94 サラの完璧な演技
サラを連れ出そうとする男達から、サラを守るように飛び出した私。
でも、ただの15歳の少女にどうしろと!?
窃盗団の男2人を止める力なんてありませんけど!
ど、どうしよう!?
私の背後にいるサラをチラッと見る。
先程のマーデルの言葉に怯えているのか、ガタガタ肩を震わせている。
……このままサラを渡すわけにはいかないわ!!
サラの事は好きじゃないけど、酷い目に遭うってわかってるのに渡せない!!
でもどうすればいいの!?
腕力で勝てるわけないし、魔法だって使えない。
巫女って言われても本当はただの……。
…………巫女?
それよ!!巫女である事を利用するのよ!!
「それ以上近寄らないで!!」
私は男2人に向かって大声で叫んだ。
牢の外から様子を見ているマーデルが、半笑いしながら問いかけてきた。
「おや?仮にも巫女の誘拐を企んだ相手を助けるのですか?」
「違うわ!!
私は彼女が本当の首謀者だと思って……彼女に呪いをかけていたのよ!!」
「!?」
「呪い……?」
マーデルが少し興味深そうな顔をした。
背後からはサラの異様な視線を感じるけど、今は無視よ!!
私は男達に向けて、右の手のひらを開いて見せた。
まるで手のひらから呪いの力が出ているかのように……。
意外と効果あったようで、男達が一歩後退した。
巫女の力を信じている証拠だ。
「そうよ。自我をなくしてしまう呪いなの。
この呪いにかかったら、自分が誰かわからなくなって、私の言う事をなんでも聞くようになるわ。
そして、1日ほどで死に至る……」
少しでも巫女っぽく見えるように、声のトーンも低めにして目を大きく見開いて雰囲気を出すのよ!!
照れなんて捨てて!!
リディア!!あなたは女優よ!!
私の異質な雰囲気に気圧されたのか、男2人は私からじりじり離れていく。
「この呪いをかけるには、時間がかかるの。
今すぐ貴方達に呪いをかける事はできないわ。
でも、呪いにかかった彼女に触ればすぐに感染するわよ。
きっとそろそろ呪いが効いてくるはずだから……」
悪女っぽくダークな笑みをしてみせると、男達の顔が青ざめていった。
私は後ろを振り向き、サラに小声で話しかける。
「ほら!早く演技するのよ!」
「え?」
「呪われた演技よ!早く!捕まりたいの!?」
「…………!!」
サラは私の意図がわかったのか、ハッとした顔をした。
そして身体を痙攣させるように震わせながら、ゆっくりと立ち上がる。
サラが立ち上がる時に、私はささっとサラの髪の毛を纏めていた髪留めを引き抜いた。
サラのふわふわボリュームの髪がバサッと広がる。
うつむいていたため、髪の毛が顔にかかり、その表情などは一切みえない。
その状態で、腕を少し前に出しながらフラフラと男達に近づいていく。
うん。まるで、有名ホラー映画の幽霊みたいね!
男達、ビビってる!ビビってる!
こんなお貴族様の住んでる世界で、髪の毛で顔を隠して歩く女なんていないもんね。
さぞ恐ろしいことでしょう……。
「サラ!!あの男達に触るのよ!!」
私が男達をビシッと指差すと、サラはガバッと顔を上げた。
私の位置からサラの顔は見えないけど、男達の顔を見る限りとても恐ろしい顔をしているのでしょうね。
みんな白目をむいてるもの。
「どけ!!」
「うわああっ!!」
男達は慌てて牢から出て行った。
サラの顔を見たマーデルも、「うっ」と発すると男達の後を追って地下から出て行った。
バタバタバタバタ……
コツコツコツコツ……
3人の足音が聞こえなくなったと同時に、サラがペタリと座り込んだ。
「はあぁーーーー……」
「サラ!!よくやったわ!!」
サラの元まで行き、肩に手をのせるとバシッと振り払われた。
「あんたね!!突然あんな無茶振りするなんて!!」
「上手くいったんだから、いいじゃない!!
完璧な呪われた女だったわ!!
あんなに怯えさせる表情ができるのは、サラにしかできない事よっ」
「そんなの褒められても嬉しくないわよ!!」
「でも、おかげでみんな逃げて……あっ!!」
「なによ!?」
私の目がある一点から動かないので、何かあるのかとサラも同じ方向を向いた。
そしてサラも「あっ」と声を出した。
牢の鍵が開いている。
さっき男達が出て行った時に、閉め忘れたんだわ!!
サラと顔を合わせる。
考えていることは、きっと同じだ。
「……行くの?」
「行くしかないでしょ!!」
「どうせ捕まるわよ」
「サラの呪いの演技があれば大丈夫よ!」
「ちょっと!!」
牢の扉を開けて、外に出てみる。
階段の方に耳をすましてみるが、誰かが来る気配はない。
きっと今頃巫女の呪いの話をしてるわね。
誰か勇気ある者がいない限り、しばらくは誰も地下に来ないはず!!
さっきJは階段とは逆の方向へ行ったわ。
こっちにも通路があるって事よね……。
階段と逆方向を見ると、牢の中にいるメガネをかけた男性と目が合った。
あっ!!ワムル!!
先程からずっと大人しくしているワムルの存在は、つい忘れそうになってしまう。
私はワムルの入った牢に近づいた。
「ワムルさん!!」
「リディア様……いえ。巫女様」
「リディアでいいわ!!
今ここにはエリックお兄様達も助けに向かってくれてるから、貴方も必ず助かるわ!!
もう少しだけ、待ってて」
「……エリックが……!!
わかりました。お待ちしています」
「それで、お願いがあるの!
密輸の事はエリックお兄様以外には話さないで欲しいの!」
『密輸』という言葉を聞いて、ワムルの目が丸くなった。
「……リディア様はその事までご存知なのですね。
本当に素晴らしいお方です。
もちろん、エリックに不利になるような事はしませんから安心してください!」
メガネの奥にある優しい瞳がにっこり笑った。
そうよね。ワムルはエリックの友人だもの。
自分の発言でエリックを追い込むような事は言わないわよね。
私もワムルにニコッと笑いかけ、サラと一緒に先へと進んだ。
階段とは反対側の、地下の奥。
暗くてパッと見ただけではわからないが、人が1人通れるくらいの細い通路があった。
きっとJはここから出て行ったんだわ。
この通路がどこに続いているのかはわからないけど、行ってみるしかない!!
「サラ、行くわよ!?」
「わかってるわよ!!」
サラと2人、細い通路を走り出した。




