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悪役令嬢に転生したはずが、主人公よりも溺愛されてるみたいです[web版]  作者: 菜々@12/15『不可ヒロ』1巻発売
本編

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83 ルイード皇子目線


グリモール神殿に到着し、大神官と挨拶をしたのもほんの数秒。

もう俺には目もくれずにリディアを神殿の中へと連れて行ってしまった。



なるほど。

兄である第1皇子から聞いていた通り、神官達は王宮に対して敬意を表する気もないみたいだな。


神殿こそが国で1番の権力を持つべきなのだという考えは、ずっと変わらないらしい。

きっとこの先も理解し合うことはないだろう。



それはいい。

俺に対して不躾な態度を取るのは構わない。

心配なのは、巫女であるリディアに対してどう思っているかだ。


通常ならば、神殿の者にとって巫女の存在は神の使いとして崇められるべき存在だろう。

だが、リディアは皇子である俺の婚約者でもある。


その事実を知った時、神殿側はなんと『直ちに婚約解消をするように』といった手紙をよこしてきた。



巫女は結婚してはいけないというような理由を述べてきたが、要するに巫女を王宮側には渡したくないという事だ。



もちろん断ったが、それに対して神殿側がどんな対応をしてくるのかがわからない。

まさか巫女であるリディアに危害を加えることはしないと思うが……。



「想像通りの対応でしたね。

ルイード様に対する挨拶があれだけとは……」



リディアの兄、エリックが不機嫌そうな声で言った。

リディアが歩いて行った方へずっと視線を向けているので、口には出さないがきっと彼も心配しているのだろう。



「巫女に何かする事はないと思うが……。

一先ず、本殿へと向かおう」



祭祀の開始までまだ時間があるというのに、本殿の中は人がいっぱいだった。

ほとんどが異国から来た要人達である。

巫女の登場を、今か今かと待ち侘びているようだ。



招待状を持った、身分のしっかりとした貴族しか入れない事になっていたが、リディアを狙っている者がいたら……と考えると不安になる。



俺とエリックは最前列に用意された席へと座った。

何人もの人に代わる代わる挨拶をされたので、席に着く頃には少しグッタリしてしまった。


あとは静かに始まるのを待つだけだが、周りから色々な声が聞こえてくる。



「巫女様はとても美しい少女らしい」

「未来に起こる事を予言したとか」

「誰も気づかなかった事も、巫女様には見抜けてしまうそうだ」



周りの人々は、巫女様についての話に夢中になっている。

これだけの人にリディアが興味を持たれるというのは、嬉しい事ではあるのだが複雑だ。



実際に我が国の王子と結婚を――という内容の手紙も届いたと聞く。

リディアの姿を見たら、もっとたくさんの国から求婚の申し込みがきてしまうのではないか……。



そんな事を考えていると、先程の大神官が本殿に入ってきた。


ついに始まるのか。




ギィ……と大きな扉が開き、その先にリディアが立っているのが見えた。


真っ白な細身のドレスが、眩しいくらいに輝いている。

長い髪の毛はまとめられているらしく、元々の小さい顔がさらに小さく見えた。

美しい金の髪色に真っ白な肌、クリッと大きな瞳がこちらに向けられる。



あまりの美しさに身体が硬直したのがわかった。


後ろから湧き上がった歓声も、どこか遠くから聞こえてきているようだ。



「おおお巫女様だ!!」

「本物だ!!なんという美しさだ!!」

「巫女様!!」



巫女?……いや。女神の間違いではないのか?



美しいリディアから目が離せない。

すると、リディアの異変に気がついた。


歩き出すことなく、ずっと立ち尽くしている。

気のせいか、顔がいつもよりさらに白くなっているように見える。



「リディア……大丈夫か?」



隣に座っていたエリックも気づいたらしい。

心配そうにリディアを見つめている。



「緊張……しているのかな。動けないみたいだ」



手を差し伸べてあげたいが、何もできない自分がもどかしい。

ここで見ている事しかできないとは。



その時、たしかにリディアと目が合った気がした。

大きな瞳が一瞬だけパッチリ開かれた……気がする。


その後、だんだんと落ち着きを取り戻したらしいリディアは、優しく微笑みながら歩き出した。

また後ろから大きな歓声が湧き起こる。



良かった。

これで中央に立ち、大神官から紹介されるのを黙って聞いているだけ……



ガタァン!!!



突然歓声がピタリと止むほどの、大きな立ち上がる音がした。


皆が音のした方を振り向いた時には、すでに1人の男とマントを着た10歳くらいの男の子がリディアの近くまで迫っていた。


リディアに触れる前に、会場警備をしていた騎士団に取り押さえられる。

会場中から悲鳴や罵倒が響き渡ったが、取り押さえられた男性の声にまた皆が黙った。



「巫女様!!お願いいたします!!お助けくださいませ!!

この病を、治してくださいませ!!」


「巫女様!!お願いいたします!!」



男の子の声も一緒に響き渡る。



……なんだ?病だって?



皆の視線が2人に注がれる。

押さえつけられていた子どものマントから腕が見えた時、周りから驚きの悲鳴が上がった。


大きな赤いボツボツしたモノが腕中にできていたのだ。


取り押さえていた騎士が、一瞬子どもから手を離しそうになったくらい異様な光景だった。



「まだ巫女様のご紹介もしていないというのに、なんという無礼な言動!!

すぐにこの者たちを本殿から追い出……」



年老いた神官が声を荒げたが、鈴を転がすような声がそれを遮った。



「待ってください!!」



リディアが両手を広げて子どもを庇うように神官の前に立ち塞がった。

会場中からザワザワとした声が広がっていく。



「リディア!?」



俺とエリックがほぼ同時にそう叫んでいた。

だがリディアはこちらを見る事はなく、真っ直ぐに年老いた神官と大神官の方に視線を向けている。



「巫女様!!危険です!!

感染する病かもしれません!!離れてください!」



年老いた神官がそう叫ぶと、周りから恐怖の悲鳴が上がった。

席を立ち、帰ろうとする者が続出した。

俺とエリックはリディアの側に行こうと立ち上がったところで、またリディアが叫んだ。



「大丈夫です!!この病は人から感染しません!!

12歳以上の大人にもかかりません!!」



その言葉を聞き、慌てふためいていた人々の動きがピタリと止まった。

皆が恐る恐るリディアの方に視線を向ける。


堂々と真っ直ぐな瞳で立っている女神のようなリディアの姿を見て、だんだんと落ち着きを取り戻しているようだ。



「巫女様がああ言っているぞ」

「巫女様が言うのであれば、きっと本当に大丈夫なはずだ」

「見たこともない病だが、巫女様は一目見てあの病が何かわかったみたいだぞ」

「さすがは巫女様だ」



周りは崇拝するようにリディアを見つめている。

つい先程までリディアと一緒にいた俺でさえ、リディアの姿が神々しく見える。



リディア……君って人は、本当にすごい人だ……!!


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