エピローグ
「……では人間に戻したからの。約束を破ったらオス豚じゃ。
結果を楽しみにしておるからの」
フテンマの女神は山口さんに素気無く言い、祭壇の供物をいくつか持ち去る。
山口さんは祭壇の前で、うずくまり動かない。
少しずつ緑色の発光が弱くなっていく。
途端に幸せそうな声が庭に降り注いで来た。
「この肉は甘く焼かれて美味よの。
たくさん頭を働かしたから、酒も沁みるの。
タラ。私の取り分は取ったから、残りは
子どもらや村人に下げ渡してくれんかの」
とのお達しだ。……どうやら願いが叶ったらしい。
庭にいた子ども達はタラが祭壇から供物を引き上げて、
「ではお下がりを頂かせてもらいます」
と聞いた時に、歓声を上げる。ご馳走の時間が始まる。
目には見えないが彼らには女神がすこぶる上機嫌だったのを感じた。
明るい上機嫌な声で
「やっぱり大勢で食べた方が美味しいの。
肉を焼いた者がフテンマにもいればよかったの。ふふん」と褒めている。
屋台の店主は「有難いお言葉です」と恐縮していた。
女神は短い時間で食事を切り上げ、
「フテンマに戻らねば。ではな」と気配を消した。
1時間後には山口さんはすっかり人間の色味と質感?を取り戻していた。
もう透けたり、小さくなって叡弘の肩に留まることもできないが、
ふらつきながらも二本の足でしっかり立っている。
今まで発光していたので、影が見当たらなかったが、
きちんと影も付いていた。……人間だった。
「叡弘がいなかったら、俺は人間に戻れなかったよ。……ありがとう」
と山口さんはバツが悪そうに言ってきた。
女神との取り決めの際に、家庭の嫌な部分を晒してしまったからだ。
叡弘は「自分の言ったことはこれからも変わることは無いでしょう?
だから山口さんは精一杯、目の前を見ても良いんです。
……そうじゃ無いと、前に進めませんよ?」
と彼なりに精一杯の言葉を伝える。
山口さんは涙目で、
「お前は本当にいい奴だよな。だから手も貸したくなるんだ」
と言うと泣いてしまった。
「泣くのはよせよ。せっかく身体が治ったんだ。
下げ渡しの酒もあるんだし、飲もうぜ?」
とタラが取りなす。夕方までのわずかな時間、
彼の家は宴会場に変わった。
……ふと視線をバイクの方向へ投げると、
チルがバイクと楽しそうに話しながら肉を食べていた。
叡弘が近づいていくと笑顔で手を振ってくる。
「今日の神さまのお話を聞いて、ワガママはいけないよ、
って気づいたの。昨日はワガママ言ってごめんなさい。
本当は今まであった気ままな時間が無くなるのが怖かったの」
と小さな頭を下げる。
なかなかいい子だ。というか山口さんの話は
村中に聞こえていた事の方に驚く。
バイクも全て聞いていた様で
「神様たちの祝福と罰の力は、この国では大きいようですからね」と
うなずく様にいう。
山口さんはというと、こちらの話を聞いていたのか
しょっぱい顔をしていた。
やがて宴も終わり、早い時間に休むことになった。
畏れる神へ祈りを捧げて疲れきったタラが
村人や子ども達に肉をお土産を渡し、引き取ってもらったのだ。
アキヒロ達はその夜、タラの家でぐっすり眠れた。
夜空では満天の星空がまたたく。
【次のお話は……】
閑話のお話。
アイスバーグ作戦上に無い、「琉球」へ流れ着いた人々。
青年たちの物語は、どう語られていくのだろうか?
【「旅の場所」沖縄県 那覇市 小禄】
エピローグ 女神との駆け引き 了
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