74 こんな漫画みたいなハプニングあります!?
エリックから祭祀の話を聞いてから、1ヶ月。
あっという間に祭祀まであと3日となりました。
ガタガタガタ
私は今、馬車に乗ってグリモールを目指しています。
窓の外を見ると、夕陽に染められた街の景色がとてもキレイに流れていきます。
なんて美しいのでしょう。
でも、馬車の周りを囲っている屈強な騎馬隊のせいで、その景色も台無しなんだけどね!
バッチリ武装した騎士達に、街の人達も何事かと集まってきているわ。
一体この馬車にはどんな重要人物が乗っているのか……ってね!
これだけの騎馬隊に守られているのは、馬車に乗っているのがこの私!美少女巫女様!!……だからではないわ!!
私は目の前に座る人物に視線を向けた。
銀の入った薄いブルーの髪、クリッとした宝石のように輝くネイビーの瞳、アイドルのように可愛い顔をした、第2皇子ルイード様が優雅に座っている。
私と目が合うと、にこっと春の風の如し爽やかな笑みをむけてきた。
ルイード皇子!!今日もファンサービス絶好調!!
その笑顔のポスターを部屋の壁に貼って、毎日拝みたいくらい尊いわ!!
今回の祭祀に、王宮からはルイード皇子が代表として参加される事になったのだ。
私の婚約者だからという、陛下の計らいもありそうだが。
私も巫女として招待された側という事もあり、なんと王宮の馬車に一緒に乗せてもらっている。
そのため、これだけの騎士達に囲まれているという訳だ。
さすが王宮の馬車とあって、椅子もふかふかで気持ちいいのよね!
ラッキーだったわ!
エリックやサラも後ろから一緒に来ている。
サラはエリックと同じ馬車に乗りたい!と騒いでいたが、執事のアースが上手く言いくるめて違う馬車に詰め込んでいた。
2人の距離が近づかれては困るから、私としても助かったわ!
アース!グッジョブ!!
「……今日はここまでのようだね。
この街のホテルに泊まる事にしたみたいだ」
「え?あ……本当だわ」
窓の外を見ると、この街で1番高級そうなホテルの前に停まっていた。
騎馬隊の騎士や、一緒に来ているメイド達も全員が余裕で泊まれるほどの大きいホテルだ。
さすが皇子様がいるとなると、泊まるホテルもすごいわね……!!
私、エリック、ルイード皇子、サラは上階にある上級貴族専用の部屋に案内された。
もちろん、1人1部屋だ。
本来なら王族であるルイード皇子は最上階にあるVIPルームに泊まれるのだが、何故か本人が拒否していた。
ふかふかの椅子とはいえ、1日馬車に揺られていたのだから腰が痛くて限界だったのよね。
ゆっくりベッドで寝られるのって有難いわ……。
お風呂や寝る前の支度など、全て終わらせた後にメイド達は自分の部屋へと戻って行った。
メイドや騎士など、それぞれの役職によって泊まる部屋の階が違うらしい。
1人になり、やっと眠れる……となった瞬間、何故か目がパッチリ覚めてしまった。
あるあるよね……。
すごく眠かったのに、ベッドに入った瞬間目が覚めちゃうやつ……。
むくっと起き上がり、ストールを巻いて部屋の中をウロウロ歩いてみる。
知らない街を1人で散歩するわけにはいかないし、とりあえず部屋を歩き回って見たんだけど……なんの意味もないわね。
でも外に出るのは気が引けるし……。
どうしようかな。
気分転換に、部屋から出たいんだけどなぁーー。
んーーーー……。あっ!!!
そういえば、この階の廊下にすごく大きな絵が飾ってあったわよね!?
部屋に案内されている途中で、チラッと見た大きな絵画を思い出した。
ホテルの外には出れなくとも、この階の廊下に出るくらいならいいだろう。
私の部屋のすぐ近くだったし、大丈夫よね?
静かにドアを開けて、廊下に出た。誰もいない。
すぐ隣の壁に掛かっていた絵画を見てみると、色鮮やかな花畑の絵が描かれていた。
美しい色彩に、心が癒されていく。
絵画に興味はない方だが、素晴らしい絵というものは無知の人間にも感動を与えられるのだ。
なんてキレイなんだろう……。
しばらく見入った後、少し眠気が襲ってきたので部屋に戻ることにした。
ガチャ!!
ドアが開かない。鍵がかかっているようだ。
……まさか、そんな。
鍵なんて閉めていないぞ?
この世界で、オートロックなんてないわよね?
ガチャ!!
ガチャガチャガチャ!!!
ウソだろぉぉーーーーーー!!!
開かないんですけどぉーーーー!!
え!?オートロックなの!?
このホテル、オートロックなの!?
この世界にオートロックがあるの!?なんで!?
いや。今はこの世界にオートロックがあるかどうかは問題じゃないっ!
私が部屋に入れないって事が問題なのよ!!
あまりの事態に一瞬思考が停止する。
まさか異世界でこんなドジやらかすとは。
ど、どうしよう!?
メイド達の部屋に……って、彼女達がどこの階のどの部屋なのかわからないわ!!
こんな寝巻き姿でホテルのフロントに行くなんて……侯爵令嬢として、絶対にできないし。
あとは、同じ階にいるエリックに助けを求めるしかないけど、エリックの部屋もわからないのよね!!
上級貴族専用の階は、全部で5部屋あった。
安全性を考慮して全ての部屋を王宮名義で借りているから、全く知らない人の部屋を訪ねるという心配はない。
さて。その5部屋のうちどれがエリックの部屋なのだろうか。
1つは私の部屋なので消去。
確率は4分の1ね!
間違えてサラの部屋を選んでしまったとしても、そこは女同士だし特に問題ないわ。
空室を選んでも、もちろん問題なし。
大問題なのは、ルイード皇子の部屋を選んでしまった場合ね!!
こんな時間に寝巻き姿で訪ねていったら、夜這いだと勘違いされてもおかしくないわ!!
それだけは、なんとしても避けないと!
5つの部屋の前を行ったり来たりしてみるが、もちろんどこが誰の部屋なのかわかるはずもない。
えーーーーい!!行ってみるしかない!!
エリックは私の兄なんだから、きっと私の隣の部屋に決まってるわ!!
右と左があるけどーー……うーーーーん。
左!!きっと左の部屋がエリックだわ!!うん!!
コンコンコン
「あの……リディアです」
突然のノックにドアを開けはしないだろうと思い、同時に名乗ってみた。
ガタッという物音が聞こえたあと、ゆっくりとドアが開けられた。
「…………え!?リディア……!?」
すごく驚きながらも顔を赤く染めたルイード皇子が、ドアの隙間から顔を出した。
やべぇ。1番選んじゃいけない部屋選んでしまったわ。




