65 ウサギの仮面をつけた美少女とイケメンの破壊力よ
急遽、闇市場へ行く事になってしまった。
えぇーーーー。
そういえば闇市場闇市場って普通に言ってたけど、そもそも闇市場って何!?どんな場所!?
よく漫画に出てくるオークション会場のような大きな所なのかしら!?
私、ドレスで着飾ったりもしていないし、全身真っ黒なマント姿だけど行っても平気なの!?
不安しかないんだけど……。
私の心が読めるのか、Jが明るい調子で話してくる。
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ。
しっかりとした対応をしてくれる場所さ!
ただ、顔はもっと隠した方がいいかな。
仮面なんて持ってきてないよね?」
私がフルフルと首を横に振ると、Jは机の引き出しから仮面を2つ取り出した。
「じゃあこれを使っていいよ!」
善意100%の笑顔で差し出してきたのは、Jがつけているのと同じウサギの仮面だった。
イクスはそれを受け取った瞬間に、ペイッと床に投げ捨てた。
「おい。ふざけんな。
もっとマシなの持ってこい」
「え〜ひどいな〜!
可愛いだろ?これ〜!それに他のはないよ!」
イクスの悪人顔の脅しも、Jには全く効いていない。
「いいじゃん!ほら、つけてみなよ〜」
「やめろクソ兎!!」
Jはウサギの仮面を無理矢理イクスにつけようとしているが、ことごとく避けられている。
喧嘩しているようだが、ただイチャイチャしてるカップルのようにしか見えないのは気のせい?
この2人、意外と仲良くなれそうなんだけどな。
イクスがJの事をとにかく嫌っているから、仲良くするのはやっぱり無理かしら。
私はJに渡されたウサギの仮面をつけながら、2人に声をかけた。
「なにやってるのよ!もう!
仮面なんて何でもいいでしょ?早く用意して行きましょ!」
先程までバタバタ暴れていた2人が、私を見た瞬間にピタリと動きを止めた。
ん??なに??
2人はだるまさんが転んだの最中か?と言いたくなるくらい、変なポーズのままで止まっている。
目線はずっと私を見たままだ。
ウサギの仮面をつけたので視界はあまり良くないが、凝視されているのはわかる。
そのうち2人は静かに動き出し、変なポーズから直立態勢になったかと思ったら突然手をガシッと握り合った。
腕相撲をする時のような繋ぎ方だ。
!?
「お前……クソ兎の割にはいい仕事するじゃないか」
いつの間にか闇のオーラが消え去ったらしいイクスは、ムダに爽やかな顔で言った。
「まあな。ウサ耳は男のロマンだからな」
いつも明るい口調のJも、やけに爽やかな顔で答えた。
…………え。なにこの状況?
なぜか突然2人が仲良くなったみたいなんですけど。
男のロマンって何?謎すぎる……。
「全身マントを被るウサ耳の美少女っていうのもいいね〜」
「今までそんな物に興味を持った事はなかったんだが……。
なかなかの破壊力があるものなんだな」
「まぁ君の場合はウサギの仮面だけじゃなくて、特別な気持ちがあるから可愛さ倍増しちゃってるのもあるけどね!」
「……なんで知ってんだ」
「え?隠してるつもりだったの?」
2人でコソコソと何を話しているのか。
今はお互いが驚いた顔をして見つめ合っていた。
「ほら!早く行きましょ!
朝になったら困るわ!!」
私が急かすと、イクスも渋々ウサギの仮面を装着した。
顔の半分が隠れたというのに、それでも顔の良さがわかってしまうのだから元の顔がどれだけいいのか。
と、いうか……。
か、か、可愛いーーーーーー!!!!
イクスのウサ耳姿やば!!可愛いっ!!
「……なんですか?」
私があまりにも凝視しているので、イクスが不思議そうに聞いてきた。
「えっ?いや……イクス、可愛い」
「は?」
「ぶはっ!!」
私の素直な感想を聞いて、Jが大声で笑い転げている。
少し放心状態になっていたイクスは、我に返った後ジロッと軽くJを睨みつけた。
何がそんなにおかしいの?
