第2話
「……化け物が森に住んでおっての、
夜になると集落には入ってこないんだが、緑色に光って、
うろついておるんじゃよ」
溜息交じりに老人は続けて、
「おとなしい森の精霊、キジムナーなのかと思っていたら、
夜中に海辺や森の入り口で変な叫び声を出して、
村人の睡眠を脅かしている。恐ろしい化け物さぁ」
「それこそお役人様にお願いしてはいかがですか?
僕は何もできませんよ?」
「お前さんは「魔法使い」ではないのか?
小さいながらもあの鉄の馬に乗って来たのだろう?」
拍子抜けした表情でジルは右の指先から左手に持っていた鍋へ水を入れ、
指先を鳴らして小さな炎を出して見せる。
「なにそれ?魔法?」
叡弘は目を見開く。見たジルは苦笑いしながら頷いた。
「魔法」が目の前で起こっている。
(RPGゲームのチュートリアルかよ!)と内心ツッコミを入れたのは内緒だ。
かつての学生時代、冒険物のテレビゲームを結構やり込み、
仲間たちと夜を明かした事も何度かあったのだが。
実際、眼前に似たような現象が起こると、内心舌を巻いてしまった。
「暮らし向きに必要な水と火は、
こうやって手に入れるのが普通なんじゃがの……」
老人は不思議そうに首を傾げ笑う。
「それから坊やの能力を見る魔法もあって、
悪いが勝手に見させてもらった。
なかなか面白いことになっているが、見てみるか?」
「⁇」
老人に導かれるまま「ステータス オープン」と共に唱え、
目に見える形に映し出された内容は、以下の通りだった。
苗字が書かれていない村人仕様で自動二輪免許はスキルなの、
文字読めるのは正直助かった……
その中でも魔力は桁違いに高いらしく、
かなりの伸び代があると言われた。
村人たちはそれぞれ50あれば良い方らしい。
良く見ると「生活魔法一般」と書かれてあるので、
彼は老人がやってみた様に指先に意識を持っていき、
炎をイメージしてみると、指先にライター程度の炎が灯る。
続いて水は、
まるでスポイトの雫が垂れるように出す事ができた。
調子に乗って小さなつむじ風を手のひらで起こしたところで、
満足気な表情の老人に夕飯を勧められる。
……とても具の少ない、野菜スープだろうか。
「……てっきり能力値が高いから、
ナーファの街から来た魔法使いか何かと思っていたよ。
村長でしかないワシの能力だとここまでだが、
お役人方はもっと詳しく見る事ができるそうな」
と謝られた。簡単な食事が終わり老人は安心したのか、
「今日は疲れたからもう休む」
と朴訥に彼は言い、
かまどの火を落として土間の床に眠ってしまう。
急に暗くなったので、叡弘にも睡魔が襲って来る。
バイクに積んでいた寝袋を急いで取り出し、
彼は老人の家でぐっすりと眠った。
遠くから風の声が聞こえる。
【次のお話は……】
ジルさんへ、一宿一飯の恩返し。
【「旅の場所」沖縄県 北谷町 桑江】
第2話 「魔法使い」未満 了
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