91 突然現れた意外な人物
近くにイクスがいるかもしれない!!
サラも一緒に捕まり、どうなるか心配だったけど小さな希望が見えたわ!!
もしイクスがこの建物の外にいたなら、私達が入って行くのを見ていたはずよね。
私は布を被せられていたけど、サラの姿は見たはずよ!!
窃盗団と一緒に私の侍女をしてるはずのサラがいたら、黒い布を被って運ばれてるのはリディアじゃないか!?って気づいたはず!!
私の優秀な護衛騎士、イクスだもの!!
きっと今頃はもうエリックの元に走って知らせに行ってくれてるわ。
良かった……!!
まさか私に気づかなかった……なんて事はないわよね!
そんな事を考えていると、サラが冷たい視線を浴びせてきた。
「……あんた、よくこんな状況でニヤついていられるわね!」
「え?私、ニヤついてた?」
「それはもう気持ち悪いくらいに!」
……サラの普段のニヤけ顔の方が、よっぽど酷いと思うけど。
でも言うのはやめておこう。うん。
「ところで、あのワムルって何者なのよ?」
サラは顔を少し近づけて、小声で聞いてきた。
何も知らないサラにとっては、ワムルは牢に捕まっている得体の知れない男にしか見えないのだろう。
「エリックお兄様の友人で、信用できる人だから安心して」
私も小声で返事をした。
あまり詳しく話す必要はないだろう。
「あんたは何でここがドドラス子爵邸の別棟だとわかったの!?
ワムルって男と何か関係があるの?」
サラはグイグイ強気で聞いてくる。
ドドラス子爵って……。ドグラスね!
でも、マズイわ。
つい口に出して言っちゃったけど、ワムルを見て急にここがドグラス子爵邸の別棟だとわかるなんて、たしかに不自然よね!?
サラってば、今日はやけに勘がいいんだから!
どうやって言い逃れようかしら。
「ワムルなんて男、小説にはいなかったわ。
そんな男の存在まで知ってるという事は、もしかしてあんた……。
転生者じゃなくて、本当に巫女の力があるの!?」
前言撤回。
サラがアホで良かった……!!
それよそれ!!巫女の力って事にすればいいんだわ!
「だから最初からそう言ってるじゃない」
「でも、それなら何でこの誘拐のことを見抜けなかったのよ?」
うっ!!変なところは勘がいいんだから!
「私だって全てを見透かしてる訳じゃないわ。
自在に力をコントロールできないのよ」
「ふーーん……」
ジロジロ疑うような目で見てくるサラに背を向け、私は再度ワムルの方を見た。
せっかくここでワムルと会ったのだから、いくつか確認しておきたい事があるわ!
・ここに閉じ込めたのは、本当にドグラス子爵か。
・先程の男達は隣国の窃盗団なのか。
・イクスはここに来たのか。
本当は密輸について詳しく聞きたいところだけど、サラの前では無理だわ。
私が密輸の情報を知ったと窃盗団の奴らに暴露されたら、逃げられちゃうもの!!
密輸のことには触れずに、聞きたい情報だけを聞かなきゃ!!
……まぁ、ここに来たばかりの私達の会話を聞いていたのなら、私とサラが仲間ではない事はわかるわよね?
さすがにワムルだって、サラがいる所では密輸の話題は出さないでしょう。
「あの、ワムルさん。
ここはドグラス子爵邸の別棟なんですよね?
という事は、ここに貴方を閉じ込めたのは……ドグラス子爵なのですか?」
私の言葉に、ワムルは一瞬口をつぐんだ。
しかしすぐにキッパリと答えてくれた。
「はい。ドグラス子爵に監禁されていました。
私がドグラス子爵の密輸……」
「ええーーーーーー!!
あのドグラス子爵が監禁をーーーー!?
信じられないですわね!!本当!!」
おおぉい!!!
いきなり密輸の話題出してきたぞ!!!
危ないわねっ!!
慌てて大声を出し、ワムルの言葉を無理やり遮った。
そしてサラには見えないように、右手親指でサラを指差し、左手人差し指を口の前で立てて「しーーっ」という内緒のポーズをした。
『サラの前で密輸の話はするんじゃない!』という意味なのだが、どうやら通じたようだ。
ワムルは申し訳なさそうな顔をしている。
きっと彼も、密輸の事実を誰にも伝えられなくて焦っていたのだろう。
やっと見つけたエリックの妹に、すぐに伝えようとしてしまったんだな。
それはなんとなく理解できるが、危なかった……。
サラの様子をチラッと見てみたが、私達の会話には一切興味がないのか、牢の中をウロウロしていた。
どうやら抜け穴を探しているらしい。
よし!!あとの2つの質問もしちゃおう!
「今日、私達以外に誰かここに来た人はいるかしら?」
「え?いえ。誰も来ていませんが……」
イクスはまだワムルに会えていないのね!
それもそうか。
この別棟には窃盗団はいないと思っていたのに、数人いるみたいだもの。
侵入できなかったのかもしれないわ。
「じゃあ、さっきの男達は誰なのかわかりますか?」
「隣国の窃盗団です。
彼らはドグラス子爵と交流があり、この別棟に滞在しているのです」
ワムルは少し悔しそうな顔をしながら答えた。
やっぱりさっきの男達は隣国の窃盗団なのね。
この誘拐に、ドグラス子爵は関わっているのかしら?
若い男が言っていたあの人というのは、ドグラス子爵のこと……?
そんな事を考えていると、階段の方から男の声が聞こえてきた。
誰かが地下に下りてくる音が響いている。
「確認なんて必要ないよ!
侍女が一緒にいるし、間違いなく巫女だよ!」
「それでも一応この目で確認しないといけないのさ!
万が一って事もあるだろう?
侍女がニセモノの可能性もあるしね!」
どうやら2人いるらしいが……どこかで聞いた声だ。
しばらくして、目の前に2人の男が現れた。
1人は先程の若い男だ。
もう1人は、誘拐の時にはいなかった黒髪の男。
黒髪の男は、私をじーーーーっと見つめるとニコッと爽やかに笑った。
「うん!巫女本人で間違いないね!」
私の事を知っているようだ。
黒髪の男は、私から視線を外さないままずっとニコニコ笑っている。
私もそんな男から目が離せない。
この声、この喋り方。
それに、ウサギのような真っ赤な瞳……。
「まさかリディが巫女だったなんてね!」
「…………J?」
ウサギの仮面をつけていないので、すぐにはわからなかった。
何故、彼がここにいるの?
あの人って、Jなの!?