どう見ても可愛いわよね?変な事は言ってないと思うけど。
「いやぁ〜リディ!君はやっぱりおもしろいね!最高だよ!」
笑い過ぎてお腹が痛いのか、お腹を押さえながらヨロヨロと立ち上がったJは、私の肩に手を置きながらそう言った。
すかさずイクスがその手を払い除けたので、Jはまた床に転がる事になったのだが。
「触るな」
「なんだよ〜…いいじゃないか…くくくっ。
少しくらい……」
Jの笑いのツボがよくわからない。
まだ笑いが止まらないようだ。何がそんなにおもしろいのか。
イクスはずっとJの事を睨み続けてはいるが、この部屋に入ったばかりの時のような怖さは感じない。
「指先だけでもダメだ」
「ケチだなぁ〜」
……なんだか随分仲良くなったわね?
こんなにムキになってるイクスも初めて見た気がするわ。
家ではエリックやカイザに対してはもちろん敬語だし、メイド達ともこんなに言い合ったりなんかしない。
これがイクスの素の姿なのだろうか。
はっ!!
ってこんなのんびりしてる場合じゃなかった!!
「ちょっと!!早く行くわよ!!」
私が1人で先に部屋を飛び出すと、慌てて2人もあとを追ってきた。
いつの間にか1階の飲み屋は閉店していたらしく、店内には先程の綺麗な女性店員さんが1人でお酒を飲んでいるだけだ。
「あら。お帰り?いえ……お出かけ?
行ってらっしゃーーい」
ヒラヒラと手を振ってくれる。
少し照れくさかったが、私も「さよなら」と手を振り返した。
3人してウサギの仮面をつけてお出かけなんて、絶対に怪しいはずなのに。
何も聞かずに笑顔で送り出す女性店員さんは大物だわ……!
外に出ると、来た時よりも暗くなったように感じた。
閉店したお店が増えて、店内の明かりが消えたからか。
「ここからだと少しだけ距離があるんだ。
俺や彼なら走って10分で行けるけど、リディだと30分はかかるかな?」
「そんなに!?」
それもそうか。
闇市場が運良くJのお店の隣にあるはずもない。
こんな深夜に街中で馬車を走らせるわけにもいかないし、走るしかないの!?
途方に暮れかけた時、Jが笑顔で提案してきた。
「俺が抱っこしていけばすぐに行けるよ!」
軽い調子で両手を広げている。
抱っこって……子どもか!!
でも、ここは正直甘えたいところだわ!
20分も時間短縮できる上に、私は楽だし。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
そう言ってJに手を伸ばそうとした瞬間、両太もも辺りをガシッと掴まれて足が地面を離れた。
「わっ!!」
突然持ち上げられてバランスを崩しそうになり、思わず抱きついてしまう。
イクスが私を持ち上げていた。
お姫様抱っこではなく、本当に子どもがパパに抱っこされているかのような抱き上げ方だ。
横抱っこではなく、縦抱っこというやつだ。
お姫様抱っこも恥ずかしいけど、これはこれで顔が近いっ!!
しかも首に抱きつくようにしないと後ろに倒れてしまいそうなので、かなりの密着度だ。
ドキドキしている私とは違い、イクスはまたJを厳しい目で睨みつけていた。
「俺が運ぶから大丈夫だ」
「はいはい。執着する男は嫌われるよ〜?」
「うるさい。黙れ」
なんかまた喧嘩始まってるし……。
イクスってば、さっきからやけにJに突っかかるわね。
Jは笑いながら軽く流している。
怒っている様子も気にしている様子も全くない。
チャラいけど確か20歳のJにとっては、15歳の私や17歳のイクスはまだ子ども扱いって感じね。
「じゃあ行くよ!
キツくなったら交代するからすぐ言ってね!
迷子にならないように、ちゃんとついて来るんだぞ〜!」
「誰に言ってんだクソ兎!」
最後まで言い合いながらも、2人は夜の街を走り出した。




