44 カイザ目線
今日はリディアをフェスティバルに連れて行く日だ。
ただの平民の祭りだし、そんなに危ない事もないだろう。
要注意なのは暴漢ではなく浮ついた男共。
リディアを狙って声をかけてくる男共を片っ端から排除する事。
それが今回エリックから頼まれた内容だ。
全くとんだ過保護になったもんだぜ。
いくらリディアが可愛くても、平民の格好をさせて横に俺とイクスが立っていたら……誰も声なんてかけてこないだろ。
一緒に歩いているだけで、特に何かする必要はないはずだ。
そう思っていたが……。
「お前……。あの女には近づくなよ?わかったな?」
「は、はい!すすすみませんでした!!」
今日何人目になるであろうか。
浮ついた男がまた1人走って逃げて行った。
祭りの雰囲気にやられているのか、リディアを一目見た瞬間に周りが見えなくなったのか……。
先程からリディアに声をかけようとしてくる男共が後をたたない。
リディアに気づかれる前に俺とイクスで処理しているが、地味に疲れるな。これ。
あ。処理と言っても、路地裏に引きずり込んでちょっと脅してるだけだ。
暴力は振るっていない。
何事もなかったかのように、またリディアの隣に立つ。
リディアは長い金髪を高い位置で一つに縛っていて、白くて細い首が露わになっている。
大きな薄いブルーの瞳はキラキラ輝きながら街の様子を見ていて、自分を見つめる男共の視線には全く気づいていない。
顔にタオルを巻いて隠そうか?
それとも気味の悪いお面でも付けて隠そうか?
どうにかして男共にリディアを見せないようにしたいが、できる訳ないな。
しばらく祭りを楽しんでいると、少し離れた広場で腕相撲対決をしているのが見えた。
なんだあれ!!おもしろそうだなっ!!
挑戦してみたくてウズウズしていると、リディアが行っていいと言ってくれた。
後ろを確認すると、イクスもすぐ近くまで来ている。
よし!!じゃあちょっと行ってくるか!!
と走り出した時だった。
後ろからイクスの叫び声が聞こえて、俺は振り向いた。
リディアのすぐ後ろに、ふざけたウサギの仮面をつけた男が立っている。
その男の腕が、リディアを捕まえようとしていた。
「リディア!!」
イクスも俺も走り出したが、間に合わない。
男はリディアを肩に担ぎ、足速にその場を去って行く。
行かせるかよ!!
追いかけようとした時、目の前には大勢の平民達が立ちはだかった。
なぜかみんな笑顔だ。
「大丈夫だ。兎のジャックだよ」
「少ししたら無事に帰ってくるから安心しなさい」
「あれは娘達にとっては希望なんだから。
選ばれて良かったじゃないか」
口々になにか言ってくる。
なんだ?兎のジャック?
攫われたのに、無事に帰ってくるだと?
それよりも、どけ!!早くしないと……!
なんとか平民達をかぎ分けて前に出たが、すでに男の姿はなかった。
同じようにやっとで前に出てきたイクスも、男のいた方向を見てぼう然としている。
「くそ!!」
なにをやっているんだ!!俺は!!
イクスが平民達に話しかけている。
どうやら先程聞いた『兎のジャック』とやらの事を詳しく確認しているようだ。
なにが兎のジャックだ。
ふざけた仮面なんかつけやがって!
平民達から情報を集めてきたイクスが、俺のところまでやって来た。
「どうやら無事に帰されるというのは本当のようです。
毎年のフェスティバルで数人の娘が攫われるそうですが、皆数時間後には無事に帰ってくると。
ただ……その数時間、貴族の男性達との食事を楽しむのだそうです」
「はぁ!?貴族の男と食事だと!?」
「貴族の娯楽の1つのようですね。
娘達には成り上がるチャンスもある事から、むしろ自分から参加したいと思っている娘もいるそうです」
なるほどな。それでさっきの拍手や平民達の態度って訳だ!
ふざけやがって!底辺貴族風情が!
「……という事は、そのクソ貴族達がリディアを侍らせて楽しむって事か?」
「……そういう事ですね」
イクスの顔には激しい怒りの感情が出ている。
きっと俺と考えてる事は同じだな。
「そのクソ貴族達の食事をしてる場所っていうのは、どこだかわかってるのか?」
「過去に行った事のある娘に聞きましたが、わからないそうです。
ただ、高級そうな店だったと」
「この平民街から人を抱えて行ける距離で、貴族しか入れない店……となれば、絞れるな」
「すでにいくつか候補は上がっています」
イクスは今にも動きたくてウズウズしているようだった。
それは俺も同じだが。
「よし。ぶっ潰しに行くぞ!」
「はい!」
「この際だ。クソ貴族共を全員誘拐犯として捕まえてやる!」




