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悪役令嬢に転生したはずが、主人公よりも溺愛されてるみたいです[web版]  作者: 菜々@12/15『不可ヒロ』1巻発売
本編

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68 大根役者ですが笑わないでください


しばらくすると、先程のヒョロっとした男性が戻ってきた。

後ろにはもう1人メイドの格好をした女性が立っていて、商品を持たされている。

もちろん仮面をつけているので顔はわからない。


目の前のテーブルに、見た事のないような輝きを放つピンク色の宝石がついたネックレスと、黄金色の液体が入った香水の瓶のような物が置かれた。



この液体が万薬ね!!


すぐにでも万薬について質問攻めしたい……けど、15歳の少女が宝石よりも薬に興味を示すのはおかしいだろう。

我慢よ我慢!!


とりあえずは宝石の方に反応を示してみた。



「まぁ!!なんて美しい宝石なの。

普通のピンクダイヤモンドとはまた違うような……?」


「流石でございますね!!

こちら、ピンクダイヤモンドではないのです。

それよりもっと希少で、なかなか世に出回る事のないアルメリラという宝石です」



ヒョロ男性が嬉しそうに説明してくれる。



アルメリラ??聞いた事ないわね。

この世界独自の宝石なのかしら?


そんな希少な宝石、一体いくらするのか……。

値段を聞く必要もなさそうね。リディアのお小遣いで買える訳ないわ。



「そうなのね。キラキラしていてとても綺麗だわ。

でもとても私だけでは買えそうにないわね。


……こちらの瓶は、病によく効くという薬かしら?」



宝石は買えないから薬の方に興味を移しました〜って流れにしてみたけど、不自然じゃなかったかな?


チラッと左隣に座っているイクスを見てみたら、私から顔を背けて肩を震わせていた。



……不自然だったみたいね。

もう少し宝石の話をしてた方が良かった?

それとも、私の大根演技に笑っているのかしら。

あーーでも今さらもう遅いわよね!仕方ない!


とりあえず、いつまでも笑いを堪えているイクスの足をギュッとつねっておいた。



私の不自然な流れを感じたのかはわからないが、ヒョロ男性は一切態度には出さずに笑顔のまま答えてくれた。



「はい!とても人気の商品でして、毎月必ず売り切れてしまうのですよ。はは」



さすがは貴族相手の商売人ね!宝石をゴリ押しとかはしてこないみたい。

あっさりと万薬の話に移ってくれたわ。



「毎月売り切れてしまうなんて、すごいのね。

もう何年も取り扱っている薬なの?」


「いえいえ。この薬はまだ取り扱って半年ほどでございます」


「効果が出るかわからないのに、みんな買うなんて不思議ね」


「普通の薬ならばそうでしょう。

ですが、これは隣国でもなかなか手に入らないあの万薬なのですよ」



ヒョロ男性がニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。



やっぱり!!これは間違いなく万薬なのね!


万薬はもう闇市場で売られていた。しかも半年も前から!

この男からもっと情報を取らなければ。



「万薬って、隣国の門外不出の薬よね?

なぜこの国にあるの?」



私の言葉を聞いて、男性だけではなくJまでもがふっと笑った。

2人とも、何を当たり前の事を聞いているのかと言わんばかりの雰囲気だ。



……なんだかイラッとするわね。



「この国にあるべき物ではないから、闇市場(ここ)で売られているのですよ」



いけない事をしているはずなのに、男性からは罪悪感といったものは一切感じられない。

はっきりと『密輸』という言葉は使っていないけど、ここまで堂々とした態度のまま言うなんて……なんて男なのかしら!



「普通のお店で買えるような物は闇市場(ここ)では取り扱っていないよ!」



Jも私に説明してくる。



お前は黙ってろ!!

そんな事は私だってわかってんのよーー!!


このヒョロ男から『密輸』って言葉を聞きたかっただけなのに!

