52 やはり1人はいるんですね。生意気属性の男子が
王族であるルイード皇子とその婚約者であるリディアは、王族専用の扉からパーティー会場へ入る事になっている。
エリックと離れ、私はその扉隣にある部屋へと通されたのですが……。
あらやだ。奥には陛下がいらっしゃるわ。
この国で1番偉い方よね。
その隣にいるのが第1皇子かな?
その隣は第1皇子の婚約者様?
手前にいる少年は、もしかして第3皇子?
あらあらまあまあ。
王族だらけの集まりね〜。うふふ〜。
……やだもう!!帰りたい!!
え!?なによこのキラキラの世界!?
私ここに居てもいいの!?ねぇ!!
思わず入り口で足を止めてしまった私を、ルイード皇子が心配そうに覗き込んでくる。
「リディア嬢?どうかされましたか?」
「え?あっ……いいえ。大丈夫ですわ。うふふ…」
もう笑って過ごすしかないわ。うふふ。
とりあえず、皆様にご挨拶よね。うん。
まずは陛下からだわ。
陛下の前まで進み、挨拶を交わす。
貴族令嬢としてのお辞儀をすると、陛下は「これはこれは…」と小さい声で感心していた。
「久しぶりだな。リディア嬢よ。
今日はまたさらに美しいな。ルイードともお似合いだ。ははは」
「ありがとうございます。陛下」
その後は第1皇子の前に歩み出た。
顔を見るのは初めてね。
第1皇子は爽やかでとても明るい雰囲気の皇子だった。
ルイード皇子と同じく銀の入った薄いブルーの髪に、男らしいキリッとした顔。
可愛いルイード皇子とは全然タイプが違うが、どこか似ている気もする。
第1皇子にも挨拶&お辞儀をすると、とても嬉しそうな様子で話しかけてきた。
「君がリディア嬢か。
陛下やルイードから聞いていた通り、本当に美しいな。
会いたかったよ」
「光栄でございます」
第1皇子の言葉を聞いて、隣にいるルイード皇子がまた顔を赤くしていた。
まるで秘密をバラされてしまった子どものように焦っている。
「こちらは私の婚約者、ターナだ。
仲良くしてくれると嬉しい」
第1皇子に婚約者と紹介されたターナ様は、笑顔で私の手を握った。
なにやら少し興奮しているようだ。
「はじめまして。ターナ・イグランテです。
リディア様にお会いできるのをずっと楽しみにしていましたの。
まぁ〜本当に、なんて可愛らしいのでしょう!」
……うちのメイド達と同じような顔をしているわ。
可愛い子が好きなのかしら?
「こちらこそお会いできて嬉しいです。ターナ様。
リディア・コーディアスと申します」
「そんな他人行儀はやめてください〜!
私達、義理の姉妹になるのですから」
「……まぁ。そう…です…ね。うふふ…」
そのうち婚約解消すると思いますけどねー!
とは言えない雰囲気よね…。
最後は第3皇子だ。
レクイム公爵はこの子に王位継承させたかったのよね…?
本人はそんなのよく分かっていないのだろうけど。
年齢はまだ12歳だと言っていた。
日本でいったら小学6年生くらいじゃない!
第3皇子はルイード皇子と瓜二つといっていいほどそっくりで、とても可愛い顔をしていた。
成長は遅い方なのかな?
リディアもそんなに背は高くない方だが、まだまだリディアよりも小さそうだ。
第3皇子とバッチリ目が合ったので、にこっと天使の微笑みを返してみた。
第3皇子は目を細め、毛虫を見るような目つきで私を睨んだ。
「頭悪そうな顔だな。
ヘラヘラしておかしいんじゃないのか」
突然の第3皇子の発言に、部屋の空気が凍りついた。
ルイード皇子はかなり焦って、「ロイド!!」と叱っていたが無視されていた。
ほぉほぉ。なるほどなるほど。
生意気なクソ餓鬼属性の皇子のようね。
ルイード皇子にそっくりだから、つい同じような可愛い属性かと勘違いしてしまったわ。
やっぱり1人はいるのよね、こういう天邪鬼のようなキャラが。
きっと小さい頃からレクイム公爵に煽て上げられながら育ったのでしょう。
そうよ。この子は何も悪くないわ。
だから落ち着くのよ。リディア。
いくら生意気なガキが嫌いだからといって、相手は王族!!
一応皇子様なんだからね!!
「お気を悪くさせてしまったならごめんなさい。
私、リディ……」
「お前なんかどうでもいいよ!
早くあっちに行け」
ぷっちーーーーん。
「ロイド!!」
ルイード皇子が怒ってくれているが、もちろん効果はなし。
陛下や第1皇子はため息をついて呆れているし、ターナ様も悟りを開いたかのような顔で座っている。
誰が言っても聞かないワガママ小僧のようね。
私は腕を組んでロイド皇子の前に立った。
先程までの貴族令嬢をめかし込んだ時とは別人のように、顔からは笑顔が消えて見下すような視線でロイド皇子を見つめた。
ロイド皇子が一瞬怯んだような表情になったが、お構いなしだ。
「ロイド様。王族ともあろうお方が挨拶1つまともに出来ないとはどういうおつもりでしょうか?
あなたの気分や私への好意の無さなど関係ないのです。
挨拶を受けたなら挨拶で返す。
こんな当たり前な事も出来ずに、皇子などとは名乗れませんよ!」
しーーーーーーーーん。
……はっ!!
や、や、やっちゃったーーーー!!!!
思わず!!職場に生意気なバカ新人が入ってきた時を思い出して、つい……!!
どどどどうしよう。
婚約解消はいいとしても、これって不敬罪ってやつよね!?
慌てて陛下の方をチラッと見る。
すると、陛下は大声で笑い出した。
えっ!?
それにつられて、第1皇子もターナ様も…ルイード皇子もみんな笑い出した。
ターナ様なんて、目から涙まで出ている。
えっ?えっ?な、なに?
「はははは。よく言ってくれた、リディア嬢!
ロイド、お前の負けだな。ははは」
陛下はとても愉快そうに笑い、ロイド皇子は顔を真っ赤にして私を睨んでいる。
……なんだかロイド皇子には嫌われたけど、婚約解消にはならなそうね。
残念なような安心したような、複雑な気持ちだわ。
その時、ロイド皇子が部屋から飛び出して行った。
えっ!!
思わずロイド皇子を追いかける。
ルイード皇子もついて来ようとしたが、手で制止した。
…これは、私が1人で行って謝った方がいいわよね。
廊下に出るとすぐにロイド皇子は見つかった。
意外にも部屋を出てすぐの中庭に座っていた。
遠くに行ってなくて良かったわ。
……怒ってるわよね?
ロイド皇子は私がいる事に気づいているようだったが、こちらを見ようとはしない。
草の上に座り、ブチブチと草を抜いている。
あぁ…せっかくお手入れされたお庭なのに……。
本当仕方ない皇子ね。
ゆっくりとロイド皇子に近づこうとしたところで、突然後ろから声をかけられた。
「リディア様!?」
この声は……!!
振り向くとそこにはサラが立っていた。
目を見開きながら私を強く見つめて…いや。睨んでいる。
げっ!!こんな所でサラに会っちゃうなんて!!
皇子がすぐ近くにいるのに、いきなり転生の話なんてしてこないわよね!?




