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異世界単騎行 The Battle of Okinawa 1609 ⇄1945  作者: ロータス
第2章 オキナワto琉球 1604年 卯月
33/159

2章の前日譚

挿絵(By みてみん)


14話の前日譚になります( ´ ▽ ` )頑張った☆

 挿絵(By みてみん) 耳の奥で。波飛沫が響く彼の意識は、朦朧としている。


 アイエイナー、ウフーオジーグァー。ウミンカイ、アッチョウネー?

(大丈夫、大きなおじいちゃん。海にでもでていたのかな?)


 子どもたちの声はやがて大人たちを呼び寄せ、

 海のそばにつくられた東屋へ運ばれる。



 海のすぐ側にある、ここはシマジリのナシロ村。


 流れ着いたすぶ濡れのどざえもんは

 貧しいながらも身を寄せ合って暮らしていた人々に

 手当てをされ、息を吹き返した。


 凍えている隣で焚き火が用意され、

 かけられた鉄の鍋に湯が沸かされている。

 ぼんやり目覚めた彼に自分の着ていた服が

 外の縄に干されている様子が視界に入る。


 申し訳程度にゴワつく布地(芭蕉布)をかけられていたものの

 彼は腰に巻き直し、温まろうと焚き火の前に座り直した。


「「大きなおじいちゃんが起きた」」

 小さな子どもたちが様子を見に来たのだろう。

 声をかける前に走り去ってしまった。


 おじいちゃん?と聞こえた彼は首を傾げ

 ああなるほどな、白髪頭だったよと思い返す。

 立ち上がって身体の様子を確認すると、

 干されていた衣服を手早く着る。

 すっかり乾いて、着られるのを待っていたかのようだ。

 足元に置かれていたブーツはもう少しかかるようだった。


 挿絵(By みてみん)

 時間が経ち、子どもたちに連れられて村の長老が彼の元へやって来た。

 歳を尋ねると彼よりも若い長老だったが、

 だいぶ老け込んでおり並ぶと

 とても小柄で歳上に見える。



 長老は彼の風貌に怯えながら尋ねた。

「ここは貧しいムラで、お前さんはどこから来た?

 見慣れない姿と服を着て、まさか夜盗や海賊ではなかろうな」


「海賊もいるのか?」と驚いたが、

 長老は付き従って来たある少女を呼び寄せ彼女の手首を見せた。

 僅かながらタトゥーが彫られていた。


「大人になる用意をしているところだ。

 生まれたムラから無理矢理連れ出そうとする

 海賊や悪者から守る為にするものだ。


 大人になればサムレから土地を渡されて税金を納めなくてはいかん」


 長老の話から、元いた場所からかけ離れた場所へ

 たどり着いたことに気づかされる。

 彼の「赴いた先」では、

 既に消えかけようとしていた習わしだったからだ。


「私は攻撃を受けて倒れた。意識が途切れた後、何故か今ここに居る」


 彼にとって長老は万事不可解な事を言うが、

 親切にも手当てに使った東屋を提供してくれると言う。


 洗濯中預かっていたというポケットの中身の品を返しながら、

 引き潮を狙って貝や浅瀬に残った魚を捕るのを勧められた。

 必要なものは獲った物と交換なさると良いと付け加えられる。


「若いのは小船に乗って素潜りをするが、年寄りにそこまでは求めていない。

 子どもたちと同じように海辺からの漁獲を補って貰えれば充分」


 長老は彼にそう言い残して、早々に東屋から立ち去った。


 挿絵(By みてみん)

