第17話
バイクは終始不機嫌だった。
王都スイに近づくにつれて混雑が激しくなってきたのだ。
街道の石畳は大きく整備されていても人を捌ききれず、
道の隅に露店も開かれ混雑していたのだ。
「こんな渋滞は嫌い。アルジ、早くここを出よう」
彼は困った声で催促する。
「今まで行った場所で、こんなに混んでる場所は無かった。
こんな場所、気持ち悪いだけだ」
叡弘は今にも泣きそうな声の彼へ、何度もなだめるように謝る。
混雑の中でのバイク走行は出来ないため、彼を押して混雑の中を進む。
しばらく行くと開けた広場へ出る。次第に人混みが解消されて行く。
混雑の原因にならないように彼らは広場の隅で休憩を入れ、
不機嫌になっていたバイクは混雑が解消してやっと安心してくれる。
目的地のオロク村までもう少しだった。
広場では先ほどワクタバンショの係員が教えてくれた様な、
のんびりとした光景が広がる。
まるで公園みたいな印象で、芝生のような短い草が
絨毯のように生えている。人々はその上にゴザを引いて、
将棋や囲碁、歌や踊りの練習会みたいな集まりもあった。
少し離れたところでは、三味線や琴を持ち出して演奏を楽しむ。
爽やかな春の終わりの、のどかな風景だ。
山口さんが
「あれが首里城なのかな?」と楽しそうに指をさす。
1kmほど先の高台に、お城らしき場所が見えた。
石垣が見覚えのあるカーブを描き、叡弘は記憶を辿りながら城を見つめる。
見えている建物が黒い。赤くないのだ。
「山口さん、赤くない首里城ってなんか不思議な感じ……」
「そうだよな、俺も不思議だと思う。でもこれもカッコいいな。
今は内が見れないから、内部は赤いかもよ?」
2人の見た首里城、もといスイ城はこれまでに1度火災が起きている。
首里城があの赤い城になるには、あと100年ほど、時間が必要だったようだ。
広場での休憩が終わる頃、
バイクは「アルジ、スイ城の説明をしますか?」と尋ねられた。
なんでも、ナーファの中で過密に集中した区域のため、
マッピング作業がここまでかかった。と教えてくれたのだ。
アキヒロと山口さんはありがとうと口々に言い、彼を撫でる。
バイクの説明によると、
「スイ城は大きな岩の上に建てられた王城で、今から約100年前に今の形ができた。国王が政治を執り行い、アジと呼ばれる諸侯達が王に代わって行政の管理を行う。と同時に、ノロと呼ばれる女性の神官が組織だっており、国の政治を背後から支えている。
化け物やダンジョンの管轄はこちらの方で、彼女たちの本拠地は城の南東にある、サシキウドゥンと呼ばれる屋敷になる。城内の居住スペースは狭く、国王の家族までがここに住む。親戚の王子やアジや王宮勤めのノロ達は、城下などにウドゥンという名の屋敷を与えられる。
対して地元のペーチンやノロはドゥンチという屋敷を拝領し区別されそれから、スイ城の北西側、今居る龍潭池の奥に一般公開されていない小さなダンジョンがある。
10階層からなり、化け物やボスがいるものの何らかの魔法の能力で鎮静化されていて、休眠状態の様だ」
山口さんがバイクの説明を楽しそうに聞いていた。
「王城とダンジョンはRPGゲームのお約束。
あとは爆乳でムチムチの美人な眠り姫とか居てさ、
ボスを倒したら、『結婚してください♡』
とか涙目で言われるのかな?あぁ、胸とかスリスリされてぇ」
とニヤついている。
バイクがすかさず
「胸の大きさまでは解らないが。
成人した古の王女様がこのダンジョンのドロップアイテムで。
だから一般に公開されていないのでしょうね……」
山口さんの問いへ、彼は意味深にムフフと答える。
……種族を超えた謎の友情が芽生えた瞬間だった。……
「2人とも、そろそろ行くよ」
叡弘はそんな2人の様子に呆れながら、出発を促す。
渋滞が緩和した道をバイク走行し、
15分くらい経過したところでようやくムラに着く。
【次のお話は……】
空手おっさん登場の巻。
もちろん主人公たちと面識は、これから?
第17話 バイクの不満 了
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