第108話
中世の黄昏、運天港沖から
戦艦ミズーリは黒潮回廊を辿り始めた。
与えられた摩訶不思議な能力によって
彼女を形作ったのは将軍だったが、
元来は米海軍の旗艦にあたる。
◇
甲板から昇降機でビッグレッドを
即席の厩舎へ格納した後、
ミズーリに搭乗した将軍たちはブリッジへ進む。
実体を持たない人員は各所に別れ
戦艦の運用を円滑に促す。
姿が見えずとも機器の制御は問題ないようだ。
また彼らは重さを持たなかった。
通常の人員以上を載せていたかもしれないが、
艦内の気配は閑散としており
チリひとつ落ちていない状況に保たれている。
ブリッジでは双眼鏡で進行方向を覗く。
島影の様子は作戦地と変わらず、
航路では帆船が大きな戦艦を遠巻きに避けていく。
「進行方向は問題なし。しばらく北上を続ける」
将軍は簡潔に言い放つと、
目から双眼鏡を外して振り向く。
マイクとヨシュアが困惑した表情で控えていた。
心持ち気まずくしているのは、
指示待ちが長い所為だろうか。
そのまま夕方の与論を過ぎた頃、
「進行方向、北より南下、高速接近中の不明物体あり」
「……カミカゼか?」
ブリッジに緊張が走る。
自分たちもいるなら
日本軍がいるだろうと充分想定内だった。
しかし……
「ボーイ!!」
ヨシュアが見た水しぶきの中には
北にある奄美から戻って来ていたアキヒロ達がいた。
「照準用意」
冷静な声で将軍は支持を告げる。
聞いたマイクが言葉を失う。
「……だれかが願いを叶えたい時、
いつもあの少年がそばにいた。
何か法則性があるのかもしれない。
……連れていくぞ」
距離のある外洋へ主砲の水柱が出来ていく。
済んでのところで避ける彼らも必死だ。
海に叩きつければ無力化出来ると
艦砲射撃を続ける内、
射程を何とか逃れた彼らの灯りは
伊是名島と伊江島の間を通り抜け
夜の帳を広げた粟国島の方向へ向かっていった。
「……馬鹿たれ…」
小さく自身に問うたのか
およそ将軍らしからぬ悪態を吐く。
やはり陸を進む者に対して海は厳しいのか。
やがて追いついた西からの星空に抱かれ、
北上するミズーリの元にも宵闇が訪れた。
空には北斗七星が輝く。
それは未だ遠い、東京へつながる空になる。
【次のお話は……】
将軍たちとは一旦別れ、
粟国島へたどり着いた主人公たちのお話へ。
第108話 蒼海の黄昏を渡る 了
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