62 イクスに怪しまれています
さて。
ドグラス子爵の件をどうするか、改めて考えるとしますか!
エリックとカイザの力は借りれないからね。
まずは何をすればいいのかしら?
メイが淹れてくれた甘くて美味しい紅茶を飲みながら、今日も私は頭をフル回転させていた。
まず、やらなくてはいけない事……。
それは今現在、子爵の悪巧みがどこまで進んでいるかの確認ね!
子爵の財政はすでに赤字でひっ迫しているのか。
隣国の窃盗団とはすでに繋がりがあるのか。
万薬はもう密輸しているのか。
万薬を闇市場で売っているのか。
これらを全て確認する!!
…………どうやって?
……どうやって確認すればいいのよ!!
ここでは私はただの15歳の美少女よ!?
子爵が密輸してるのか、闇市場にどんな物が売りに出されているのか、調べられる訳ないじゃない!!
詰んだ。
開始早々、詰んだわ。
エリックやカイザなら、色々なツテとかあって調べられるんでしょうね……。
執事のアースにお願いしても、きっとエリックに無断では動いてくれないわ。
どうすればいいの……。
誰かいないかしら。
自由に動けて、貴族の事や闇市場の事や窃盗団の事までもを調べられるような、そんな人……。
…………。
…………Jは?
そうよ!!兎のジャックのJ!!
彼なら全部調べられるわ!!
「Jに会いに行ってみよう」
「Jって誰ですか?」
!?
いつの間にか、気配もなく隣にイクスが立っていた。
「イ、イクス!!いつの間に!!」
「もう随分前からいますけど。
リディア様の百面相もずっと見てましたよ」
うそ!?
わ、私……考えていた事、声に出していなかったわよね?
「ところで、Jとは誰ですか?」
イクスは深い緑の瞳で真っ直ぐ見つめてきた。
『J』という名前は聞かれてしまったのね……。
どうしよう……。
兎のジャックに誘拐された事、イクスはまだ根に持っている。
まさかその誘拐犯に会いに行こうとしてるなんて事がバレたら、絶対に止められてしまうだろう。
……下手したらエリックやカイザに告げ口されてしまうかも。
「Jってなんの事?
私、そんな事言ってないわよ?」
Jとはどこかの令嬢よ。などというウソをつくよりは、最初からJなんて言ってない!って言い切った方がいいわよね。
知らんぷり作戦よ!!
「……確かにJに会いに行こうと言っていましたが?」
「え?そんな事言ってないわよ!
もし言っていたとしても、ぼーーっとしてたから無意識だったのかな?」
私はJなんて知らない言ってない!を貫き通すわ。
イクスは納得のいかない顔をしていたが、これ以上討論を続けても無意味だと悟ったのだろう。
それ以上何も言わなかった。
ただ、その後ずーーっと怪しむような目つきで見られていたけどね!!こわ!!
これは早いところ動いておいた方が良さそう……。
昼間に街へ行くと言ったら、確実にイクスとメイがついて来るだろう。
でもそれは困る。
私とJが繋がっている事も、ドグラス子爵の事も知られたくはない。
となると、夜中に抜け出すしかない……よね。
実は小説のリディアは、よく夜中に屋敷を抜け出しては夜の街に遊びに出ていた。
そのためリディアが使っていた屋敷の抜け道や街への近道など、私は全部知っているのよね。
屋敷を抜け出す……かぁ。
チラッとイクスを見ると、イクスは思いっきり不審そうな顔で私をじーーーっと見つめていた。
な、なんかバレてる!?
めっちゃ怪しまれてるんですけど!!
今日はイクスと出来るだけ目を合わせないようにしよう!!
私はイクスに顔色を見られないようポーカーフェイスを装いながら、今夜の脱走計画を立てることにした。
深夜0時。
1度ベッドに入っていた私は、ゆっくりと起き上がって服を着替えた。
すぐに若い女性だとバレないように、真っ黒のマントで全身を隠す。
なんだか漫画に出てくる魔法使いみたいだわ。
深くフードを被れば、顔も見られないだろう。
よし!!準備はOK!!
あとは誰にもバレずに屋敷から抜け出すだけだわ!
カチャ…
静かに部屋のドアを開けて廊下に出る。
屋敷の中は静まりかえっていて、人の気配もない。
足音をたてないようにゆっくり歩き、キッチンにある裏庭へと出られるドアから外へ出た。
この裏庭に、リディアがよく使っていた抜け道があるのだ。
運良く今日は満月だったので、月明かりだけである程度はよく見える。
たしか……この大きな木の奥に……この辺の草むらに……。
小説の話を思い出しながら、抜け道を探す。
…………あった!!
小さく、人が通れるトンネルのような抜け道を発見した。
ここを抜ければ、Jのいる街へすぐ行けるわ!
トンネルをくぐろうとしたその時、左腕をガシッと掴まれた。
えっ!?
振り返ると、そこには冷めた目つきで私を睨んでいるイクスがいた。
怒っているような呆れているような、色々な感情を抑えているような表情だ。
「あ、あらイクス、こんばんは」
なんとか笑顔で挨拶してみるが、余計に強く腕を掴まれただけだった。
……うん。これ、離してくれそうにないわね。




