77 推しアイドルのルイード皇子は私が守ります
朝からサラとの軽いバトルを繰り広げた私は、もうすでにHPが半分は減っていた。
今日もまた1日馬車に乗っているだけだと思うと、さらに憂鬱になってくる。
この小説の世界、ちょっとおかしいわよね?
オートロックがあるなら、車くらいあってもいいのに。
むしろ魔法のある世界にして、一瞬にしてグリモールに到着!!とか出来たらなぁ……。
疲れすぎて、ついそんな事ばかり考えてしまう。
一足先に馬車に乗ってのんびりしていた私は、ルイード皇子が乗り込んでくる瞬間まで昨夜のことを忘れていた。
馬車の扉が開き、頬を赤く染めたルイード皇子が乗り込んできた。
いつもなら目を合わせて微笑んでくれる皇子が、私から目を逸らしている。
嫌味な感じではなく、照れて気まずいといった様子だ。
……あ!!!
そういえば、ルイード皇子とは昨夜中途半端なままさよならしていたんだった!!
密会していたら親が現れて、無理やり連れ戻されたーーっていうカップル状態のままだった!
私はもうすっかり何も気にしてはいないんだけど……この皇子の様子だと、まだ少し気にしているみたいね?
なんだろう……。
この照れ屋なルイード皇子を見ていると、中学生の頃の甘く切ない恋心を思い出すというか、初恋という言葉が浮かんでくるというか。
なんだか甘酸っぱい青春の香りが漂ってるわ!!
胸がムズムズして居た堪れない。
そんな馬車内の空気に耐えきれず、目の前に座ったまま窓の外を眺めている皇子に声をかける。
「ルイード様。昨夜はご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした。
あの後ゆっくりと寝られましたか?」
「え?いや……迷惑だなんて。
俺の方こそ、その……ごめん」
突然話を振られてビクッとしたルイード皇子は、優しい口調で謝り返してきた。
頬はまだ赤く、目は下をむいたままだ。
「……?何故ルイード様が謝られるのですか?」
「それは……君の許可もなく、勝手に頬に触れようとしてしまったから……」
ルイード皇子は何かごにょごにょと言っていたが、馬車の走る音がうるさくて聞こえなかった。
何を気にしているのかはわからないが、昨夜私が訪ねてしまったせいで皇子が戸惑っているのは確かだろう。
皇子は何も悪くないのに……。
なんだかとても申し訳ない気持ちになり、気づけば皇子の手を両手で握りしめていた。
優しく包むようにぎゅっと握ると、ルイード皇子は「えっ!?」ととても驚いていた。
私はにっこり微笑みながら、皇子に言った。
「ルイード様は、謝られるような事は何もされていませんわ。
突然伺ってしまった私が悪いだけですから。
何も気にしないでくださいね」
皇子は最初戸惑った様子だったが、私の言葉を聞いて安心したのかいつもの爽やか皇子スマイルが炸裂した。
頬を赤くしながらのはにかみ笑顔、可愛いさ100点満点!!
朝日よりも眩しいわっ!!
この人もしかして、リディアよりも天使なんじゃないかしら!?
ピュア皇子!!ピュア天使!!
脳内にいる私が、完全なるオタクとして皇子にウチワとペンライトを振っているわ!!
至近距離からの皇子スマイル、最高の癒しです!!
ルイード皇子の笑顔に癒されていると、馬車の周りを囲んでいる騎馬隊がザワザワしてきた。
数人の騎士の声がうっすらと聞こえてくる。
どうやら、「この馬車には近づいてはいけない」というような事を言っているようだ。
誰か近づこうとしてきた人でもいるのかしら?
思わずルイード皇子と無言のまま目を合わせ、2人で窓の外を覗いてみる。
この国の服とは少し違う、変わった服装をした男性7人くらいが遠まきからこの馬車を見ていた。
注意されていたのは、あの人達かしら?
あの服装、もしかして異国の人?
特に武器などを持っているようには見えないので、この馬車を襲おうとしてるとかではないみたい。
ただひたすらこの馬車を見て、笑顔でソワソワしている。
まるでアイドルの出待ちをしているファンのようだ。
……はっ!!
もしかして、ルイード皇子のファン!?
これだけ可愛い顔してるんだもの。
異国の男性に人気だとしても不思議じゃないわ!!
でも最近まで社交界にも顔をあまり出していなかったルイード皇子の事、異国の人が知ってる訳ないか。
じゃああの人達は何なのだろう?
ルイード皇子を見ると、眉間にシワを寄せて、異国の男性達をずっと目で追っていた。
膝の上に置かれた両手は、強く握りしめられている。
皇子がこんな顔をするなんて……!!
あの人達、何か危険なのかしら!?
異国の人に狙われる理由なんてわからないけど、王族ならありえない事じゃないわよね。
「ルイード様!!もう少しこちら側に座ってください!!
窓の外から見えないように……。
あっ!!窓にカーテンしますか!?
そうしましょう!!」
ルイード皇子が狙われているのであれば、なんとしても守らないと!!
1人であわあわ動いていると、異国の男達から目を離した皇子がパシッと私の腕を掴んだ。
「あっ……ごめん。その、俺は大丈夫だから!
それより、リディアこそもう少し窓から離れた場所に座って」
カーテンで窓を隠そうとしていた私は、手を止めてとりあえず皇子の言う通りにした。
先程座っていた場所から少し横に移動しただけだが。
ていうか、私が移動してどうするのよ?
狙われてるのは私じゃなくて皇子なのに!
あの異国の人達がルイード皇子を一目見ようと近づいてきたのだとしたら、皇子が外から見えないように隠した方がいいじゃない。
「ルイード様こそ、もっと窓から離れてくださいませ」
「あ、ああ……」
私がそう言うと、皇子は素直に移動してくれた。
この位置ならば、外に立っている人からは皇子の顔が見えないから安心ね。
こういった心配があったから、この馬車の周りにはこんなに騎士がたくさんいるのかしら。
そのせいで、この馬車には皇子が乗っていると宣言しているようなものなんだけど……。
「馬車を替えて騎士を減らした方が、ルイード様が乗っている事を悟られないのではないでしょうか?」
「そうなのだが、万が一存在に気づかれた場合に、騎士が少ないと守りきれないだろう……。
それならば周りを騎士で固め、丈夫な王宮の馬車に乗っている方が安全なんだ」
なるほど。
どこから情報が漏れるかもわからないし、やっぱり軽装備の馬車での移動は危険か。
チラッと皇子を見ると、窓の外を気にしてソワソワしているようだった。
時折すごく心配そうな顔をして、私を見てくる。
……なんだか自分の心配をしているというより、私の心配をしているようなのよね。
狙われてるのが自分なのだから、自分の心配をすればいいのに……。
私も巻き込まれたらどうしようっていう心配?
それとも……まさか……
私が狙われてる……んじゃないわよね?まさかね。
誤字脱字報告ありがとうございます。
活動報告にもお礼を書かせていただきました。




