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異世界単騎行 The Battle of Okinawa 1609 ⇄1945  作者: ロータス
第2章 オキナワto琉球 1604年 卯月
28/159

第21話

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 翌日はよく晴れた日の朝だった。

 叡弘と山口さんはタラの家にバイクを置いて、

 肉料理の買い付けに向かう。


 バンショ前で昨日の屋台を探す。

 屋台はまだ開店準備中で、屋台の店主が忙しそうに

 肉をさばいている。


 「よう!昨日のお客さんじゃないか。

 まだ店は空いてないぜ。昼あとからだぞ」

 気前の良い声だ。


 彼らは店主に昨日の出来事を伝え、

 豚1頭分のご馳走が必要である事を相談する。

 

 店主は事情を聴くと、

 「フテンマの女神様がもし、自慢の料理を気に入ってくれたら、

 店の評判になってもっと繁盛するな。わかった。

 昼までに1頭分だな?腕によりをかけて準備するぜ。

 それから、今日は店を閉めるから、お代は弾んでくれよ?」

 と彼は気持ちよく引き受けてくれる。


 やがて屋台の主人から、

 「1頭分の焼肉を焼く準備ができたから、屋台を移動して焼きの作業に

 移ろうと思うが、量が量なので祭壇が近くにある場所で焼きたい」と

 勧められた。


 屋台をタラの家の前に移動して焼き始めると、

 時間は昼前で、焼き肉とタレの焼ける香ばしい匂いが広がる。

 香ばしい匂いが近所にまで広がって、近くの村人が集まって来た。


 店主は「今日はタラの家で、フテンマの女神様に

 ウチの料理をご馳走としてお供えするんだ。

 女神様の気に入った料理を、明日はみんなに出すからな」

 と笑顔で応対している。


 2人はその光景を微笑ましく見ていた。

 理由の分った大人たちは仕事に戻って行き、

 子供たちが何故か率先して祭壇に料理を運んでいる。

 聞いてみると、神さまは子どもに優しいので、

 お供え物のおこぼれに預かれないかと期待してお手伝いをしていた。


 ……抜け目のない子どもたちである。


挿絵(By みてみん)

 昼飯時、タラの家の庭には、フテンマの方向、北向きに祭壇と

 供物の用意が完成していた。

 髪をまとめ上げ、ごま髭を剃り落とし小綺麗に

 身なりを整えていたタラは、香炉に火をつけた線香を挿し、

 「サリ、サリ」と小さく呟きながら手のひらを擦り合わせ

 畏まって呪文を唱える。


 「北のフテンマの女神様、こちらは南のオロク村のタラと申します。

 願いを聞き届けていただくために、供物をご用意致しました。

 どうぞ願いを聞き届けたまえ。畏み畏み申し上げ奉ります」


 一陣の風が吹く。そして姿は見えないが、庭にいる全員に声が聞こえてきた。

 「私にご馳走の供物で願いを聞き届けて欲しいと言ったのは、またそなたか。

 何が望みじゃ?それとも、前と同じ望みか?」澱みのない声が空に響く。


 タラは緊張しているようで、声が震えて裏返しになってしまう。

 「そうなのですが、今度はこの者になります。どうかお助けくださいませ」

 と精一杯の返事をしている。


 ふん、と姿が見えないが山口さんは、

 誰かに値踏みされる様な視線で見つめられているのを感じた。


 「……お主は自分のまだ幼くて、可愛い娘との約束も守りきれず、

 仕事相手の要望を最大限に聞き入れておったな。私も見ておったぞ。

 あの子はお主と母親との約束を本当に本当に楽しみにしておった。

 しかし行けなかったお主は仕事仲間と海へ飲み会の集まりに

 連れて行ったの。埋め合わせのつもりで。


挿絵(By みてみん)


