燃費解消は、彼にとって死活問題だったのだ。
ついでにステータスを確認すると、
なるほど魔力が1000から700まで減っていた。
それからバイクのステータスも開いてみる。
クワエ村で見たような、まだ簡素なものだが。
スキルに「人語会話」という謎のスキルが記されている。
「……キミ、喋れるの?」
恐る恐る声をかけたバイクからは、沈黙が返ってくる。
何かやり方があるのだろう。
ある名作アニメを内心思い出しながら、
叡弘は自分が元いた場所からあまりにも
かけ離れた場所にいる事を、認めなければならなかった。
(4月から仕事が始まるけど、それまでに戻れそうにも……無いか。
まぁ休暇が増えたと思えばいいさ)
と寒空の下、彼は1人バイクに跨り南へ向かう事になる。
【次のお話は……】
叡弘は南へ向かう。
【「旅の場所」沖縄県 北谷町 桑江】
第3話 「南」へ向かう 了
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