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悪役令嬢に転生したはずが、主人公よりも溺愛されてるみたいです[web版]  作者: 菜々@12/15『不可ヒロ』1巻発売
本編

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64 イクス!あなたは暗殺者じゃなくて騎士です!


イクスと一緒に抜け道を歩いて行くと、とある一軒家の庭に出た。


コーディアス家の執事の1人が住んでいる家だ。

この抜け道は草木で上手く隠されていて、周りからは見えないようになっている。



これなら、知らない誰かが抜け道を使って屋敷の庭に入り込んでくる事もないわね。



こっそり庭を抜けて、道へ出た。


深夜のため住民達はみんな眠っているのだろう。

真っ暗な民家が並ぶ通りは、人影などなくしーーんと静まりかえっている。 



この暗闇の中、少し先には一部だけ明るくなっている場所があるのが見えた。

この時間でも営業しているようなお店が、その場所に集まっているのだろう。


Jのお店もその中にあるはずだ。



「あっちに行きましょう」



明るい街並みの方を指差しながら振り返ると、後ろに立っていたイクスは1人でブツブツ文句を言っていた。



「こんな暗い中1人で出かけようとしていたなんて……。


しかも会う相手があの時のクソ兎だなんて、リディア様は危機感がなさすぎます……」



私と同じように全身隠れる黒いマントを被っているので、顔がはっきり見える訳ではないが不満顔なのは分かった。

どこか棘のある言い方だったのもあるかもしれない。


イクスの怒りはまだまだ収まってはいないようだ。



この状態でJに会わせて大丈夫なのかしら?

『クソ兎』とか言っているし、喧嘩しないといいんだけど。



イクスの愚痴は聞こえないフリをして先を進んだ。



明るい通りに出ると、まだ営業中のお店が何軒か並んでいる。

全て飲食店のようだ。飲み屋のようなものかな?

外を歩いている人はあまりいない。



歌舞伎町のように外も人がいっぱいで賑わっているのかと思ったけど、そんな事はないみたいね。

……まぁ歌舞伎町の賑わいも私の想像だけで、実際に行った事はないんだけど。



お酒を飲んでいる大人達の賑やかな声が外まで聞こえてくるお店もあれば、人がいるのか?と疑ってしまうほど静かなお店もあった。



「お店の場所や名前はご存知なのですか?」



イクスが周りを警戒しながら聞いてくる。


もしかしてJが突然現れるのではないかと思っているのかしら?

イクスから少しだけピリピリとした空気が漂ってくる。



「正確な場所はわからないの。

ただ、ウサギの形の看板を掲げているっていう事しか……」



小説にもお店の名前は書いていなかった。


リディアがこの街を歩いていたら、ウサギの看板が目につき気になって中に入って行った……としか書いてなかったのよね。


見つけるのに時間がかかるかもしれないわ。


そんな覚悟をした時、イクスが呆れたような声で言った。



「もしかして……あれですか?」


「え?」



イクスの視線の先を見ると、わりと小さいお店にウサギの看板が立てかけられていた。


看板には『ジャック』と書いてある。



「……間違いないわね」



思わず私まで呆れたような顔になってしまった。

まさか、こんなに堂々と名前も出しているなんて……。


自分が兎のジャックだと、隠していないの?

Jは本当に何を考えているのか分からない。



でも思ったよりも早く見つかって良かったわ!



「入りましょう!」



イクスはコクンと頷いた後、私より前に進み先にドアを開けた。

店内に顔だけ少し入れて、中の様子を確認している。


中からは女性の声で「いらっしゃいませ〜」と聞こえてきた。

どうやら普通の飲み屋のようだ。



イクスと一緒に店内へ入り、カウンターに立っている少し色気のある綺麗な女性の元へと進んで行く。


女性はマントを深く被っている私とイクスに少し警戒したようだが、あまり顔には出さない。

ニコニコしたまま「何になさいますか〜?」と聞いてきた。



「Jに会いたいの」


「!!」



私の言葉を聞いて、女性店員さんの顔色が少し変わった。

私の姿をジロジロと見てくる。



「……お約束はしてますか?」


「してないわ。リディ……が来たと伝えて」



女性店員さんはにっこり笑って奥へと消えて行った。



Jが私の事をリディって呼んだのは、この為だったのかしら?

おかげでリディアだと本名を名乗らずに済んだわ。



しばらくして戻ってきた女性店員さんに、2階に上がるように言われた。



……会ってくれるのね!

突然の訪問だから断られる可能性も高いと思っていたけど、良かった!


