73 イケメンならば不法侵入も許しましょう
サラを侍女にするなんて……絶対に嫌!!
それなら侍女なしで行った方がマシだわ!!
「サラ様のお気持ちはとても嬉しいですが、やはりエリックお兄様の婚約者様に私の侍女をしていただくなんて、申し訳ないですわ」
秘儀!!相手を敬う言い方をして、遠回しに断る社会人作戦よ!!
「あら!そんな事気にしないでください〜!
私とリディア様の仲ではないですか〜」
どんな仲だよ!!
あんた、ついこの前王宮でブチギレしとったやん!!
私の遠回しな断固拒否に気づいているのかいないのか、サラも全く折れる気がなさそうだ。
ずっとニコニコしている姿は、小説の主人公のイメージそのものだ。
エリックの前だからか、今日は素の姿を完璧に隠しているわね!
「そうは言いましても、私も気にしてしまいますし。
侍女がいなくても大丈夫です」
サラでは話にならないので、隣に座っているエリックに向かってそう伝えた。
大丈夫よ!!だからエリックから断って!!
そんな私の無言の訴えは、あっさりと打破された。
「祭祀で巫女が着る衣装は神殿で用意されるんだ。
リディア1人では着れないだろう?
神官は男しかいないし、侍女なしでは無理だ」
ええぇーーーー!!
家から衣装を着て行けないの!?
普通の服なら何も問題はないけど、この世界のドレスって複雑だもの。
絶対1人じゃ着れないわ……。
かと言って、他に頼めるような侯爵令嬢の知り合いもいないし。
ほ、本当にサラに頼むしかないわけ!?
「ねっ?だから私が侍女になれば問題ないんですよ〜!
私に遠慮する必要もありませんし!
だって私達、いつかは姉妹になるのですから」
サラが一瞬だけ悪魔のような黒い笑みを浮かべたのを、私は見逃さなかった。
ひぃぃぃぃ!!怖い!!
『いつかは姉妹になるのですから』のところ、すごく圧を感じたんですけど!!
まさか私の、エリックとの結婚ぶち壊してやんよ作戦がバレてるわけじゃないわよね……?
逃げたい……けど、逃げられない。
ここは覚悟するしかない。
神官たちのいる神殿でおかしな事もできないだろうし、大丈夫よね?
「わ、わかりました……。
サラ様、よろしくお願いしますわ……」
私のその言葉を聞くと、サラはにーーっこりと怪しい笑みを浮かべていた……。
何でこうなるのよーーーー。
「えっ!?グリモールに行くんですか!?」
騎士の訓練を終えて戻ってきたイクスに、先程の話をした。
部屋には私とイクスの2人だけだ。
あまりにも絶好のタイミング過ぎて、イクスもかなり驚いている。
「どうやってグリモールに行こうかと悩んでいたところで、そんなお話がくるなんて……。
さすが、リディア様は本物の巫女様ですね!!
神をも味方につけているようです」
クールなイクスが、目を輝かせながら見つめてくる。
主人公でもないのに、まるで主人公パワーが炸裂したかのような眩しさだ。
うわっ!!イケメン!!眩しいっ!!……じゃなくて、もう巫女様扱いかよ!
順応早いな!!
というか、巫女のことを考えるとどうしてもサラが頭に浮かんで、気分が落ち込んでしまうのよね。
イクスにはまだサラの同行については伝えていなかった。
しれっと『巫女』から話を逸らして、ワムル探しの話に切り替えましょう!
「とりあえずグリモールに行ける事にはなったけど、どうする?
どうやってドグラス子爵邸を調べるつもり?」
「そうですね……。祭祀か……」
話逸らし作戦は成功したらしい。
真顔に戻ったイクスは、ブツブツ言いながら真剣に考え出した。
少し険しい顔で考察してる姿も、イケメンね……!!
目の保養だわ。
容姿端麗な上に頭も切れるし、さすがは私の護衛騎士ね!
自慢の護衛騎士に見惚れていると、何かが閃いたらしい彼はとても真っ直ぐな瞳で私に提案してきた。
「そうですよ。祭祀の日!!
祭祀は貴族の方しか参列できません。
もちろん、ドグラス子爵も家族と参列するはずです!
まさかそんな日に窃盗団をこの街に呼ぶこともないでしょうし、子爵邸の別棟に近づくチャンスですよ。
祭祀の最中、俺がドグラス子爵邸に侵入します!!」
うわぁーーーー。
堂々と貴族邸に侵入すると申しておりますよーー。
しかもお祝い事である祭祀の日に実行するとは、なんという事でしょう。
イクスのあまりにも堂々とした晴れやかな姿に、何か素晴らしい事を言っているのではと勘違いしそうになる。
けど、今この人は不法侵入しよう!って話をしているのよね?
騎士がそんな事言っていいのか?
相手がクズだから大丈夫なのか?
不正を暴くための正義ある行動……的な?
あまり大きな声で賛成できる内容ではないが、やっぱりそれしかないだろうな。
実は私もそんな考えはチラついていたのだけど……。
「でももし見つかったらどうするの?
私と一緒に堂々とドグラス子爵邸に入ってから、イクスだけこっそり抜け出して……とかは無理かしら?」
「それも見つかる可能性ありますよ。
それならば、ドグラス子爵がいる状態で抜け出すよりもいない日に入り込んだ方がいいです!
それに、俺は絶対に見つからないから大丈夫です!」
どこからくるのよその自信はぁーーーー!?
でも、確かに現状ドグラス子爵邸に行く理由すらないのだから、私の作戦では無理なのかも。
イクスの言う通り、こっそり入っちゃった方が確実なのかしら!?
でももし見つかったら大変じゃない!!
イクスはよほど自信があるのか、笑顔のまま私をジッと見つめてくる。
まるで信じて欲しいって訴えてきているみたい。
うぅーーーーーーん。
危険だけど、イクスなら上手くやってくれるわよね!?
「わかったわ。ワムル探しは、イクスに任せるわね!」
「はい!お任せください!」
イクスは嬉しそうに返事をした。
出会った頃に比べて、本当に明るくなったわね……。
それにしても、祭祀の日はサラと2人で神殿に行かなきゃいけないし。
巫女として祭祀に参列しなきゃいけないし。
イクスの侵入が上手くいくか心配だし。
なんだか不安しかないわね……。はぁ。




