89 牢に捕まった2人の女
何故か私のいる牢に押し込められたサラ。
どういう事!?
あの誘拐犯の男とサラは、仲間じゃないの!?
訳がわからないのはサラも同じらしい。
少しの間放心状態になっていたが、はっ!としたサラはすぐに立ち上がり、物凄い剣幕で鉄格子を掴み叫んだ。
ガシャアン!!という音が地下に響く。
「ちょっと!!何やってんのよ!!
私は味方よ!?なんで私を牢に入れてんのよ!!」
「…………」
「何笑ってんの!?早く出して!!」
サラは鉄格子をガシャガシャ揺すりながら、自分を牢に閉じ込めた若い男に怒鳴り散らしている。
男はニヤニヤしながらその様子を見ているだけだ。
まるで、さっきまでの私とサラのようだわ。
「……随分と頭が花畑な令嬢だな。
まさか本当に自分も首謀者の1人だとでも思っていたのか?」
若い男の一言に、サラが動きを止めた。
「……どういう意味よ」
「そのままの意味だよ。
あんたは大神官に利用されただけだ。
巫女の誘拐が無事済んだら、あんたも一緒に外国へ送れと言われているんだよ」
「なんですって!?」
サラがまた鉄格子をガシャンと揺らした。
サラも外国に送る!?
大神官がそれを命じたの!?
あの痩せサンタ!!サラ以上のクズヤローじゃん!!
……でもちょっと待って。
サラがこのまま私と外国へ売り飛ばされたら、誰もエリック達にその事を知らせる事ができないわ!!
そうなったら、私が助かる可能性がなくなる!
サラはなんとしてでもエリックの元へ行かせて、エリックの尋問で全てを暴露してもらわないと私も困るのよ!!
「万が一あんたが口を滑らせてこの事を暴露されたら、大神官とやらの立場も危ういからな。
あんたもいなくなった方が都合がいいんだ。
まぁ汚い大人に騙されちゃったってわけですね!」
悪びれもせず、若い男は楽しそうに言った。
私は立ち上がり、鉄格子を強く掴んだ。
ガシャアン!!
若い男とサラが、驚いたように私を見た。
「なによそれっ!!まだ若い女だからってバカにして!!
大神官ともあろう人が、人を裏切るなんて!!
そこの貴方!!すぐにサラを解放しなさいよ!!」
私の叫びに、2人はさらに驚いた顔をした。
「あ、貴女……。何言ってるのよ。
自分も捕まってるのよ?わかってるの?
何で私だけの解放を求めるのよ……」
サラは訳がわからないといった顔で、ボソボソと喋った。
「だって巫女の私を解放してくれる訳ないでしょ。
それならサラだけでも出れた方がいいじゃない」
それが私の解放にもつながるのよ!!
「はははっ!!」
私の言葉を聞いて、若い男が笑い出した。
私とサラの視線が男にむけられる。
「巫女様、おもしろいですね!
あの人が欲しがる理由もわかるなぁ〜」
「あの人……?」
「巫女様の確認に今こっちに向かってるらしいんで、そのうち会いますよ!」
あの人……?
大神官の他にも、誰か関わってる人がいるの?
「じゃあ!順番に見張りが来るから、逃げようとしても無駄だからね」
若い男はそう言うと地下の入り口に向かって歩き出した。
私とサラは慌てて鉄格子に顔を近づけて叫ぶ。
「ちょっと!!ここから出しなさいよ!!」
「そうよ!!サラを出しなさいよーー!!」
男は振り返る事もなく行ってしまった。
しーーーーーーーん……。
静まり返る地下。
……あぁ。行ってしまった。
サラもここに捕まっては、誰にもこの場所がわかる訳ないわ。
どうしたらいいの……。
絶望感に包まれながら、キッとサラを睨みつける。
「もう!!何でサラまで捕まっちゃうのよ!!
これじゃエリックお兄様に私の事教える人がいなくなっちゃったじゃない!!」
「はぁ!?何よそれ!?
何で私がエリック様にあんたの事教えることになってんの!?」
「エリックお兄様ならサラの下手な演技なんてすぐに見破れるわよ!!
エリックお兄様に尋問されて、洗いざらい喋ると思ってたのにーー!!」
「ちょっと!!下手な演技って誰がよ!?
それに、何で私のこと呼び捨てなのよ!?」
「アホかぁーーーー!!
人のこと売り飛ばそうとした女に、様なんてつけるわけないでしょうが!!」
はぁ……はぁ……
お互い睨み合ったまま、乱れた息を整える。
「……こんな言い合いしてる場合じゃないわ。
ここから逃げる方法を考えないと!!
サラと一緒に売り飛ばされるなんて、冗談じゃないわ!」
「それはこっちのセリフよ!!
あんた……なんかキャラ変わったわね。
それが素なんでしょ」
そんな事を言っていると、突然聞いたことのない男の声がした。
「あの……」
「きゃーーーーーーーーっ!!」
予想外の声に驚いて、思わずサラと抱き合ってしまった。
でも怖くて離れられない。
「だだだ誰!?」
「なんで男の声が!?誰もいないはずなのに!!」
声がしたのは、先程若い男が立っていた場所とは違う方向からだった。
私達のいる牢よりも、もっと奥の牢から聞こえてきた気がする。
私達の他にも、牢に捕まってる人がいるの!?
「お、驚かせてしまってすみません。
『巫女様』や『エリック』という名前が聞こえたので……。
もしかして、コーディアス侯爵家のリディア様でしょうか?」
「!?」
思わずサラと顔を合わせた。
サラも驚いた顔をしている。
私の事を知っている!?誰!?
2人で声のする方を覗くと、奥の牢の中に20代前半くらいのメガネをかけた男性が立っているのが見えた。
長いことここにいるのか、服が少しボロボロになっているように見える。
「は、はい。あの……貴方は?」
「あっ。失礼しました。私はワムルと申します。
家名は……その、もう没落してしまいまして……」
ワムルと名乗った男性は、少し恥ずかしそうにそう呟いた。
…………ん?……ワムル?
ワムルって……あのワムル!?!?
ナイタ港湾の管理者で、ドグラス子爵に監禁されてるかもしれないと思ってたあのワムル!?
イクスに探しに行かせてた、あのワムル!?
「あ、あの。もしかして、エリックお兄様の学友で現在ナイタ港湾の管理をされているワムルさん……?」
「えっ!?何故それを!?
リディア様はまだお若いのに、そんな事まで把握していらっしゃるのですか!?」
当たりかーーーーい!!!
どういう事!?何でここにワムルがいるわけ!?
まさか……。
「ワムルさん!!ここはもしかして、ドグラス子爵邸の別棟なのですか!?」
私の言葉に、ワムルはさらに驚いたような顔をした。
「巫女様というのは本当なのですね!
そんな事までわかるなんて……!!」
私の隣にいるサラは、不思議そうな顔をして私の様子を伺っている。
無理もない。
ワムルは小説には出てこない人物だし、サラの中では彼とドグラス子爵が結びつく事もないだろう。
何故私にそんな事がわかるのか、理解できないといった顔をしている。
でも、理解が追いつかないのは私も一緒!!
どういう事なの!?
ここがドグラス子爵邸の別棟なら、私を誘拐してきた男達はもしかして隣国の窃盗団!?
この誘拐にドグラス子爵は絡んでるの?
それとも、子爵はこの件は何も知らない?
大神官が雇ったのが、たまたまドグラス子爵と繋がってる窃盗団だったとか?
……というか、ここがドグラス子爵邸の別棟なら、イクスが近くにいるんじゃないの!?