イクスと顔を見合わせる。

嬉しそうな私と違って、イクスはどこか複雑そうな顔をしていた。



お店の2階には部屋が1つしかなく、ドアが開けっぱなしだった。


ゆっくりと中を覗くと、顔の上半分をウサギの仮面で隠したJがいた。


社長室にあるような豪華な机と椅子が部屋の真ん中に置いてあり、Jは頬杖をつきながら座っている。

部屋は薄暗かったが、Jがニヤニヤ笑っているのはわかった。



「やぁ!久しぶりだね。リディ!

まさかこんなに早く会いに来てくれるとは思わなかったよ」



相変わらず楽しそうな明るい口調だ。

赤い瞳がキラキラ光っている。



「突然ごめんなさい。

会ってくれて嬉しいわ」


「リディなら、誰よりも最優先して会うとも!」



なんともウソっぽい言葉だが、とりあえずスルーしておこう。

Jの言う事にいちいちツッコんでたら、時間がもったいないわ。



「今日来たのは……」



「あれ?無視かい?

そういう所も相変わらずだね、リディは!


ところで後ろの彼は、この前も一緒にいたよね?

怖いからその殺気を弱めてくれると嬉しいんだけどなぁ〜!」



笑顔で明るく言ってのけたJの言葉を聞いて、慌てて振り返ってイクスを見る。


いつの間にかまたドス黒い闇のオーラを纏ったイクスが、Jの事を強く睨みつけていた。



こわぁっ!!!

暗殺者かお前はっ!!


こんな視線を浴びても笑顔でいられるJも、一体どんな鋼の心臓しているのよ!!



「ちょっとイクス!!落ち着いて!!

大丈夫よ!!」


「あはは〜!僕、彼に相当嫌われてるみたいだね!

まぁ仕方ないか〜。君を誘拐した犯人だもんね!」



ちょ、ちょっと黙って!!

Jの軽口を聞くだけで、イクスがピクリと反応するんだからー!!


ここは早く本題に入ろう!!



「闇市場について何か知ってる!?」


「……闇市場?」



Jの赤い瞳がキラッと光った。



「闇市場の事が知りたいの?


僕はてっきり家から追放されたのだと……」



Jの言葉にイクスがすぐに反応した。


あっ!!追放の事言うなよーー!バカ!!

そんな事イクスは知らないんだから!



「追放?リディア様が追放なんてされる訳ないだろ」


「そっそうよね!追放なんてされないわ!」



余計な事言うな!という視線をJに送ると、Jはニヤッと笑っていた。



「なるほどね。わかったよ。

……で、闇市場の何が知りたいんだい?」


「闇市場に参加する事はできないかしら?」


「何か欲しい物でもあるの?」


「そういう訳じゃなくて……。

どんな物が売られているのか興味があるのよ」


「ふーーーーん……?」



ここに来るまでの間、イクスと話し合って決めた事がある。



それは、Jにドグラス子爵や万薬の事は話さないという事だ。


ナイタ港湾や隣国の窃盗団の件は、イクスが調べる事になった。

騎士同士の繋がりなどもあるため、その辺はイクスでも調べられるらしい。



だが闇市場に関してはイクスでも分からないため、Jを頼って来たのだ。

闇市場に参加するのを手伝ってもらうだけで、その本当の理由は話さない。


コーディアス侯爵家の不利になる事を話す必要はない、というイクスの考えだ。



そのため、ただ闇市場に興味あるだけのフリをしてみたのだけど……なんだかJにはウソがバレてる気がするわ。

ドグラス子爵の件までは気づかれていないだろうけど。



Jはニヤニヤしたまま立ち上がり、指をパチンと鳴らした。



「リディの頼みならなんとかしましょう!

闇市場に行きますか!」


「えっ!?いいの!?」



あまりにも軽くて拍子抜けしてしまう。


それに、本当にJは闇市場の事を知っているのね。

知っているかどうか、自信はなかったんだけど……。


しかも闇市場にも連れて行ってくれるなんて、思っていた以上に頼りになる情報屋だわ!



「ありがとう!いつ連れて行ってくれるの?」


「え?今から行くよ!」




「…………え?」



イクスと2人でハモッてしまった。


え?なんて?今から行く??



「闇市場は満月の夜にしかやっていないんだよ!

まさに今日さ!


今日を逃せばまた来月になっちゃうけど、どうする?」



なんですって!?


満月の夜にしかやっていないの!?


来月……までは待っていられないわ!

なら今日行かないと、なのよね。



え……。なんか展開早すぎてついていけない!!



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