 翌朝、ブーツも乾いた所で子どもたちが村の中を案内する。

 湧き水の在り処や村近くの川、森と村の境を示すような僅かな畑が広がる。

 低い石積みが囲む茅葺きの民家は、彼に作戦地を思い起こさせた。


「おじいちゃんが慣れるまで、長老の家でご飯が食べれるよ」


 長老の家は湧き水の近くにあり、入り口まで近づくと

 彼が手招きをしてくれたので入ることにした。


「小さいが芭蕉の実は食べれるかな?コレは腹持ちが良くてな、

 魚が取れない時に皆はコレを食べて過ごしておるよ」


 芭蕉の実とは所謂バナナの事だ。フルーツを主食にしているのかと

 渡されたバナナの皮を剥いて齧る。

 ディナーやデザートに供されるものより小さく、追熟の仕上がりも甘いが、

 味は確かにバナナだと主張していた。




 ◇


挿絵(By みてみん)


 

 森の入り口に生えている細い竹で子どもたちと手槍を作って、海岸へ向かう。

 昼前を涼しい干潮の海辺で過ごした彼は、干潟の豊かさに驚く。

 

 彼らは岩陰に隠れていたナマコを見つけると

「綺麗に干せたらいい物と交換できるんだ」と嬉しそうに教えてくれる。

 小さな子どもたちも嬉しそうに、

 砂浜でハマグリやアサリを竹籠に集めていた。


 彼は眩しそうに、素朴な彼らの様子を見つめる。

 目覚めた時も見た青い空は、あまりにも長閑なものだ。


 新しく来た人数分収穫が多くなって、子どもたちも満足そうにしている。

 彼は物々交換する様子を見ながら、

 暮らし向きが慎ましやかな場所へきたのだなと思い返す。


「おじいちゃんも頑張ってくれたよ」と小さな彼らが親たちに教えると

 彼らも「大人が一緒に居てくれると本当にありがたい」と喜んでくれた。


「子どもだけだと心配だけど、家の事だけで手が行き届かない」と

 嬉しそうに彼らは口々に言う。彼もまんざらではなさそうだ。



 その日に獲れたナマコを干す様子を珍しそうに眺め、

 村の女たちが収穫物から作った魚介スープを縁側で頂戴する。

 のんびりと満ち足りた午後が過ぎようとしていく。

 挿絵(By みてみん)




 夜。充てがわれた東屋で休息を獲っていると、

 海岸の奥から数人の松明を持つ人々が集落へ入っていった途端に叫び声が響く。

 夜盗の類いだろうか。



 用意された小船に捕まった子どもたちが乗せられようとして泣いていた。

 村人たちは遠巻きに何か叫んでいる。


「子どもは俺たちが頂いていく。腕が病気の娘や女は勿体無いが置いていってやるよ」


「やめてください。食べ物を持っている分、あげるから子ども達を返して」


「お前らのは食えたもんじゃない。村に酒すらないなんてふざけてるのか」




 問答を繰り返すがどちらも平行線で譲らない。

 白熱して気配を感じなかったのか、「彼」は鉄拳で彼らの1人を殴り飛ばす。


『幼い子どもを攫う者がいると聞いたが、本当にいたのか』


 闇から聞こえる怒気を含んだ大音声は、

 一瞬ではあるが夜盗たちの動きを封じた。


『村人よ。今だ』


 夜盗を恐れていた親たちが、一気呵成に殴り飛ばす。

 普段は漁に勤しんでいて、腕っ節は強いのだが、

 鋭い武器を出されてはひとたまりもない。

 彼らは自分たちの子どもを生きて取り返そうと必死になっている。


 しまいには棒で殴られ、やがて夜盗は村の外へ逃げて行く。

 長老はあっけにとられて、畏怖と尊敬を込めた眼差しで彼を見つめた。


「子どもたちを助けてくれて、ありがとう。

 あなたがいなければ根こそぎ奪われていたかも知れません。恩に着ます」


「無事で何より。コレで私を助けてくれた恩を返せたな」

 彼は長老へ、嬉しそうに微笑みかける。



 挿絵(By みてみん)

