第16話
クメ村の入り口にあった宿で過ごし、ワクタバンショでの
約束の日が来た。
「魔法使い見習い登録の発効日なので、必要な処置と書類をお渡しします」と
あらかじめ案内されていたのだ。
「叡弘様、これはこれは、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
受付嬢がよどみなく窓口へ誘導する。
対応の早さに、お役人はこれが普通なのか?
「整えた書類はこちらの文箱へ納め、見習い用へのステータスの
書き換えも済みました。それから、識別票として両腕と手の甲にハジチ、
刺突刺青を魔法術式で刷り込みます。
こちらは普段の生活魔法では見えませんが、高度な術式を使う時に
赤やその他の警告色に発光するものです。
周りにいる方を危険に巻き込まない為のものなので、義務付けされています。
こちらへどうぞ」
手順通りの説明を受け、救護室の様な別室に通される。
部屋の中央に寝台が配置されており、ここで処置をするらしい。
ここでのハジチは「刺突」と当て字されているが、
文字通り針でプスプス刺すものではなく、
実際はインドで有名なヘナタトゥーの様なものだった。
特殊な液体で腕を中心にして、身体の広い範囲に渡って染料で書き込まれた
トライバル風味の紋様を、術式で皮膚に焼き込む。
時間は15分ぐらいかかったが、
焼き込んだ後の皮膚には何も残らないようだ。
魔法使いの他にも、生まれながらに強い魔力を持つ
サムレやノロなどの特権階級もこのハジチが施されており、
高度な術式が使えると教えてもらう。
なるほど痛くない。
「一般の成人したご婦人が海賊や強盗などに誘拐されるのを避ける為に、本物の針と墨を使った刺青を手にハジチとして施し、難を逃れる事があるそうです。成人した人間は直接ムラの税収に関わってくる為、他所に奪われない措置として、ムラの成人通過儀礼でハジチを施されている事が多いですが、どうかなされませんよう、お願い申し上げます」
と強く注意を受ける。ハジチの上から刺青をすると、
術式のバランスが崩れて魔力が使えなくなるそうだ。
彼は係員の指示のもと、両手の甲に思いっきり魔力を集中させる。
処置の終わって何もない手の甲に描かれた牙の様な紋様が赤色でうっすら現れ、係員とハジチの機能を確かめた後、別室から窓口へ戻る。
窓口では、大きな山口さんが落ち着かない様子で心配していた。
「針じゃなく魔法で焼き入れだったから、不思議と痛くなかったよ」
彼の何気ない返答に、山口さんは安心する。
「届出の用事が済んだら、次は山口さんの病気を治療しなきゃね」と笑い返す。
登録の手続きが完了し、係員に山口さんの病気の件を聞く。
具体的にどこへ向かえば良いのかを教えてもらったのだ。
王都スイの南、オロク村の離れた場所に
専門の魔法使いが居るらしい。
係員の見せてくれた簡単に書かれた地図では、
バンショ現在地→スイ→西隣にギマ村、
バンショ→スイ→南隣にオロク村という配置で近く、
徒歩は各2時間程度の距離になっている。
とりあえず一番の高台の立地がある首里城前は、
必ず通らなければならなかった。
「城前の大通りには露店が並んで、美味しいものを食べながら
王城を遠くから見る事ができます。
広場が隣接していて木陰では好事家が三味線や歌、
踊りを楽しんでいますよ」
と案内される。
彼らは楽しみにスイへ向かう。
日はまだ登り切っていなかった。
【次のお話は……】
叡弘の登録が終わったので、山口さんの病気を治すために
オロク村へ向かうが……
【「旅の場所」沖縄県 那覇市 泉崎】
第16話 「魔法使い」登録 了
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