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悪役令嬢に転生したはずが、主人公よりも溺愛されてるみたいです[web版]  作者: 菜々@12/15『不可ヒロ』1巻発売
本編

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37 それがイクスの一目惚れした顔なの?おかしいですね


この主人公…もしかして、私と同じ転生者!?


しばらく無言のまま見つめ合う私とサラ…。

サラは一瞬イクスの方をチラッと見ると、姿勢を正して謝ってきた。



「リディア様。先程は失礼な事を言ってしまい、すみませんでした」


「えっ?あ……いいえ。大丈夫です」



サラには笑顔が戻っていた。

こうして見ると、小説の主人公のイメージそのままだ。

先程の暴言と低い声は、気のせいだったのかな?



「エリック様にお会いしたかったのですが、お断りされてしまって…。

せめてご挨拶だけでもしたくて、勝手に来てしまったんです」



ぶわぁっ…と、漫画なら彼女の周りに花が舞っていた事だろう。

言っている事はただの迷惑発言極まりないが、彼女が言うとこんなにも健気なオーラを出せるものなのか。


これが主人公パワーか!!

すごいな!主人公って!


サラから出る花の舞(空想)は、目の前にいるイクスに満遍なく降り注いでいる。

まるで男女が恋に落ちる漫画のワンシーンのようだ。



あっ!!もしかして、これでイクスはサラに一目惚れしちゃったんじゃないかしら!?

そういえば一目惚れする設定だったわね!

2年早いけど、出会ってしまったのだからイクスの恋はスタートしてしまうのだろう。


一目惚れ……って、どんな表情してるのかしら。

照れてる?赤くなってる?放心状態?

ちょっと興味あるわね。


イクスが今どんな顔しているのか見たくて、こっそり横から覗き込んでみる。



!?


イクスは、まるで子猫だと思って追いかけて行ったらただのゴミ袋だった時のような、至極残念そうな目でサラを見ていた。



えぇ!?なにその顔!?

一目惚れ!?それ一目惚れした顔なの!?

イクス……わからないわ……。


イクスは残念そうな顔のまま、サラに言った。



「ですがエリック様は今本当にお忙しいので、お会いするのは難しいかと思います。

後日またお越しいただきますよう…」


「お願いっ!!本当に少しでいいのっ!」



イクスの言葉を途中で遮り、可愛いらしくおねだりをしている。


大きな瞳は微かに涙目になっているし、背の高いイクスを見上げているから絶妙な上目遣い!

シスターのようなお祈りのポーズをしておねだりをすれば、また主人公パワーのキラキラ感炸裂だ。


小説の中のイクスなら、即OKを出してしまうレベルの甘え攻撃ね。



「申し訳ございません。本日は無理です」



はっっっや!!断るの早ッ!!

1秒も迷わず断ったわね。

あれ?小説でイクスがサラのお願いを断った事なんてあったかしら?



……ないわね。

今サラがあまりにビックリしすぎて放心してるくらいだもの。

きっと彼女も断られるとは思ってなかったんだわ。


でもイクスが断ってくれて良かった。

もし私が断っていたら、悪役令嬢っぽくなってしまうかもしれないし。

虐めカウントに入れられたりしたら大変だもの。



「……わかりました。では、今日はこのまま帰ります。

でも!!帰る前に、少しだけリディア様と2人きりでお話したいんです。

それくらいなら良いでしょう?」



めげないサラは、再度キラキラパワーを発揮してイクスを見つめ直した。

これくらいのお願いならいいでしょ?と顔に文字が書いてある。


イクスは、白シャツに付いたカレーのシミを見るかのような忌々しそうな目で主人公を見ていた。


また変な顔してるわ……じゃなくて!!えっ!?

2人きりでお話ですって!?


無理。無理無理無理。

本当はまだ会いたくなかったくらいなのに、2人きりなんて怖すぎる!


小説の話より前の2人の関係がわからない。

というか会っていなかったはず……。


ここで私達が関わったら、未来はどうなるの?

私の処刑エンドは遠くなる?近くなる?

わからないから怖い!


イクスが返事をしないので、サラは私の方にぐるんっと顔を向け至近距離まで近づいて来た。

ひぃっ!その迫力に思わず一歩下がってしまう。



「ねっ?リディア様!いいですよね?

私、義理の妹になるリディア様とは仲良くしたいんです!」



私には主人公パワーは使ってこない気らしい。

甘えたお願いというより、まるで脅迫のようなオーラを感じる。

顔は笑顔だが、どこか怖い。


あれっ?これ、断れなくない?

仲良くしたいって言われてるのに断ったら、私が悪者よね?


サラが何を考えているのかわからない。

少なくとも、本気でリディアと仲良くしたいなんて思ってはいないだろう。

だって目が笑っていないもの。


でも何を話そうとしているのかは気になるわね…。

どちらにしろ断れないのだし、覚悟を決めるしかないか!



「イクス。サラ様と2人にさせて」



私がそう言うとイクスは不満そうな顔をしたが、渋々離れてくれた。

姿は見えるけれど声は届かない距離に立っている。



向かい合う私とサラ。

さぁ!一体何の話をするつもり?


無言のままサラを見つめると、サラは突然悲しそうな顔をして私の手をぎゅっと掴んだ。



ん!?え、な、なに!?



「わかっているわ、リディア様。

あなたは……私が憎いのよね?

大好きなお兄様の婚約者だから、恨んでいるのでしょう?」



……ん!?



「え?別に恨んでなんか……」


「いいのよ!私にどんどん文句を言っていいの!

我慢しないで!ほら!」



サラはどんどん顔を近づけてくる。

台詞だけ見たら親切な事言ってるのだけど、怖いっ!!

漂ってくるオーラがなんか怖いっ!!



ななななに!?突然なんなの!?

文句を言っていい!?

そんな事を言わせてどうするのよ?


私は悪役令嬢になんかなりたくないから、文句なんて絶対言わないわよ!



「大丈夫です!文句なんてないです!」



私がそう言ってサラの手を離そうとした瞬間……



「きゃあああっ」



主人公が突然叫んで大袈裟に地面に倒れた。



は?



イクスが慌てて駆け寄って来た。

倒れている主人公と放心状態の私を、交互に見ている。

私からの説明を待っているようだが、ごめん。私も現状がよくわからない。


主人公はわぁっ…と泣き出した。



「わ、私はただリディア様と仲良くしたかっただけなのに…。

突き飛ばすなんてひどいです……うぅっ」



は?



え……なによそれ。私、突き飛ばしてないけど?


でもこの状況。

地面に倒れて泣く可憐な主人公と、それを見ている悪役令嬢。


うん。小説や漫画でよく見るシーンね!


……って、ちょっと待て!!!

これ……私がバッチリ悪役令嬢を再現しちゃってるじゃないのよ!!




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