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悪役令嬢に転生したはずが、主人公よりも溺愛されてるみたいです[web版]  作者: 菜々@12/15『不可ヒロ』1巻発売
本編

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53 サラの勘違いvsロイド皇子!?


「サラ様…」



私の声を聞いて、少し離れた所に座っていたロイド皇子が振り返った。

目が合ったが、すぐにプイッと横を向いただけでその場所に座ったままだ。



あーーもう!

今はロイド皇子と和解したいのにーー!


なんでこんなタイミングでサラが出てくるのよ!



サラの後ろには化粧室がある。

きっとそこに行っていただけで、ここで私達が会ったのは本当に偶然なのだろう。



「リディア様!あなたに聞きたい事があったんです!

あなたは、もしかして転生……」



すごい勢いで私に迫ってきたサラが、ロイド皇子の存在に気づいて口をつぐんだ。


ロイド皇子はまたしてもこちらをチラッと見ただけで、すぐに興味なさそうに顔を背けた。



興味はなさそうだけど……聞こえてはいるみたい。

ここで転生の話をする訳にはいかないわ。


それはサラも同じ気持ちらしい。

私をジロッと睨んだだけで、『転生』という言葉は出してこなかった。


……サラも馬鹿ではないみたいね。



それに安心してそのまま素通りしてくれる事を期待したが、ダメだった。


サラは一転して明るい調子に戻り、話を続けてきた。

私達の他にも人がいるので、いつもの通り猫を被る事にしたらしい。



「こちらで何をされていたのですか?

私、てっきりリディア様は帰られたのだと思っていました。

エリック様とも一緒にいなかったし」



え?なぜ帰ったと?


王族用の別室にいただけなんだけど…。

エリックってば、その話はしなかったのかしら?



「まさか。なぜ帰るなんて…」


「だって、今日はリディア様の婚約者様は来れなくなってしまったのですよね?

お1人で参加されるのは寂しいかと思いまして。

てっきりお帰りになったかと…」



はあ?


婚約者が来れなくなった?



その言葉に、さすがにロイド皇子が振り返ってこちらを凝視してきた。

どういう事だ!?というオーラをひしひしと感じる。


そんなの私だって聞きたいわ!!



「あの…婚約者様ならちゃんといらしてますが…」


「まぁっ!!まだご存知なかったの?」



サラは可哀想…というような雰囲気を出しているつもりらしいが、口元が笑っている。


コイツ女優にはなれないな。


少し嬉しそうに見えるサラは、それでもがんばって申し訳なさそうなフリして説明してきた。



「私、実は昨日お会いしたのよ。あなたの婚約者様に。

……こんな事言いにくいのですが、彼はどうやら私の事を好きになってしまったみたいでして。

私が他の男と2人で参列する姿は見たくない…と言って、本日の参加を辞めてしまったのです」



ロイド皇子が口をポカーンと開けたままサラを見つめていたが、サラは気づいていないようだ。



「ごめんなさい。リディア様。

私のせいで、あなたの婚約者様が来れない事になってしまって…」



サラは悲劇のヒロインに酔いしれているようだ。

わざとらしい同情の声に、思わず吹き出してしまいそうになった。



きっと、サラが言っているのはサイロンの事だ。

小説の中でリディアの婚約者だった、サイロン・ダーグリヴィア。

彼は主人公に一目惚れする設定だった。


サラの事を好きになってしまったという話は恐らく事実なのだろう。

今日パーティーに来ないというのも、事実だろう。



だがサラは勘違いをしているのに気づいていない。


今のリディアの婚約者は、サイロンではなくルイード皇子なのだ。



気づくと私のすぐ側にロイド皇子が来ていた。

ものすごく怪しい人物を見るような目つきでサラを見ている。



「おい。リディア。

なんなんだ?この女は。

一体どうしてこんなふざけた事を言っているんだ?」



突然この女呼ばわりされたサラは、眉をピクッと痙攣させながらロイド皇子を見た。

そしてロイド皇子の胸元に輝く王家の紋章を見て、慌ててお辞儀をした。



「もういい。すぐに去れ」


「は、はい。失礼致します」



サラは私を見る事もないままその場を去って行った。


離れて行くサラを睨んでいたロイド皇子は、ハッとしたような顔をすると私に向き直った。



「い、今のは!!

むこうの態度が悪かったから…」



慌てて何か言い訳をしている。



あぁ。さっき私が「きちんと挨拶を返せ」って言ったから……気にしているのね。

意外にも反省してくれていたのかしら?


思わずふふっと笑ってしまうと、ロイド皇子の顔は真っ赤になった。

ルイード皇子にそっくりだ。



「大丈夫ですよ。わかっています」



ロイド皇子は安心した様子で、私に尋ねてきた。



「それよりも今の話はなんだ?

あの女には虚言癖があるのか?

ルイード兄さんがあの女を好きになるなんてあり得ないし…。

まさか、お前は他にも婚約者がいるのか?」



疑っているような目だ。



「いる訳ないじゃないですか!!」


「じゃあ何故なにも言い返さなかったんだ?」


「言い返そうとしたらロイド様が出てきたんじゃないですか」



先程のやり取りを思い出したらしいロイド皇子は、少し気まずそうに小さく「そうか…」と言っていた。


あれ?なんか……普通に話せてる?

生意気な皇子が、少しだけ素直になったような気がする。



「リディア嬢。ロイド。大丈夫?」



我慢できなくなったのか、ルイード皇子が探しに来てくれた。

ロイド皇子は少し照れ臭そうに頷くと、走って部屋へと戻って行った。



ルイード皇子は私を見てにっこりと笑った。



あぁ…眩しい。

アイドルスマイル100%って感じね。

中庭で見ると爽やかさも100%だわ。



それにしても、あの場にルイード皇子がいなくて本当に良かった。

思い込みでサイロンの話をされるなんて、想像もしていなかったわ。

色々面倒な事になるところだったわね…。


私もルイード皇子に促されて部屋へと戻った。



皇子と一緒にパーティー会場に現れた私を見たら、サラは一体どんな反応をするのかしら…。


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