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異世界単騎行 The Battle of Okinawa 1609 ⇄1945  作者: ロータス
第3章 闘いの大地へ 1604年 皐月
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プロローグ

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 その日の朝はさらさらと雨が降っていた。

 春のはじめに作付けした畑や田んぼの稲にとって、

 待ち兼ねた恵みの雨だった。

 叡弘たちは雨が止むのを待って、出立の準備を進めている。


 タルの家は病院も兼ねているらしく、

 受付の広い板間で村人が治療の順番を待ちながら談笑している。


 今日の雨と昨日の騒ぎで診察できなかった患者で混雑し、

 村人は山口さんを見つけると

 「大変だったね。呪いが解けてよかったさ」

 と口々に言う。

 昼頃に雨が止み、やがて太陽が顔を出す。

 オロク村の空に大きな虹がかかる。

 

 タラは休憩中を見計らって、彼らへ別れの言葉を言ってきた。


 「女神様はあんなこと言っていたが、お前さんはきっと大丈夫。

 村にこんなに見事な虹がかかるのは久しぶりなんだ。

 きっと祝福してくれているのさ」と笑う。


 タラに別れの言葉を言って、バイクのスターターを回す。

 少しぬかるんだ道を軽快に進んで行く。

 土埃の気にならないツーリング日和の天気だった。


 ……今日からバイクは2人乗りになる。

 しばらく運転は服装の件があってか、叡弘に任された。

 山口さんも運転はできるらしく、必要な時に交代でできるよう

 考えておかなければならないなと彼は考えを記憶に留める。


挿絵(By みてみん)

 オロク村から隣村のギマ村まで、15分足らずの旅が終わる。

 集落までは遠くなく、オロク村の様に田んぼや畑に囲まれた

 こじんまりとした地味な印象が目立つ。


 いつものバイクの報告では


 「ギマ村はナーファ那覇の西に位置し、

 海沿いには海賊を取り締まる砦が築かれている。


 内部は主に農村地域で、ダンジョンは無い。

 北のニーノシマの様に、ナーファの南の門前宿として機能している小さな村」

 と告げられ、地味な印象は変わらない。



 「本当に来ちゃったけど、マイチさん、帰ってきているかな?」

 と山口さんは心配そうに村の入り口を見つめる。叡弘は、


 「村に入ったらいつもの様に、バンショに行ってみよう?」

 と返事をする。村内に大きな建物を見つけ、向かっていった。


 バンショは宿屋とまとめて建てられている。

 宿屋の主人に聞くと彼が居る「家兼事務所」のギマドゥンチは、

 村の北外れ、ナーファに近い所に所在していた。


 宿屋で宿泊の受付をしてバイクを預かってもらう。

 オロク村でも同じだったが、狭い路地の多い村落内でバイクは、

 どうしてもお荷物になってしまうのだった。


挿絵(By みてみん)


 彼らはギマドゥンチの門の前にきていた。

 灰色がかって赤くはないものの、

 立派な瓦葺きの和風建築で緊張して門をくぐると、


 「よう!フテンマの2人じゃないか。久しぶりだの!」と

 バンショの庭に広げられた、イモカズラがまばらな芋畑の真ん中で

 ほっかむりをしたおじさんが水撒きをする。……マイチだ。


「……ふん、山口の方は病が治ったようだの。

 発光していなければ、中々の男振りよ。

 独り者の男は、村の娘が夜這いにくるから気をつけるんじゃぞ?ふふ」

 と何やら不穏な事を笑いながら言い、


 「叡弘は背は伸びたがまだまだじゃの!」と笑っている。

挿絵(By みてみん)


 最近の2人はフテンマの女神に会っていたためか、

 女性に食傷気味な苦い表情で彼を見ている。



 「旦那様、旅人が怖がっているではありませんか」と

 マイチの後ろから落ち着いた女性の声がかかる。


 「ごめんなさいね。いつも旅人が立ち寄ると、

 この話題で驚かせて反応を楽しんでいるんですよ。

 私達の村の可愛い娘達だって、誰でもいい訳じゃないんですよ」

 と優しく笑っていた。


 「マナベ、すまんの。風変わりな2人がどんな反応するか、

 楽しみでの。許してくれ」とすまなさそうに言葉を返す。

 頭が上がらない様子をみると、

 どうやらこの優しそうなご婦人は、彼の奥さんらしい。


 「さあ、三時茶の用意ができましたよ。

 旦那様は書類仕事に畑仕事までされては身体が持ちませんよ。

 少しは休んで下さいな。あ、お客様のお相手はお願いしますね」

 と彼女は建物の縁側に用意されたお茶と蒸したカンショでもてなしてくれた。


挿絵(By みてみん)