 夜盗を撃退し、平穏な村で数日過ごした後、

 すっかり村の一員になった彼の前に

 間切からのサムレたちがやってきた。


 彼らは御用商人に暴力を振るった罪人として

 裁きを受けると一方的に言い渡す。

 村の長老は怯えながらも殴ったのは夜盗で子どもに限らず、

 食料までも奪おうとしていたと伝え、彼を庇おうとする。


 様子を見かねた彼は「村を束ねるお前さんまで捕まるといかんな」と場を収め、

 大人しく縄をかけられてしまう。

 役人たちも彼らの振る舞いに戸惑い、終始圧倒されてばかりだった。



 彼は流れ着いた先の優しい村人たちへ、別れを告げる。

 素朴な波の響きは、やがて聞こえなくなっていた。

 挿絵(By みてみん)



 【次のお話は……】

  3章の閑話へ。カンショ・サツマイモ伝播記。

  閑話から始まる物語になってしまい、恐縮です。


 【「旅の場所」沖縄県 糸満市 名城ビーチ周辺】

挿絵(By みてみん)


 【後書き】

 古代〜近世までの日本人の平均寿命は40歳がピークで、

 健康長寿はめでたいとされました。

 バックナージュニアは戦死時点で58歳。

 おそらく近世の人々には結構な歳のおじいちゃんに思われます。


 そして島嶼に住まう人々は大人であっても小柄な体格が多いため

 田舎にめっちゃガタイの良いお年寄?がきて、

 村人はビックリしちゃったのが素直な感想かもしれませんw


 バナナもテーブルマナーがあるらしいんだ……


 ■2章の前日譚■ 了

 作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018

【預かっていたポケットの中身】

カメラの未開封フィルム(本体はなし)。

ハンカチっぽい布。

野帳っぽい小冊子。

蓋つきの鉛筆。


【罪人の縛り方】

関ヶ原戦役の石田三成公の縛り方(名札付き/市中引き回し風)で

いいかなと最初は思ったけれど

徒歩で40キロ程度の移動に向いてないし、

刑罰は目的地に着いてから。


手首を縛って馬上から緩めに引っ張るくらいで。

徒歩移動だけど有意義な観光を3日ほど

のんびり楽しんできました。


お話は14話に続く(キリッ)。


▼一巻カラーイメージPOP▼挿絵(By みてみん)

たくさんの作品の中から、本作を読んでいただけて嬉しいです。

ありがとうございます。

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「異世界単騎行」小ネタ帳
(活動報告ページへ移動)
【序章】
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北谷町 桑江宜野湾市 普天間/宜野湾
マイチ浦添沖縄戦
【2章】
バックナー中将と糸満市 名城
首里城跡那覇市 泉崎/国際通り/
久米村 謝名利山
勝連城跡

読谷村 野國 野國総管

【3章】
オリンピック作戦/伝染病について

【4章】
i592871
鹿児島県 旧喜入町と牛島滿中将
鹿児島城跡と島津忠恒
作中救貧作物ビッグレッド冠と簪
【5章】
中城村 当間地域と現地仕様なメイドさん
国王と聞得大君
ウシデーク百十踏揚
うるま市 海中道路
【6章】
加藤清正と黒田長政薩摩焼酎
熊本城跡博多港
徳川家康と近世日本の幕開け

【7章】
i592872
アメリカ合衆国 ケンタッキー 州戦艦ミズーリ
地産地消とンムクジアンダーギー海邦養秀
【8章】
【9章】
ジュゴン
ジュリ売り/糸満売り沖縄戦の戦没者数
【10章】
千姫

【11章】
i592874
島田叡 沖縄県知事



「小説家になろう」投稿分では
こんな感じでイラストを描いたり、

たまぁ〜にAIイラストを作成しています。
 ※AIイラストについては作品掲載は無し、
 活動報告ページで使用感を述べる感じです。
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画像をクリックで関連ページ   (「小説家になろう」活動報告、みてみんブログページへ) に移動します。

※ナシロ村の画像だけ本編エピソードへご案内☆




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