閑話 後編
マイクとヨシュアとマウシは3人組で行動するようになった。
カッチンの城下街は南北航路の中間地点だったせいか、
城下に賑やかな街が広がっている。
彼女の庇護下に入っている2人を、街の人々も好意的に見ていた。
やがて街の若い男衆とも、2人は酒を酌み交わす仲にまでなって行く。
ある晴れた日、彼女は2人を御城の一番高い曲輪に案内する。
彼女ははそこで歌を歌い、風を起こした。
ゆっくりとした動作で姿勢を正し、風に包まれて舞を舞ったのだ。
その姿を見て2人は驚く。
あのクレイジーな精霊を思い出したのだった。
が彼女は構わず歌い、踊り続ける。
風で結い上げた長い髪が吹き飛ばされ、放り出されたようになびく。
手には発光したオレンジ色の紋様が浮かび上がり、
口から溢れる祝詞が光の粒となって辺りを照らす。
彼女が何をしているのか全く理解できずに、
2人は異様な光景に身をかがめて、
怯えてただ見ているしかできなかった。
しばらくして舞が終わった時には、その場に崩れ落ちていた。
ヨシュアは「どうしてこんなことをした!」と急いで彼女を抱き寄せる。
「……貴方がたの呪いを私の能力で打ち消そうとしたけれど。
呪いの方が強くてこうなった」と彼女は力なく告げる。
「デイゴの樹の神様をすごく怒らせたでしょ?
死ねばいいなんて、神様に言わせるような事をしたのね……
かわいそうな神様。でも、優しい神様はあなた達の
「死の呪い」を解く代わりに、条件を出されたわ……」
ぐったりしたマウシはそこで気絶してしまい、
目には一筋の涙が流れる。
ーー2人は彼女が何者かよくわかっていなかった。ーー
ヨシュアは彼女を抱き抱え、城内の救護室へ急いで向かう。
救護室には優しそうな風貌の、年嵩の医者が居る。
彼は様子を見て叫んだ。
「お前たち、マウシ様が魔力切れをしておるぞ。
一体何をさせてこうなった?」
命に関わるんじゃとプンスカ怒られて、
渋々マイクはヨシュアに代わって、先ほどの出来事を医者に伝えた。
「マウシ様はいっつもよそ者に優しすぎる」
と医者はため息を吐く。なんかご愁傷様である。
それから医者の処置が適切だったのか、
気絶してから3時間後には彼女は粥をすすっていた。
まだ体調が悪そうだとヨシュアがとても心配そうに彼女を見ている。
マイクは鬱陶しさを感じたが顔には出さず、様子を見て席を外した。
残り少ないがとてもタバコが吸いたいのだ。
救護室からだいぶ離れた所でタバコを吸った。
肺いっぱいに煙を吸い込み、
深呼吸のように吐き出す……を繰り返しているうちに、
だんだん彼らの事はどうでも良くなって行く。
「ペリリュー島の戦い」以来、他人に感情を動かされるのを
好まない彼は一服した後、ガムを噛みつつ彼らのいる救護室に向かった。
救護室でヨシュアは
「今回のような症状が城の外であったら、助かる保証が無い」
と医者からマウシの前で言い渡されていた。
「城の中なら、わしがおるからまだ良いが、
それでも控えてほしい事じゃよ」
と念を押されている。
「失礼だがマウシは、どのようなお方なのか教えてくれませんか?」
丁度戻ってきたマイクが医者に尋ねた。
医者は「知らないのか」と呆れている。
「マウシ様は領主様とは別の形でカッチンの街を治めるノロ様じゃ。
この間切に棲んでいる精霊や魔物と対話し、時には戦う。
人間と人ならざるものが共に暮らすために、
尽力されておるお方なのじゃ」
医者が深呼吸して続けた。
「……まあここはナーファのような大きな街では無いし、
マウシ様は領内の人間にも精霊にも大体好かれておるから、
魔力切れを起こす難題はまず無いんじゃがの」とこちらを睨み、
医者は二度とやるなよと3人に釘をグリグリねじ込む。
医者は明日までは絶対安静じゃ!と言って
2人を救護室から追い出す。
すでに遅い夕方で、西の方へ日が落ちようとしていた。
城下に続く城の入り口をトボトボと歩いていると
夕焼けが2人を染め上げ、
見上げた風景の美しさに新しい日常が続くことを、
彼らは心の中で祈った。
【次のお話は……】
2章のあらすじと主要人物紹介になります。
【「旅の場所」沖縄県 うるま市 勝連城跡】
閑話 そういえばここは「魔法の世界」でした 了
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