 屋敷の縁側には彼の子どもたちだろうか。

 一緒におやつを食べている。


 「父上がチャタン間切のノグニ村から

 取り寄せた味見用のカンショです。


 つる草を埋めて育てると、こんなに甘い根が生えるなんて不思議ですよね」

 と楽しそうに話しながら、自己紹介をした

 線の細い息子さんもカンショを勧める。


 優しい面影は母親似といった所だろうか。隣で活発そうな妹さんが、

 幼い甥っ子君にカンショのカケラを食べさせている。

 叡弘はあまりに若い父親クンの登場に驚く。


 山口さんに至っては女神の呪いを解きたいのだろう、

 「俺も頑張る!」と言う始末なのだ。


 程よく温まっているカンショが、

 甘い匂いでアキヒロ達の鼻をくすぐってきた。


 「……でな、ノグ二村にいたヨナハのマチューが、

 仕事のついでに村の飢饉に備えてカンショを明国から

 持って来てくれたんだの。無理言ってお裾分けしてもらったんだ。

 育て方も簡単に教えてくれていい奴だったの。

 こんな美味しいカンショでもし、ギマ村だけでなく国中で

 飢饉が避けられたら?そう考えると、ワクワクするの。

 年貢に納めた残り物のコメを必ず食わんでも良くなるから、

 村人たちの負担が軽くなるかもしれん」


 目を輝かせたマイチからムフフと笑みがこぼれる。


 口に一杯カンショを頬張っている山口さんは、

 彼の言葉にいたく感動したのか


 「出来るらけ早くカンヒョ栽培を広めまひょう。

 貿易らけで、国は成り立ちましぇんから」


 静かな笑みを湛える彼に、返事をした。




 ギマドゥンチに、優しい時間が流れる。

挿絵(By みてみん)


 【次のお話は……】

  叡弘達がギマ村でカンショ栽培を始めた頃、

  王国の最深部で起こっていた出来事です。


 【「旅の場所」沖縄県 那覇市 儀間村】

挿絵(By みてみん)


  プロローグ ギマ村へ 了

  作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018

【婚姻】

村の財産としての一面もある村住まいの女性たち。

親が決める結婚を不満に思う演目もチラホラあったりします。



【男性のユタ】

王府付のノロで男性は聞いたことがなく、

近辺の村々の相談役になっていたりする。


ユタの場合は男性にも開かれる職種のようだ。



【マイチ宅の庭】

伝統的な琉球建築の平屋を高い塀が巡っています。

母屋が執務室、離れに息子夫婦が住んでいる。


台風の影響から守られていた

庭先はカンショ畑へ変わり

試験栽培が行われている。


▼一巻カラーイメージPOP▼挿絵(By みてみん)

たくさんの作品の中から、本作を読んでいただけて嬉しいです。

ありがとうございます。

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「異世界単騎行」小ネタ帳
(活動報告ページへ移動)
【序章】
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北谷町 桑江宜野湾市 普天間/宜野湾
マイチ浦添沖縄戦
【2章】
バックナー中将と糸満市 名城
首里城跡那覇市 泉崎/国際通り/
久米村 謝名利山
勝連城跡

読谷村 野國 野國総管

【3章】
オリンピック作戦/伝染病について

【4章】
i592871
鹿児島県 旧喜入町と牛島滿中将
鹿児島城跡と島津忠恒
作中救貧作物ビッグレッド冠と簪
【5章】
中城村 当間地域と現地仕様なメイドさん
国王と聞得大君
ウシデーク百十踏揚
うるま市 海中道路
【6章】
加藤清正と黒田長政薩摩焼酎
熊本城跡博多港
徳川家康と近世日本の幕開け

【7章】
i592872
アメリカ合衆国 ケンタッキー 州戦艦ミズーリ
地産地消とンムクジアンダーギー海邦養秀
【8章】
【9章】
ジュゴン
ジュリ売り/糸満売り沖縄戦の戦没者数
【10章】
千姫

【11章】
i592874
島田叡 沖縄県知事



「小説家になろう」投稿分では
こんな感じでイラストを描いたり、

たまぁ〜にAIイラストを作成しています。
 ※AIイラストについては作品掲載は無し、
 活動報告ページで使用感を述べる感じです。
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画像をクリックで関連ページ   (「小説家になろう」活動報告、みてみんブログページへ) に移動します。

※ナシロ村の画像だけ本編エピソードへご案内☆




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