2人から無知扱いされると腹立つわ!!


その時、隣にいたイクスが口を出してきた。



「それって、隣国にはバレないように密輸している……って事ですか?」



イクスーーーー!!

おまっ……お前!!直球かよ!!

もっと変化球投げられる子だと思っていたのにどうした!?



イクスからの質問に、ヒョロ男性は苦笑いをしながら回答を拒否した。



「その件につきましては、私の口からははっきりとお答えすることができかねます。

申し訳ございません」



さすがに答えてはくれないわね。

まぁ許容範囲だわ!



「これが噂の万薬なのね。

毎月、万薬はどのくらい入ってくるのかしら?」


「その月によって違いますが、3〜5つくらいでしょうか。

今回は珍しく7つも入ってきましたよ!」


「そう。こちらはおいくらかしら?」



値段の話になると、途端にヒョロ男性の目がギラリと光った気がした。



「こちら、1つ20万カクールでございます」



20万!?


この小説を書いたのが日本人作家だったからか、小説の中と現代の価格はほぼ同じくらいの価値だった。

円をカクールっていう通貨に変えているだけだ。


つまり、この薬1瓶が20万円ってことだ。



20万円の薬って、どんだけよ!!!

魔法のポーションのように確実に治るならともかく、そこまでの効果はないわよね?


万薬についての詳しい情報はなかったけど、もしかして本当にすごい薬なのかしら!?

でもそれにしたって高すぎるわ!!



思わずドン引きしたのが顔に出ていたのか、隣に座っているイクスがトン!と腕で軽く小突いてきた。



はっ!!

今の私は貴族令嬢!!20万でドン引きしちゃダメよ!!

Jに支払う情報料として、お金は多めに持って来ているしとりあえず買っちゃいましょう!



金貨1枚が10万カクール、銀貨1枚1万カクールだったわよね?


私は金貨2枚をテーブルの上に置いた。



「こちら、頂くわ」


「ありがとうございます!」



ヒョロ男性はにっこりと笑い、深々とお辞儀をした。



運良く万薬を買えて良かったわ。

そんな物取り扱っていない!なんてウソをつかれる可能性もあるから、証拠品として持ち帰らせていただくわね。


心の中に嫌味を含みながら、私もヒョロ男性ににっこりと笑みを返す。



ずっと黙って私達のやり取りを見守っていたJが、うーーんと身体を伸ばしながら声をかけてきた。



「もう、いいのかい?じゃあ帰りますか〜!」



席を立ち、Jの後に続いて部屋から出ようとした所で、誰かに髪を触られた感触がした。

相手が誰なのかわからなかったが、何故かその瞬間にゾワッと全身鳥肌が立つくらいの悪寒が走った。



な、なに!?誰!?



勢いよく振り向くと、後ろにいたイクスがヒョロ男性の腕を掴んでいた。

どうやら先程私の髪を触ったのはヒョロ男らしい。



「……女性の髪を突然触るなんて無礼ですよ」



イクスが低く威圧感のある声で(たしな)めた。

私の前にいたJは、ため息をつきながら私に黒のマントを掛けてフードまで被せてきた。



ちょ、ちょっと何!?

ウサギの仮面の耳が邪魔で、フードは被れないから!!



何故かJは私の顔を隠そうとしているみたいだ。

2人が邪魔でヒョロ男性の姿は見えないが、苦笑いをしながら話しているであろう男の声は聞こえる。



「申し訳ございません。

髪の毛に埃がついていたので、つい手を伸ばしてしまいました。お許しください」


「……失礼します」


「またのお越しをお待ちしております」



イクスに背中を支えられて、急ぎ足で部屋から出た。

ドアを閉める直前にチラッと見たヒョロ男性の瞳が、じっとりと私を見つめていた気がした。



……なんだか気味が悪いわ。



万薬を握りしめて、少し明るくなり始めている外へと出て行った。



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