82 巫女として登場します!
「でーーきた!!どう!?」
サラが私の髪の毛をアレンジし始めて15分も経ってはいないだろうか……?
私は鏡の中の自分を見てポカーーンとしていた。
正確に言うと、アレンジ途中からサラの手の動きに魅せられていたのだが。
左右どちらからも丁寧に編み込まれていて、後ろでキレイにまとめられている。
一体どうやったらこのロングヘアをここまでピシッとまとめられるのか、不思議でしょうがない。
転生前は美容師だった……というのは、どうやら本当のようだ。
得意気に私を見下ろしてくるサラを素直に褒めるのは気が進まないが、これは認めるしかないだろう。
「すごいですね……。正直、驚きました」
「でしょ!?まぁ貴女のその顔のおかげっていうのもあるけどね!
顔の作りもいいし、頭の形もいいし、髪の質もいいとなったら多少のアレンジでも良く見えるわよ」
サラは少し恨めしいような目で私を見た後、軽食が置いてある場所に向かって歩いて行った。
えええ!?
サラが謙遜したぁ!?しかも、リディアの事まで褒めてるし!!
どうしたサラ!!!?
この部屋に入ってからずっと違和感は感じていたが、確信したわ!!
今日のサラはやっぱりどこかおかしい!!
その後はサラと軽食を食べながら話をしたが、私が転生者である事や兄達が私に優しい事などを追及される事はなかった。
ただくだらない話をしているだけだ。
……サラってば、一体どうしちゃったの?
あのサラと普通に会話しながら過ごせるなんて、思っていなかったわ……。
祭祀まであと30分となり、部屋に飾られていた純白のマーメイドドレスを着てみることにした。
舞踏会とは違い、コルセットは使わない上宝石などもないため、すぐに着れるだろう。
それにしても、巫女のドレスがマーメイドドレスとはなぁ。
身体のラインが出ちゃうから、転生前の私だったら絶対に着れなかったわね。
リディアは細いしスタイルもいいし、問題なく着れそうで良かったわ。
純白のドレスがまるでウエディングドレスみたいだと思った。
サラはドレスを着せたりするのに憧れていたの?と聞きたくなるほどテンションが上がっている。
「ほら!早く着てみるわよ!
背中の部分はコルセットみたいに紐で調整できるようになってるわ。
目一杯ギューッと引き締めてあげるわね?」
私の方を見て、にや〜と悪役令嬢ばりの悪い笑みを浮かべたサラ。
彼女がリディアに転生していたら、それはそれは立派な悪役令嬢となった事だろう……と思わずにはいられない。
「……お手柔らかにお願いするわ」
嫌味なことを言っていたくせに、ドレスが汚れないよう気を遣い丁寧に着せてくれる。
背中部分の紐も、苦しすぎず緩すぎずの丁度良いキツさだ。
正直、サラが侍女をやると申し出てくれた時には何も期待していなかった。
まさかここまで侍女としての仕事をこなしてくれるなんてね。
しかも完璧にこなしているし。
あっ!!もしかして、信用させて最後の最後に何かするつもりとか!?
思わず疑いのある視線をサラに送ってしまう。
「……なによ、その目は。
どうせ何か変なことをされるとか疑ってるんでしょ?」
サラがドレスの裾を整えながら、ジロッと軽く睨んでくる。
「……髪の毛引っ張られるくらいはされるかと思っていましたわ」
「あははっ!どんな悪役令嬢なのよそれ!
そんな事しないわよ。まったく失礼ね!
……さっ、出来たわ!!
うん。なかなか良いんじゃない?私天才ね!」
「……ありがとう」
「あら。お礼なら、エリック様に言っていただきたいわ。
今回のご褒美として、何してもらおうかしら」
サラは「ふーー疲れた!」と言ってまた椅子に座った。
……もっと褒め称えろとかうるさく言われると思ったのに、あっさり!!
今日のサラはやっぱり変すぎない!?
もしかして、本当に改心したのかしら?
ここが神殿だから大人しくしているだけ?
それとも、何か企んでいるのかしら……?
そんな事を考えていると、神官が迎えに来た。
「巫女様。お迎えにあがりました」
「はい」
私が返事をすると同時に、サラは立ち上がって私の隣に立った。
「では参りましょうか!」
サラがそう言って歩きだそうとした時、神官が右手を前に出してサラを止めた。
サラは驚いて、数歩後ろに下がった。
「な、なんですか?」
「貴女は一緒には行けません」
「えっ!?何故ですか?私、リディア様の侍女ですよ?」
「だからです。
侍女のような姿で、本殿の中には入れません」
神官は冷たい氷のような眼差しでサラを見ている。
そのあまりにも張りつめた空気に、ゾワッと寒気がした。
サラも口をパクパクさせながらも何も文句は言わずにいる。
この神官の威圧感に完全に負けている。
こわっ!!この神官、大人しそうな顔してこわい!!
あのサラが圧倒されるなんて!
ここは言うことを聞くしかなさそうね……。
まさかサラは本殿には入れないなんて、ちょっと可哀想だけど。
せっかくここまで来たのに、侍女の役目をやるだけになってしまったサラに対して、罪悪感を抱いてしまった。
サラはすごく不満そうな顔をしたまま、部屋に残った。
私は神官に案内されて、本殿へと向かう。
さっき歩いた通路を静かに歩いていると、どんどん自分の心臓の音が早くなってくるのを感じた。
先程までは一緒にいたサラに気を取られていたから忘れてたけど……これから私、大勢の人の前に立つんだったわ!!
どどどどうしよう!!き、緊張してきた……!!
罪悪感を感じていたはずのサラの事は、もうすっかり頭から離れていた。
だ、大丈夫!!大丈夫!!
巫女は神秘的な存在だから、逆に何も話すなって言われているし!
ただ本殿に入って、中央に行って、大神官に巫女だと紹介されている間軽く微笑みながら立ってればいいだけ!!
エリックから言われていた流れを、何度も頭の中でイメージしてみる。
大丈夫!!大丈夫!!
「こちらです」
「ひゃあっ!!……あっ、はい」
集中しすぎていて、突然の神官からの声かけに変な声を出してしまった。
気づけば、目の前には巫女の部屋の扉とは比べ物にならないくらい、さらに大きな扉がある。
ここが本殿……!!
神官が扉をコツコツコツと軽く叩くと、中から両面開きの扉が開いた。
その先にあったのは、想像以上に広く大きな本殿。
そしてその中を埋め尽くすほどの人の数!!
リディアの姿が見えた途端、わぁっ!!と大きな歓声が上がった。
中には立ち上がって見ようとする者が続出して、神官達が諫めている。
な、な、な、なんなのよ!!この人の多さは!!
ここはコンサート会場か!?
あ。やばい。足が震える……。
どうしよう……!!
あまりの迫力と熱気に、一歩も動けなくなってしまった。
私が立つべき場所の近くに、痩せたサンタのような大神官が立っている。
ニコニコしているが、早く来いよ!と言われているようなオーラを感じる。
大神官の前には、ルイード皇子やエリックが座っているのが見えた。
最前列の席に座っている。
不思議と、2人を見たら緊張が薄れてきた。
きっと、ルイード皇子が心配でたまらないといった顔をしていたからだろうか。
自分より不安そうな人を見ると何故か落ち着いてくる原理……。
でも、ありがとう!!皇子!!
足の震えも止まっていたので、私は背筋を伸ばして本殿の中へと歩き出した。