 そこでもお主はあの子を嫁に任せきりで、

 自分はまた仕事仲間とつるんで酒を飲んだり遊んでおったの。

 その時、あの子は声も出さず泣いておったから私が怒りのあまり、

 そなたがふざけて海に入った時に沈めてやったのだ。

 お主は自分の嫁と娘の前にいる資格なんてなかったの」

 と女神は整然と答えた。


 山口さんは呆れて

 「そんな親子関係の家族だなんて、島中どこにでもいますよ。

 大体、仕事を本領としない夫がいますか。

 私は家族の幸せを守るのに家族の幸せ精一杯になってきました。

 どうして、僕だったんですか」

 と涙を堪えながら悲しい声で返事を返す。が女神もさらに続けた。


 「母親は子どもに寄り添い、道を教えるが役目。

 母親が教えたものを褒めて認める事が父親の役割だ。

 逆もまた、さりなん。長じては異性への自信に繋がる。

 いつの時代もより良い相手を探すのに必要不可欠な能力だの。

 さて、父親だったお主はあの子に、それを与える事はできたかの?」


 山口さんは言葉を失う。


 「お主が仲間と遊んでいる時、あの娘はこう思っていた。


 「どうしてお父さんは私のこと見てくれないんだろう。

 私はお母さんと仲がいいお父さんのことが大好きなのに。

 私いらない子なの?」とな。


 見ておれんかったぞ。どうしてくれようかの?」と場が一気に凍りつく。

 叡弘は憔悴している山口さんを庇うようにして、立ち、言葉を紡ぐ。


 「話を聞くと完全にこちらの完敗です。

 向こうの山口さんはたしかに父親失格だったかもしれません……

 ですがこちらに来て、まだ小さい自分を何度も何度も助けてくれました。

 無知だからと切り捨てず、お互いの欠点を補いながら遠いオロク村まで、

 辛抱強く一緒について来てくれました。


 正直言って、1人だったら今ごろナーファで奴隷として売り払われて、

 挽肉にされていたかもしれません。

 だから僕にとって、山口さんは命の恩人です。

 女神さまから見たら、取るに足らない自分ですが、

 どうか彼の願いを聞いて下さいませんでしょうか?」


 ……女神は苦り切った声で返事をした。


 「ほぉ。虫の居所が悪い私に意見するとは、肝の座った小僧だの。

 確か叡弘とか申したか」


 緊張した空気が流れたが、女神はふっと笑い、

 山口さんに視線を送って言う。


 「ならばもう一度だけ機会をやろう。山口。お主を人間の体に戻したら、

 自分を愛してくれる女性を見つけるのじゃ。


 娘が授かったら、今度こそ本当に愛情を持って育てるのじゃぞ?

 また同じ事をしたら今度はオス豚に変えてやろうかの……

 いや、叡弘はお主が辛抱強い人間だと証明してくれたからの。

 今のお前ならできないことでもあるまいて?


 娘が嫁に行ったらお主から完全に手を引こう。

 なに、10年と少しだの。すぐに自由じゃ。どうじゃ?」と条件を出してきた。


 しばらくして、山口さんは静かに告げる。


 「……女神様、俺は人間に戻れたら、僭越ながらこの国の民を救う方法を、

 ある方の下で考えるつもりでした。

 もし、その方が許してくれるなら、こんな俺でも愛してくれる女性と結ばれて

 この世界で幸せな家庭を築きたい。しかし期限が5年後に控えています。

 今からがむしゃらに働いても、間に合うかどうかも分かりません。

 女神様は5年後にまた、8年前の古傷を蒸し返すような

 真似をしろと言うのでしょうか。5年後には俺はもう40を超えます。

 ……愛する家族を失った悲しみで、

 今度こそ死んでしまうかもしれません……」


 女神は何やら興味深そうに、「5年後、何かが起こるのか?」と

 山口さんに尋ねる。


 「この国に、今までに無かったような大きな戦争がやって来ます。

 ……負ければ、この国がなくなります」と簡潔に答える。必死の表情だ。


 「大変そうじゃが条件はそのままだの。そうしないと、

 この島に住む他の神へ申し訳が立たんのじゃ」

 迷いに迷った山口さんはそれでも、人間に戻ることを望んだ。

 女神の無慈悲な要求を、全て呑んだのだった。

挿絵(By みてみん)


  【次のお話は……】

   女神の呪いが一部解けた山口さん、人間に戻る(仮)。



  【「旅の場所」沖縄県 那覇市 小禄】

挿絵(By みてみん)


   第21話 女神のため息 了

   作品および画像の無断引用・転載を禁止します。©️ロータス2018

【もともと豚肉は年に一度くらいのご馳走】

庶民が神さまに捧げる貢物としてはピカイチなアイテム。

(明や清の冊封使が来た時とか大変だったらしいです)


オロク村に偶然居た肉料理屋台のおじさんは周辺の村々を巡っています。

冠婚葬祭(今回は祭祀)があれば引く手数多。


▼一巻カラーイメージPOP▼挿絵(By みてみん)

たくさんの作品の中から、本作を読んでいただけて嬉しいです。

ありがとうございます。

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「異世界単騎行」小ネタ帳
(活動報告ページへ移動)
【序章】
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北谷町 桑江宜野湾市 普天間/宜野湾
マイチ浦添沖縄戦
【2章】
バックナー中将と糸満市 名城
首里城跡那覇市 泉崎/国際通り/
久米村 謝名利山
勝連城跡

読谷村 野國 野國総管

【3章】
オリンピック作戦/伝染病について

【4章】
i592871
鹿児島県 旧喜入町と牛島滿中将
鹿児島城跡と島津忠恒
作中救貧作物ビッグレッド冠と簪
【5章】
中城村 当間地域と現地仕様なメイドさん
国王と聞得大君
ウシデーク百十踏揚
うるま市 海中道路
【6章】
加藤清正と黒田長政薩摩焼酎
熊本城跡博多港
徳川家康と近世日本の幕開け

【7章】
i592872
アメリカ合衆国 ケンタッキー 州戦艦ミズーリ
地産地消とンムクジアンダーギー海邦養秀
【8章】
【9章】
ジュゴン
ジュリ売り/糸満売り沖縄戦の戦没者数
【10章】
千姫

【11章】
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島田叡 沖縄県知事



「小説家になろう」投稿分では
こんな感じでイラストを描いたり、

たまぁ〜にAIイラストを作成しています。
 ※AIイラストについては作品掲載は無し、
 活動報告ページで使用感を述べる感じです。
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画像をクリックで関連ページ   (「小説家になろう」活動報告、みてみんブログページへ) に移動します。

※ナシロ村の画像だけ本編エピソードへご案内☆




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