55 皇子に興奮してごめんなさい
本日の主役、第1皇子様とターナ様が入場してきた。
周りからは拍手と歓声が上がっている。
そのまま会場の中心まで出てきて、そこで2人は踊り始めた。
1番最初のダンスは主役が踊るのが決まりだ。
みんなに見守られながらのダンスは少し恥ずかしそうだが、ターナ様も第1皇子様も笑顔で楽しそうだった。
最初のダンスが終わると、みんな続々とホールへ進んで行っては踊り始める。
サラがいなくなった事を全く気にも留めていない様子のエリックは、変わらずどこかの男性と話を続けていた。
サラは戻ってこないのだろうか…?
扉の方に視線を向けた時、ふいに隣にいたルイード皇子が私の前に歩み出て手を差し出してきた。
「私と踊っていただけますか?」
ふおおおおお。
よく異世界漫画で見るシーンじゃん!!
実際に皇子様にされるとヤバいな!!
胸がキュンキュンしちゃいます!!
「よ、喜んで」
そっと皇子の手を掴むと、今日1番の笑顔をいただいてしまいました。
ぎゃーーーーーー眩しいっ!!!
皇子オーラやべぇ!!キラキラ半端ねぇ!!
なんだこの破壊力!!
しかも自然と腰に手を当ててきましたけどぉーー!?
お前っ!!意外と手が早いわね!!
純粋そうに見せかけて、実は野獣ですか!?
しかも顔も近いんですけどぉーーーー!!
ヒール履いてるからそんなに身長差ないのよね!
顔を上げたらキスしちゃいそうな距離感じゃないのよぉーーーー!!
実はプロの遊び人なの!?そうなの!?
…………って落ち着け私!!!
ダンスってそういうモノだから!!!
遊び人でも野獣でも変態でもなく、これが普通なのよ!!
落ち着け!!
「リディア?どうかした…?」
踊りながら、ルイード皇子が心配そうに声をかけてくれた。
きっと私の挙動不審な様子が出ていたんだわ。
……でもね、そのイケボで耳元で囁くのはやめてっ!!
「ふーー…。いえ。なんでもないです」
なんとか笑顔を作ってそう答えた。
まさか、あなたの事を手慣れたプロの遊び人だと思ってしまったなんて、口が裂けても言えない。
無事に踊り終わり、ほっと一息ついた時……。
ルイード皇子が私の右手を優しく持ち、その甲にキスをした。
皇子の唇が甲から離れ、上目遣いのルイード皇子と目が合う。
彼は少し照れ臭そうに頬を染めて、にこっと微笑んだ。
はい!!!死ぬ!!!
ぬあんだぁぁーーーーその笑顔はぁぁーーーー!!
マジモンの天使かよ!!
手に!!手にキスされましたぁぁーーーー!!
ヤバいヤバい!!
手の甲にルイード皇子の柔らかい唇の感触がしっかり残ってるーー!!
これはアレですよね!?
上から私が唇重ねて「間接キスー」なんてノリでしていいやつじゃないですよね!?
それをしたら変態ですか!?ダメですか!?
だって推しアイドルがキスしてくれたんですよー!!
はぁはぁ。
いけない、興奮してはダメよリディア。
ルイード皇子に引かれてしまうわ。
それによく見て周りを!!
距離が近く、なにやらいい感じの雰囲気を出していたらしい私達に、貴族令嬢達からの視線が集まっていた。
みんな目を輝かせながら、少し興奮した様子でこちらをチラチラ見ている。
中にはルイード皇子と踊りたくて、皇子の近くで列を作っている令嬢達もいた。
これは……私が離れた途端に囲まれちゃいそうね。
ルイード皇子にとっては初めてとも言える社交界の場だし、きちんと色々な方とお知り合いになっておくべきだわ。
私はダンスの終わりを告げるお辞儀をして、ルイード皇子から離れた。
皇子が何か言いかけていたが、すぐに近くにいた令嬢達に囲まれてしまっていた。
がんばれ!!ルイード皇子!!
出来る事なら、新しい婚約者候補の方を見つけてくださいね。
皇子は可愛くて好きだけど、やっぱり王族との結婚なんて私には無理だわ。
喉が渇いたので、何か飲み物を……とキョロキョロしていると、いつの間にか私も男性に囲まれていた。
「リディア嬢。次は私と踊ってくれませんか」
「ぜひ私とも」
えっ……。
紳士的な振る舞いの中に、どこかギラギラとした肉食のオーラを感じてつい怯んでしまう。
けれど気づけばすぐ後ろも囲まれていて、逃げられない状況になっていた。
やだ!!なんかこの男たち怖いんですけど!!
絶対に手とか握りたくないわっ!
でもどうやって抜け出せばいいの!?
「俺の妹に何か用ですか?」
その時、後ろからエリックの声がした。
カイザとイクスを怯えさせたあのフェスティバルの日のように、無表情エリックからは何かとてつもない威圧感を感じる。
私を囲っていた貴族の男性達も、みんな顔を真っ青にして笑顔で去って行った。
「エリックお兄様」
「リディア。ルイード皇子から離れるなと言っただろ」
エリックは少し怒っている様子だ。
今もまだ周りにいる数人の貴族男性に向けて、鋭い視線を送り続けている。
「ごめんなさい。喉が渇いて…」
「それならここではなく、令嬢の控え室を利用するといい。
椅子や飲み物、軽食が準備されているはずだ。
男性は入れないから安心しろ」
おお!!そんな場所があるのね!!
エリックが近くにいた王宮のメイドを呼び、案内を頼んでくれた。
控え室にも一応格式があるらしく、私は侯爵家令嬢としての控え室へ案内された。
ふーー……しばらくはここで休んでいようっと。
部屋には座り心地の良さそうなソファが並び、テーブルにはクッキーや小さいケーキが置いてある。
小さな鈴を鳴らせば、専属のメイドが紅茶を用意してくれるらしい。
ルンルン気分で1番大きなソファに座った。
ふかっ…。
とても気持ちいい。
あーー私、もう今日はパーティーのラストまでずっとここに居たいわぁ〜!!
その時、部屋の入り口からは死角になっていたソファに……サラが座っているのが見えた。
…………ん?
サラも私を見て固まっている。
…………えーーーーと。
先程の発言、撤回してもよろしいでしょうか?
私、今すぐにこの部屋から出たいです。




